- Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022512048
作品紹介・あらすじ
【文学/日本文学小説】江戸から離れた東北の山深い村で突如、民が消え去った。隣り合う二藩の対立、お家騒動と奇妙な病……。怪物はなぜ現れたのか?北の民たちはその”災い”にどう立ち向かうのか―!?現代を生きる読者に希望と勇気をもたらすファンタジー冒険時代小説。
感想・レビュー・書評
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R1.5.20 読了。
歴史怪獣小説。「つちみかどさま」なる蛇やトカゲやガマなどの容姿にたとえられる巨大な怪獣が次々と村々を襲う。身体は硬い鱗で覆われて、口からは可燃性で人を溶かす酸性の液体を吐き出す。しかもみるたびに形態が変化し進化する怪物。また、呪術、間者など気になるワードも物語を盛り上げます。
時代は江戸期。人々はこの怪物をどのようにして退治したのか。
ともかく面白かった。長編565ページもあったのに一気読みでした。最後は少しだけ心が温かくなりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時は元禄、太平の世にあって東北の小藩永津野藩と香山藩
隣合わせの二藩は、燻り・いがみあっていた。
特に永津野は、八年程前に曽谷弾正という男が現れ、権力を振るうようになって
状況はさらに悪化《人狩り》まで行うように…。
遡れば二つの藩は源はひとつなのに…。
香山藩の山間二谷村が、一夜にして人々は殺され・逃散し壊滅状態になる。
隣り合う二つの藩の因縁。
奇異な風土病を巡る騒動…。
不穏をはらむこの土地に【怪物】は現れた。
二谷村の香山藩では、奇異な風土病に罹りお家騒動に巻き込まれた直也や
からくも逃げ切った少年・蓑吉らが、
反目する永津野藩では、藩主側近の弾正や心優しき妹・朱音らが
山での凶事に巻き込まれていく。
恐るべき怪物の正体とは?
交錯する北の人々はそれぞれの力を結集し【怪物】に立ち向かう…。
時代小説を読み慣れていないせいか、最初はとても読み進まなかった(。>ω<。)
しかし、無関係に香山の人々や永津野の人々が登場して物語が進み
それぞれの視点から描かれ、場面が交互に転換し、次第に絡まってゆく。
物語が進むにつれ物語に入り込みするすると読めました。
宮部さんはやはり恐るべき描写力です。
【怪物】の芯にあるのは、敵を平らげようと欲する人の業の塊。
人の性を人の業を罪は忘れられても消えぬと言う事。
人間の性や業や愚かさ・欲・妬み・憎しみ…それが怪物になる。
やって良い事と悪い事がある。
しかし、同時にそれを打ち破る愛や知性も人間には宿る
人間の誰しもが抱える二面性…善と悪
また、世代間で引き継ぎ守る事の尊さや危うさ
そんな事を感じました。 -
これって本当にある神話ベースなのかなぁ、と思いながら読み進め
何だか難解だなぁと、となかなか読み進まず。
しかしながら、じわじわと不可解な正体不明な生きものが姿を現して迫ってきて、皆が集結して解決に至る、という流れの中で、やりきれないながらもぞくぞくしてきます。
呪いや憎しみに狂ってるとはいえ、どうしようもなくホラーな展開と
どうも腑に落ちない、やりきれない部分があって、何とも言えないもの悲しさの残るお話でした。
朱音様が潔すぎ。それはないよ。
人の弱さ、強さ、気高さ、醜さ、罪深さ、非情さ、優しさ。
諸々の想いがそこにあって、展開は奇獣パニック映画みたいな感じなのに、ほんとなんとも言えない後味です。
きちんと読んでいくとちゃんと面白いし、登場人物もそれぞれチャーミングだし、消化しきれていない部分も多々残っているんだろうけど、また読みたいとはなんとなく思えないかも。 -
冒頭───
つんのめるように駆ける、駆ける。
裸足の指がつかむ土の感触が変わった。小平良山を登りきるまで、あと少しだ。
蓑吉は足を緩めた。走るのをやめると身体中の力も抜けてしまい、よろめいて地面に倒れ込んだ。ようよう腕をついて頭を上げ、胸をあえがせて息をつく。
夜の森に、聞こえるのは己の激しい呼気ばかりだ。蓑吉のほかには誰もいない。
───先に行け! 小平良様を登ったら、滝沢へ下りろ!
蓑吉を番小屋から追い立てるとき、じっちゃが大声でそう叫んだ。
歴史小説というか、時代小説というか、そういうものを読んだのは久しぶりな気がする。
そして、そんな小説を読んで涙したのは初めてかもしれない。
五代目将軍、徳川綱吉の時代。
主藩と支藩という関係ながら、内実は敵対関係にも近い心情を持った、永津野藩と香山藩が存在していた。
その境には大平良山がある。
ある日、香山藩の仁谷村に突然謎の生物が現れ、一夜にして町を壊滅させた。
その正体は何なのか?
どこから、何故に現れたのか?
恐ろしいまでに強力な力を持った不死身の“化け物”。
人間たちは懸命に立ち向かうが、まるで歯が立たない。
その“化け物”の出生の秘密には、驚きの事実が隠されていた。
───ラストのクライマックスシーン。
自らが引き起こした過去の過ちを払しょくするために、永津野藩の小台様、朱音は切ない覚悟を胸に怪物に対峙しようと決意する。
自分の命を賭して、知り合ったすべての人たちを救おうとする朱音。
その朱音を何とか守りたいと願う周りの人々。
その姿に、その心情に泣けた、涙が零れた。
人は助け合って生きていかなければならない。
他人を思いやり、優しい気持ちを抱き、いざとなれば自らを省みず他人を助ける。
そんな思いを持ち続けることがいかに尊いことか、この本は熱く教えてくれる。
さすが宮部みゆき。
とても読み応えのある、そして感動に打ち震える素晴らしい歴史小説だった。 -
荒唐無稽の もののけ物のお話です♪ 元々は主藩と支藩の葛藤があるのだが起こしてはならないモノノケが蠢き出して大変な惨状となる。誰も止められないモノノケを唯一止められるのが.....
そこには哀し過ぎる裏事実が存在した!
表紙を開いた途端に目にした 装画 こうの史代 にびっくり、かの「この世界の片隅に」の作者ではないか!思いがけない出逢いのおみやげに嬉しかった♪ -
宮部みゆきで怪獣物ということで、前から読みたかったのを、やっと読みました。
冒頭の何かが起こっているけど、なんだかわからない様子が、まさに怪獣物としての導入で、引き込まれました。それぞれの立場から探っていく様子や、出現時のインパクトも引き込まれていく感じで、おもしろく読み進められました。
最後も自分としては、好きなきれいな終わり方と思いました。
登場人物の背景や二つの藩の事情が、たくさん盛り込まれていて、それぞれを理解するのは、ちょっと手間かもしれませんが、きちんとそれぞれ終着させているのも、よいです。 -
宮部氏による歴史奇譚小説
著者の作品は特に好きではないのですが、新聞連載が面白かったと薦められた一冊
登場人物が多く、物語に入り込めるまで時間がかかりましたが、徐々に面白くなっていきました
次々人が死んでいく話ですが、それが何を意味するのかを思えば、感じ入るところもあります
ちょっと、あいつを連想してしまいますが・・・
NHKでドラマ化されるそうですが、映像化できるのでしょうか? -
宮部みゆきの書く時代小説は、人の心の機微がとても繊細に描かれる。
宮部みゆきの書く現代を舞台にしたミステリには、辛い真実にも目をそむけずに現実を受け入れる、強い心を持った人がよく出てくる。
宮部みゆきのファンタジーは、現実には起こり得ない出来事を通して、成長する過程が詳しい。
そんな宮部みゆきの小説の心地よい部分が、ひと塊になった小説。
読んでいてその筆力に圧倒される。
何が起こったのかわからないまま壊滅した村。
山を挟んで隣り合う村。となりだからこそ反目しあう藩。
稲作だけでは生きていけない貧しい村で、心優しい人たちがつましく生きている。
怪物。お家騒動。
ひとを使い捨てて顧みることのない、藩主側近。
思いやりが人の心なら、憎しみも人の心。
解き放たれた恨みの心には、敵も味方も変わりはない。
“最初から味方を喰わせようちゅうてぇ、怪物をつくるバカはねえ”
“「こうしたことをみんな、誰も悪いと思ってしているのではない。よかれと思ってやっているのだ」
呪詛にしろ、お山の怪物にしろ、曽谷弾正が永津野でやった養蚕の振興策や、人狩りでさえもそうだ。我が藩を富ませるため。我が藩の領民のため。大事な家族のため。この地に生きる民を守るため。”
“きっと、誰かがこの事を覚えていなくてはならないからだ。
人の性を。人の業を。罪は、忘れられても消えぬということを。
「よかれと思い、より良き明日を望んで日々を生きる我々が、その望み故に二度と同じ間違いをせぬように、心弱い私こそが、しっかりと覚えておかねばならない」”
朱音の生き様。
蓑吉の行く末。
私も深く深く考えることにする。
架空の藩、架空の土地の物語ではあるけれど、今の福島県が舞台になっている。
となると、自ずと考えてしまうのは…。 -
他の人のレビューを読んでいるとそれほど面白くないのかなと思っていた。最初は読みにくく、時間もかかったが四分の一ほど読むと話に引き込まれていって、最後は夜中読んでしまった。
宮部さんの本で怖いのは人だけれど、今回はあまり恐怖は感じなかった。でも話としては、面白かった。 -
時代物が続くと現代物を読みたくなる。現代物が続くと時代物が読みたくなる。宮部みゆきとは、そんな稀有な作家である。待望の新刊は時代物。ある意味、宮部流時代物の頂点を極めたと言えるだろう。宮部みゆき、大爆発だっ!!!
舞台は陸奥国にあるという架空の藩、永津野藩と香山藩。元々は一つの藩だったが、関ヶ原後の紆余曲折を経て分離した。元禄太平の世にあっても、両藩は敵対関係にある。ある日、香山側の山村が一夜にして壊滅した。逃げ延びた少年が永津野側で保護される。彼の話は到底信じがたい。ところが、ほどなく正しいことが明らかに…。
宮部流時代物と怪異は切っても切り離せない。怪異をテーマにした傑作は数多い。ところが今回は…ずばり言ってしまおう。本作は時代物にして怪獣小説なのだっ!!! 宮部みゆきにしか書けない。というより、宮部みゆき以外、書くことは許されない。
この怪獣というのが、現代に出現したら、自衛隊が出動するレベルの強さである。いや、ウルトラマンに来てほしいかもしれない。江戸当時の武器では歯が立つわけがない。それでも勇猛果敢に立ち向かうのは武士の矜持か…。
怪獣が大暴れする描写に呆気にとられながら読んでいたが、両藩の複雑な関係、それぞれのお家騒動、謎めいた人物たちの背景が次第に明らかになるにつれ、こんな荒唐無稽な設定なのにすっかり引き込まれ、説得力を感じるようになってくる。
すべての発端は、結局人間の身勝手にあった。ならば、後始末をつけるのも人間しかあるまい。とはいえ、運命のあまりに過酷なことよ…。
ようやく一件落着かと思いきや、若き香山の藩士は自らの考えに戦慄する。本作は怪獣小説だと書いたが、読み終えてみれば、描かれているのは実は人間の業であることに気づかされるだろう。宮部流時代物は、常に現代社会に通じるテーマをも突きつける。
でもやっぱり、怪獣なしでも十分訴える作品にできたのではという感が拭えないかな。