- Amazon.co.jp ・本 (630ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022642950
感想・レビュー・書評
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宮部みゆきの直木賞受賞作。
宮部みゆきが直木賞作家であることに異を唱える人は誰もいないと思いますが、この作品が受賞作であるのは意外です。犯人当てや超能力者同士の戦闘なんていう、作者がこれまで使ってきたエンターテイメント的な要素がほぼない作品だからです。
ストーリーは、競売で落札された高級マンションに「占有屋」として住み着いていた一家が殺された「荒川の一家四人殺し」事件を、関係者の証言を聞き書きするという形で浮き彫りにするものです。
マンションのローンが払えなくなっての競売、そして、それを妨害し、立退料をせしめる為の占有屋などは、バブル崩壊後にはよく聞いた話でした。そんな世相を背景としつつ、でも、中心にデンと座っているテーマは、家族なんだろうと思います。
作中には様々な家族が登場します。住んでいた部屋を競売に掛けられた小糸家、それを買った石田家、石田の逃亡先の簡易宿泊所を経営していた片倉家、犯人と関係がありそうな宝井家、占有屋として住み着いていた部屋で全員殺された砂川家、ほんの脇役である隣人たちや管理人も、ただ事件について語るのではなく、「家族」とその事件の関わりについて語っています。
犯人の家族に対する考え方、そして、ラスト近くの小糸孝弘の家族に対する考え方に対する答えを、「思いの外近い未来のどこかで、ごく普通の人々が、ごく普通に」答えることができる時期は来ているのでしょうか。この作品が書かれた平成8年から20年近くが経ち、バブル崩壊の疵痕もずいぶん癒えた今、答えることができる「ごく普通の人々」は、幸い少ないように思えます。犯人のような人物は、幸い今でも「全然異質な怪物みたいな人間」です。
バブル崩壊直後、「失われた20年」が始まった頃は、経済だけではなく、人間の両親や家族の暖かさ(一方で面倒さ)までが「失われていくのではないか」なんて気持ちだったんだろうなあ、と今となっては一歩離れたところから思えるのは幸せなことです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
関係者の証言をつないでいく、ノンフィクションのようなスタイルで書かれたミステリです。
超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」の一室で、一人の男が転落死し、さらに彼が住んでいた部屋からは3人の遺体が発見されたところから、事件が始まります。
事件のあった部屋に住んでいたのは小糸家のはずでしたが、その後、小糸家はローンを払えずにマンションを競売にかけられることになり、知り合いの不動産屋を頼って「占有屋」と呼ばれる人びとを部屋に住まわせていたことが明らかになります。
ところが、「占有屋」としてマンションに入った砂川一家は、じつは本当の家族ではなく、それぞれ失踪していた人たちの寄り合い所帯だったことが分かります。さらに、マンションを競り落とした石田直澄という男が、事件当日マンションから逃げ出したことが分かり、警察は石田の行方を追い始めます。
著者が、ストーリー・テラーとしてたいへん優れた才能を持っていることがよく分かる作品でしたが、家族についての著者の「思想」が、しばしば押し付けがましく出てくるところに少々辟易してしまいます。 -
一気に読み進む、まさに傑作!バブルの爪痕は深く、今もなお語りかけてくるかのよう。日本はまだまだ抜け出せていないのだろう、今読んでもグイグイ来るものがある。
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2回目です。
最初に読んだときはとにかく読みにくかった印象でしたが、今回は普通に読めました。
内容はびっくりするぐらい忘れてました。
ミステリーだと思ってましたがミステリー要素は全然なかったです。
傘を武器にお父さんを守ろうとしたシーンで涙腺が緩みました。。。
正直特記することはないような… -
集中して読まないとついていかれないくらい、
わざと硬めに、ノンフィクション風に書かれてる、
という印象。
非常に細かく、いろんな影響が追われていて、
興味深かった。
私も面白く読んだけど、
疲れてる時には不向きかも?
でも、力作で素晴らしいと思う。 -
久しぶりの再読。読み応えのある一冊。
今読むと、この話の犯人は、動機という点で従来の犯罪と一線を画している…というのが、どこかで模倣犯とリンクしているように思えた。小糸夫婦は火車とも相通ずる面があるし…そうやって作家の中で(意図的なのかどうかはわからないけど)作品がリンクしてるんだろう。
社会問題を扱いながらも個々の人間をしっかり描けるのが宮部みゆき。そこが好き。 -
勝手に呼んでルポタージュ風小説。都内のマンションの一室で起きた4人の殺人事件。誰がどうしてどのように殺されたのか。周りの人々の証言から、関係者の人生が浮かび上がってくる。
周囲の人々も嫁姑、家族構成、その地にいて店を経営していて、、とさまざまな人生があってそのちょっとした偶然で事件の関係者と会話を交わしたり関わりを持つようになって、それは偶然のようで必然で、ニュースで紙面を賑わせる「事件」の裏側は、こういうそれぞれの人にとっては苦労も家族も偶然もてんこもりの人生を歩んできた人たちが合わさって起きているものなのだなぁ。ちょこちょこ、マンションの管理人や「隣人」との付き合いや匿名性閉鎖性などの社会的な問題、地域の人の関係、販売会社の戦略や競売とヤクザ的な人の問題など、リアリティがあって、この問題とさまざまな思いが積み合わさった氷山の一番上として、惨殺事件に繋がっていく、基礎固めがすごくよく書いてありました。そして、目撃者の証言から始めていって徐々に核心の関係者に近づき、物件所有者、被害者の家族の証言にまで行っても事件の「真相」が分からない、そのワクワク感ともどかしさで、ページをめくる手が止まりませんでした。話の面白さ、盛り上がりというよりも、ただただ「事件」を、自分の解釈できる出来事と経緯にしてほしい、その分からなさ、がたまらなかった。 -
『模倣犯』がとても面白かったので、他の宮部みゆき作品も読みたいと思って手に取ってみた本作。
自分にはあまりハマらなかった。。
すでに起こってしまった事件を、ルポで解き明かしていく形式だったが、これになかなか馴染めなかった。真相が解き明かされていく面白さもあまり感じられず残念。 -
結局なんだったんだ