- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022643216
感想・レビュー・書評
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河合隼雄さんの「おはなしの知恵」という本を読みました。
表紙が妙にかわいい「かちかち山」の絵ですが(笑)、よく考えたら「かちかち山」って残酷な話ですよね。うさぎがたぬきにした仕打ちは、現実に考えると酷いものです(笑)。
でも、物語ではそれがかえって重要・・というのが、河合先生の論でした。 この本の中に紹介されている「おはなし」は、日本の昔話から、あまり馴染みのないアイヌやケルトの民話、そしてヨーロッパの童話まで幅広く取り上げられていました。
でも、けっこうどこの地域でも、「おはなし」には「残酷さ」があるんですよね。
残酷な話を子供に聞かせるのはよくない・・とされる説もありますが、この本ではむしろ逆です。
残酷な物語を知ることは、「人間にはこのような残酷な闇の部分がある」ということを認識させるためなのだと。
一番恐ろしいのは、「自分は正しい、自分には悪いところなどない」と思い込むことだと。人なら誰しもが持っている暗い影の部分に気付かないことこそ問題なのだというのは、妙に納得です。
自分が一番正しいと信じている人間は怖いです。
また象徴的な意味として、子供の自立のための「おはなし」としてある「父殺し」「母殺し」の物語は世界各地に存在しています。
人間はこのような「おはなし」を通して、親への反抗心を表に現すことの代わりとしていた。でも、今は「おはなし」「物語」が上手く機能しなくなっている。だから、本来物語が代わりを果たしていたものが、今は現実の事件などになって表に出てきてしまっているのだ・・と。この指摘は鋭いなと思いました。
人間には必ず負の感情はあります。その捌け口はどこかに必要で。その役割が「おはなし」だった。
人はいつから「おはなし」を失ってしまったのか・・・考えさせられました。詳細をみるコメント0件をすべて表示