読みなおす一冊 (朝日選書 509)

制作 : 朝日新聞社学芸部 
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022596093

感想・レビュー・書評

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  • 「読みなおす一冊」という書評集を読む視点を、わたしは「紹介される本」というものではなく、「わたしならばどう書評を書くか」という視点で読んでしまった。よって、150人ほどいる評者の中から、わたしは、知っている作家で、かつ知っている(必ずしも読んでいない)本を中心に見てゆく。
    参りました、が★★★。
    良いんじゃないの、が★★。
    わたしとどっこいどっこい、が★。

    ⚫︎瀬戸内寂聴「にごりえ」
    未読。寂聴は「樋口一葉は処女では無い。半井桃水だけでなく、久佐賀義孝にも身をまかせただろう」と推察している。作品の中にある「女の子に肉の秘密」。寂聴の真骨頂。★★★
    ⚫︎石牟礼道子「黒い雨」
    石牟礼道子にかかると、わたしの読んだ「黒い雨」とまるで違う世界が広がる。広島の町を遡上するウナギの幼生。「やあ、のぼるのぼる。水の匂いがするようだ」★★★
    ⚫︎水木しげる「雨月物語」
    水木しげるは「上田秋成センセイ」と呼んでいるんだ!唯一、わたしにも書けそうな書評だった(^_^;)。でもわたしには水木しげるのような「体験」はない。★
    ⚫︎つかこうへい「リア王」
    全くの新解釈!楽しい!★★★
    ⚫︎開高健「嘔吐」
    わたしは「嘔吐」は未読だったが、サルトルについては1家言あった。開高健の書評の密度と精度には感服しかない。★★★
    ⚫︎樋口敬二「雪」
    中谷宇吉郎の「科学のすすめ」的な性格を書いているが、学者の文章で、感情に訴えるように書いていない。★★
    ⚫︎都筑道夫「日和下駄」
    未読。永井荷風の東京散歩らしい。歩けば今でもほんの少し面影があるらしい。‥‥それから35年。現在はどうなっているか。歩いてみたい。★★
    ⚫︎寿岳章子「第二の性」
    中学生の時に「いやらしいことを書いているのに違いない」と思ってドキドキしながら買ったわたしのエピソードとは真反対の真面目な書評でした。「82年生まれ、キム・ジヨン」と比較をしたら面白いかもしれない。★★★
    ⚫︎前登志夫「遠野物語」
    文章は素晴らしいのだけど、ほとんど遠野物語の力かもしれない。でも選択と紹介順番は良かった。★★★
    ⚫︎梅原猛「ツァラトストラかく語りき」
    途中本。哲学者が人生で最も影響を受けた本を語るのに、3000文字も要らない。脱線を含めて、面白く見事に纏めていた。★★★
    ⚫︎中島梓「モンテ・クリスト伯」
    未読。簡易版は読んだが、それは原作とは似ても似つかないものだと「書評家」中島梓はバッサリ。彼女の生涯ベストワンという作品。「私はこの本を読んだから小説家になったのだし、私の書きたいのはこういう小説だけなのだ」と100巻にも渡る世界最長の小説を書いた栗本薫の言葉も飛び出した。★★★
    ⚫︎駒田信二「吶喊」
    駒田信二がこんなにも魯迅の労働者性に寄り添って書くとは!★★★
    ⚫︎手塚治虫「銀河鉄道の夜」
    長くなります。結論部分の「ジョバンニは狂言回し、性格的にも描写的にもカムパネルラが賢治自身」については、説得力はない。狂言回しは手塚自身がよく使った創作作法だし、全ての登場人物に作者自身が投影されるのは理の当然。問題は何故書いたか、だろう。カムパネルラで描きたかったかのは、やはり妹の行末だろう、と私は思う。手塚はあまりにも忙しくて思いつきを書いたと思う。それよりも、注目すべき言葉がある。(1)作品は、かなり難解だが映像化と音の時代の現代になって、世代が受け入れることになった。と手塚はいう。←だとすれば、VR時代の今こそ理解される作品だろう。(2)「ひたすら書きつづって忘れてしまう種類の作品がけっこうあるのだ。ぼくの資料戸棚の引き出しを開けると、未完成原稿がぞろぞろ出てくる」←おいおい、聞いてないぞ(「ロストワールド」以外にもぞろぞろあるのか?)!遺族が隠し持ってるのか?★★
    ⚫︎常盤新平「ゴッドファーザー」
    原作は未読だが、あの長い映画は三作を三度観た。過不足なくあの世界を評価して凄い。原作を読みたくなった。★★★
    ⚫︎松谷みよ子「せみと蓮の花」
    未読。しかし、老齢の童話作家が、故人の童話作家・坪田譲治が書いた、老いと死をテーマにした作品の書評をしている。しかも坪田譲治は松谷みよ子に賢治の「春と修羅」を渡して「およみなさい」と言ったらしい。何か深淵の謎がある。★★★
    ⚫︎曽野綾子「夜と霧」
    未読。しかし、何故か内容は承知している、と思っていた。曽野綾子は、そういう賢しらな認識を覆す。★★★
    ⚫︎結城昌治「きけ わだつみのこえ」
    「若い人たちに、今こそ読んでもらいたいと思うのである。新婚旅行でハワイやグアムへゆくのも結構、ゴルフや野球見物をたのしむのも結構だが、現在の経済的繁栄がいつひっくり返るかわからない時代がしのび寄っていることにも気づいていいころなのだ」中曽根の「戦後政治の総決算」について語っているが、もはや手遅れ?戦中生き残りの貴重な言葉。★★★
    ⚫︎杉本苑子「枕草子」
    現代語訳を終えて彼女は約35年前に、巷に広まる「定子中宮を庇った」説を退け「本来非政治的な女性なのだ」と自説を覆す。通常3000文字の書評が、ここだけ倍化している。現代の枕草子研究者は、この杉本説をどう評価しているのか?★★★
    ⚫︎中村真一郎「風立ちぬ」
    師弟関係にあった弟子が、読みなおす書評。何をか言わんや。「80年代の現在では、既に失われてしまったものばかりによって成立している」★★★
    ⚫︎淀川長治「チャップリン自伝(前半)」
    未読。淀川さんは未だ全部読み切れていないらしい。チャップリンをあまりにも好き過ぎて、少しずつしか読めないからだ。よくわかる。私にもそういう本が1、2冊ある。★★★
    ⚫︎大岡信「東西遊記」
    未読。江戸時代寛政年間に刊行、橘南谿の紀行文。中国・九州・四国・関東・東北・北陸で、風俗習慣、珍談奇談の聞き取り、天明大飢饉の描写。「奥の細道」等々の人墨客趣味の紀行文とは真反対、現在のノンフィクションに近い本。流石大岡信、文章発掘の達人。★★★
    ⚫︎河合隼雄「グリム童話集」
    子どもの時の「何故そうなるのか」を、後年心理学者として見事に解き明かした半生を書く。★★★
    ⚫︎堀田善衛「山家集」
    書評というよりか、評伝。しかも、現代にも根深い遁世者としての西行ではなく、「怪異にして、巨人」の姿を顕にする。定家にあまりにも力を入れ過ぎた。西行についても書いて欲しかった。★★★
    ⚫︎佐藤忠男「トリスタンとイゾルデ」
    書評というよりか、文化批評。近松心中物語と中世騎士物語の大きな違いは、青二才か、剛気な騎士か。上原謙、佐田啓二はラブシーンを演じるが、三船敏郎や仲代達矢は演じない。しかし、西洋ではジョン・ウェインやスティーヴ・マックイーンは演じる。★★★
    ⚫︎加藤周一「渋江抽斎」
    途中本。「探偵小説以上に面白い」。つかみから入って、森鴎外の、この無名の人物の評伝の魅力を余すことなく伝える。思うに、書評のお手本のような書評。★★★
    ⚫︎岡野弘彦「死者の書」
    愛弟子のお師匠さん(折口信夫)の代表作の書評にしては、愛が足りないと思うのは、私の無い物ねだりか。★★
    ⚫︎中野孝次「測量船」
    未読。あゝそうだ、三好達治という詩人が居た、戦中も軍歌を書かず、「平明さのなかにある深さ」。★★★
    ⚫︎眉村卓「聊斎志異」
    途中本。子どもの頃からずっと読み続け手元に置いている。この積み重ねが、最晩年の妻への短編集に繋がったのかも。★★★
    ⚫︎大岡昇平「山月記」
    「構成の緊密さと簡潔硬質な文体」それはそのまま大岡昇平にも言える。★★★
    ⚫︎山下洋輔「裸のサル」
    ちょうど山下洋輔さんと同じ頃(74年)、わたしも読んだ。本のインパクトは巨大で、現代はいろんな面で発展、或いは批判されている。流石山下さん、硬軟織り混ぜて優しく書いている。★★
    ⚫︎尾崎秀樹「大菩薩峠」
    未読。えっ?宮沢賢治が「二十日づき、かざす刃は、音なしの、虚空も二つと、きりさぐる、その竜之介」と詠ったの?大逆事件の2年後から連載された、この大長編小説のインパクトを解説して大変面白かった。★★★
    ⚫︎澤地久枝「アンネの日記」
    アンネより1歳下らしい澤地久枝は、50歳代になってやっと紐解いたらしい。未だこの時は完全版は出ていない。当然、歴史的責任に筆が傾く。★★★
    ⚫︎井出孫六「夜明け前」
    未読。島崎藤村の本書が、昭和4年から6年間書き続けられたことを知り、夜明け前の希望が暗いままで終わるのは、時代を反映している可能性を知った。俄然読みたくなった。★★★
    ⚫︎米倉斉加年「鶏の卵ほどの穀物」
    未読。1番脂が乗り切った頃の俳優が、トルストイ舞台化の舞台裏を書いた。★★
    ⚫︎副田義也「忍者武芸帳」
    おそらく何度目かの書評だと思う。4度目の読み直しらしいが、こんなことぐらいしか書けないのか、と思う。★★
    ⚫︎篠田正浩「曽根崎心中」
    近松門左衛門は、事件を知って1ヶ月後に上演に漕ぎ着けたらしい。現代週刊誌並みの早さではあるが、監督はその現代性を余すことなく語る。映画化して欲しかった(なぜ「鑓の権三」の方を映画化してしまったんだろ)。★★★
    ⚫︎紀田順一郎「奇巌城」
    ルパンものの魅力を説得力持って書いた。★★★
    ⚫︎近藤芳美「野菊の墓」
    歌人の伊藤左千夫が、なぜ純愛小説を書いたか。★★★
    ⚫︎伊藤比呂美「シートン動物記」
    この頃彼女は未だ20代だったはず。「わたしは、思いっきり動物を殺してみたい」若さに溢れた書評。★★★
    ⚫︎椎名誠「さまよえる湖」
    未読。椎名誠の生涯ベストワン。何故かというと、奥さんと知り合ったキッカケを作った本だから。いかにも!という書評。★★★

    やはり物書きの専門家には敵わないという結論に至った。1984年から1987年にかけての書評集。現代まで生きている人を探す方が易しいほど。しかも、これを書いて3年以内に亡くなった方があまりにも多い。そういう意味で、豪華で貴重な書評集。

  • 朝日新聞朝刊家庭面に連載されたシリーズの書籍化。
    1984年4月にスタートし、毎週日曜日の週一回、三年間続いたという。
    ブックガイドとして楽しめる内容で、実に130冊分記載。
    ひとり約4ページ分に一冊の紹介で、執筆者の名前には存じ上げない方もちらほら。
    選書が文芸書に偏り過ぎたきらいはあるが、さすがの名作揃いだ。

    興味深いのは執筆者と作品の取り合わせ。
    おお、この人にこの本か、それなら読んでみたいと、そう思わせる。
    以下、いくつか既読本の中から挙げてみる。

    星の王子様  北杜夫
    ソロモンの指環 三木卓
    にごりえ  瀬戸内寂聴
    黒い雨  石牟礼道子
    雨月物語  水木しげる
    昆虫記  安野光雅
    嵐が丘  佐藤愛子
    リア王  つかこうへい
    嘔吐   開高健
    八木重吉詩集 三浦綾子
    レベッカ  夏樹静子
    モンテ・クリスト伯  中島梓
    グリム童話集  河合隼雄
    牧師館の殺人(クリスティ)田村隆一
    ・・私の言っている意味がご理解いただけたかと。

    まだまだある。
    「古今集」については歌人の馬場あき子。(「桜」に特化した流麗な書評になっている)
    「銀河鉄道の夜」を手塚治虫。「欲望という名の電車」は江守徹。「銀の匙」は岸田衿子。
    素晴らしいマッチングで、目次だけでGood Job!と叫びたくなる。
    金井美恵子の「ドリトル先生アフリカゆき」は一瞬ミスマッチかと思ったが、読んでみると全くそんなことはない。金井さん、失礼しました。
    「繰り返し読むのにたえる児童文学」として手放しで賞賛している。

    2日間かけてゆっくり読破。
    選書が良い上に執筆者の腕も素晴らしく、原作を思い出しながら楽しく読めた。
    「人魚姫」は決して悲劇ではないし、「老人と海」で群がるサメはうるさい批評家にたとえられ、「チップス先生」では同じ作者の「心の旅路」を思い出して涙にむせんでいたりする。
    (映画化されたけど、どちらも良かったね)
    中谷宇吉郎の墓に雪の結晶型が彫り込まれているなんて、本書で初めて知ったことだ。
    巻末には「作者と作品」の索引があり3行ずつまとめられているから、こちらから探し出しても良いかも。
    歴史・哲学・近代文学がほぼゼロ。その点にやや不満が残る。

    こういった文芸書の書評が新聞に掲載された時代があったというのが遠い昔話のようだ。
    家庭欄ということは、居間で読まれたのだろうか。
    読んだ後、家族で話題になることもあったのだろうか。
    執筆された人もすでに鬼籍に入られたひとが多い。
    司書さんのお勧めがなければ到底手に取ることもなかったと、感謝の思いでいっぱい。

    • 夜型さん
      「司書さんのお勧めがなければ到底手に取ることもなかった…」このくだりに出会いの御業を見ました。
      素晴らしいですね、ことばの花束。
      「司書さんのお勧めがなければ到底手に取ることもなかった…」このくだりに出会いの御業を見ました。
      素晴らしいですね、ことばの花束。
      2020/09/14
    • nejidonさん
      kuma0504さん、こんにちは(^^♪
      コメントありがとうございます!
      ふふ、Good Job! ですよね、まさに。
      本書のマッチン...
      kuma0504さん、こんにちは(^^♪
      コメントありがとうございます!
      ふふ、Good Job! ですよね、まさに。
      本書のマッチングといい藤沢周平さんの話といい、作家さんの思わぬ面を見るようです。
      手塚さんは、クラシック音楽にも造詣が深く、大変博識な方でもありました。
      銀河鉄道の夜に関しては「ジョバンニは狂言回しでカムパネルラが賢治自身と思われる」と書いています。
      その分析をkuma0504さんはどう思われるでしょう。
      ぜひお読みになってくださいませ!
      2020/09/14
    • nejidonさん
      夜型さん、こんにちは(^^♪
      図書館の展示コーナーに、やけに古い本がずらりと並んでいたのです。
      まだ私がヒトとして市民権さえ与えてもらっ...
      夜型さん、こんにちは(^^♪
      図書館の展示コーナーに、やけに古い本がずらりと並んでいたのです。
      まだ私がヒトとして市民権さえ与えてもらってない頃の本です・笑
      この本もその中にありました。
      驚きのまなざしで眺めていたら「面白いから読んでみて!」と取り出してくれたのです。
      パラパラと目次を見て即決(*'▽')
      夜型さんの「出会いの御業」という言葉も素敵ですよ!
      返却するとき、どんな賞賛の言葉をかけようかと考えています。
      たぶんいつも通りなんでしょうけれどね。
      2020/09/14
  • 次に何を読もうかなと迷った時に、時々開けて、ふむふむと読んで、素敵な本時間を過ごす、幅広くいろいろなことを教えてくれる小学校の先生のような本。
    紹介者が朝礼で、素敵なお話をしてくれる校長先生のような人ばかりなので、読むだけでもけっこうその本を読んだ気持ちにさせられます。

  • 各界の著名人が推す一冊。

  • 最高の読書ネタ帳。あらすじが書いてあるのでそこを読んでしまうと、同じ小説を読む楽しみが減るのは難点か。ちょっとずつ読んでますが、作家の方々が多く、ジャンルもバラバラで中々面白いです。

  • (リリース:ウララさん)

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BN11158294

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  • 05/05 春日部富士書店 ¥50

  • 709夜

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