あちらにいる鬼

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.80
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本棚登録 : 986
感想 : 149
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022515919

感想・レビュー・書評

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  • 著者が自身の、父と母、不倫相手の瀬戸内寂聴との関係を書いた本だと知り何ともすごいなと読んでみたくて。
    白木が本当に女性にだらしなさすぎてびっくりの連続だったし奔放すぎる!そしてとにかく夫人が寛大すぎる。2人の女性は白木から何故離れられないのか不思議でならなかった。
    普通不倫は憎まれる事なのに、何だか最後の方2人の関係性がすごいなーいいなーってちょっと思えて不思議だった。

  • いやいやなんとも味わい深い。とても良かった。蓮の葉のような小説。ここ何年かで1番いいかも。
    井上荒野読んだ事なかったんだよな、そう言えば。これから暫く荒野週間だ。


  • なんと言ったらいいのだろうかこの小説は。

    自分の父と、不倫相手の女性と、そして自身の母、三人の間で何十年と続いていた関係性をここまで書ききることがまずすごい。そして読んだ側に、誰しもにあたたかな感情を抱かせてしまうこともすごい。家族であるにも関わらずいい意味で客観視しているというか、でも赤の他人ではここまでの距離感は出せない絶妙さ加減。

    話はだいたい半分あたりでがらっと様相を変える。前半は良くも悪くも男と女の憎愛とでも言うべき感情が、白木を中心に渦巻いているけれど、長内みはるが出家を決めた後は、雪が降る中でもごうごうと燃える頼りがいいある炎のようになる。しんしんと降り積もる感情が、炎で瞬く間に溶けていく。これが愛なのか分からないけれど、憎くも感じてしまっていたような愛が、ただ愛として燃え続ける機会を得て、その役を真っ当していくような。

    そして男と女以上に、女と女の関係性、夫婦とは、さらには人間と人間のあり方についてとても考えさせられる。きっとわたしもこの場にいて、母と父の不倫相手がつかず離れずの距離にあり、さらには墓も一緒にすると言われたら、到底理解ができないだろうと思う。でももうその理解の域に、三人はいない。当人たちですら理解できないものがあるのだろうと思う。それは自分を誤魔化し、嘘を本当のように動かしてきたツケとも言えるかもしれないが。誰から見ても、あちらにいるのは鬼にしかならず、ただその鬼から見れば自分も鬼。咎められるべき存在であるかもしれないということも、少し念頭において生きたい。

  • 瀬戸内寂聴が絶賛するのがわかる。

    この関係性でこの作品を作れる技量?的なものを感じた。
    どっちにもよらず、どっちの想いも掬い取っている感じ。

    良作、という言葉がしっくりくる作品

    2020.1.31
    14

  • 不倫とか若い男との性愛とかの話かと思いきや、
    主人公の女小説家が出家するところで、物語はぐるんと変化していく。後半がすごく良かった。人を愛する事はいいなぁと思った。

    心に残った一文。
    「はっきりと言葉にできないものを言葉にしようと奮闘している」
    何か書こうとする時の私の気持ちと共感した。一方でまた、それは作者本人のこの小説全体について言っているようにも思えて印象的だった。

  • 作家・井上光晴と瀬戸内寂聴が愛人関係にあったのは有名な話だろう。
    その事実をもとに、井上光晴の娘・井上荒野が書き上げた作品。
    仮名になっているが、瀬戸内寂聴と井上光晴の妻の二人が交互に、一人称で語るスタイルになっている。

    瀬戸内寂聴(作中では長内みはる)は井上光晴(作中では白木篤郎)と出会う前は、夫と娘を捨て愛人のもとに走ったという情愛の深い破天荒な女性。
    この小説によると、愛人との関係に行き詰まったころに井上光晴と知り合い、男と女の関係になった。
    白木篤郎はどうしようもなく女にだらしない男で、彼の妻(作中では白木笙子)と愛人である長内みはるは、シンパシーを感じ合い、次第に惹かれる存在になってゆく。

    瀬戸内寂聴が出家したのは1973年で、ニュースになったのは何となく覚えているが、それは井上光晴との関係に区切りをつけたかったからだったのだ。
    白木篤郎ががんで亡くなり、その妻も病気で亡くなるところでこの小説は終わっている。

    瀬戸内寂聴は現在97歳。
    井上荒野に「何でも話すわよ」と2人の関係を小説にするのを薦めたのは他でもない瀬戸内寂聴だったそうだ。
    作家として力量を認め合った関係だからこそそういう成り行きになったのだろうが、父の愛人と母との対比を書き上げる気分はどんなものであっただろう。

    同時に、「私小説、私もそろそろ書きたいな」という気分にさせられた。
    また白木篤郎はトランプ占いが趣味で、しばしば女性の興味をひくために用い、またそれがよく当たっていたという件も面白かった。

  • これはよかった。若い人にはよくわからないかもしれないし、こんなの絶対おかしいと思う人もたくさんいるだろうから賛否両論は免れない思うけど、そんなことはどうでも良いと思わせるような力のある小説だった。

    寂聴さんの本を読んだり、実際に会って話を聞いて書いたとのことだが、後半276ページからは、寂聴さんが書いてる文章のように思えてきて唖然としてしまった。本を書く人同士がわかる凄みというか、覚悟というか。

    井上荒野恐るべし。

    あっぱれ。

    人は恋愛をしてナンボよな、まったく。

  • 作者の父・井上光晴さんと瀬戸内寂聴さんの不倫と井上家との関わりが題材の小説。この題材を小説にした井上荒野さんに作家としての凄味を感じます。題名の中の「鬼」は作家である登場人物達、「あちら」は作家の世界の事だと感じました。

  • 井上荒野 著「あちらにいる鬼」、2019.2発行。瀬戸内晴美・寂聴のだらしない生き方が嫌いなので、彼女をモデルにしたこの小説、読むのには抵抗がありましたが、話題性に負けてw、一読しました。面白くなかったです。失礼しました。

  • 不倫している作家の父親と、有名な女流作家の恋愛を軸に母親の心情を丁寧に描いている。これは私小説と言えるのかわからないけれど、娘がこれほど繊細に、淡々と親の三角関係を描けるものなのだろうか?井上荒野の作家としての資質が想像以上であった。

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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