放射能を背負って ~南相馬市長・桜井勝延と市民の選択

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023310674

作品紹介・あらすじ

分断される市民と放射能の不条理。現場を歩き、肉声を集め、地方と中央の矛盾に切り込む渾身のポスト3・11ドキュメント。児玉龍彦東大教授と桜井勝延南相馬市通の対談を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 全交流電源喪失、原子炉の冷却機能の停止。東京電力・福島第一原発
    事故で外部放出された放射性物質は、政府が線引きした同心円のよう
    には拡散しなかった。

    それでも日本政府は同心円での避難区分に拘った。南相馬市は
    10kim圏、20km圏、30km圏に分断される。そして、地震と津波を
    生き延びた人たちを苦しめた「屋内退避」の指示。

    水が、食糧が、燃料が届かない。政府は屋内退避を指示するだけで、
    物流のことまでは考えられなかったのか。まるで兵糧攻めだ。このま
    までは市内に残っている住民の生活が立ちいかなくなる。

    国に、圏に、窮状を訴えて状況は好転しない。市長は勧められる
    まま、ビデオ・メッセージを発信する。動画投稿サイトに掲載され
    たメッセージは、英訳が付けられ世界中で視聴された。

    その桜井市長の半生と、あの大震災と原発事故、放射能汚染への
    対応、その後の住民との対話等、1年間の動きを追ったのが本書。

    「謝ってくれなくていいんです。すべての責任を取ってもらいます」

    謝罪に訪れた東京電力幹部に、凝縮した怒りをぶつける市長の
    言葉を読んでいて、思い出したことがある。当時の東電会長が
    「謝罪と責任は別」と言っていたことを。

    原発事故で真っ先に逃げ出した大手メディアを痛烈に批判する
    姿には溜飲が下がる。尚、相馬野馬追い等の南相馬の歴史も
    勉強になる。

    本書は全体を通して見ると散漫な印象を受けるが、日本にこんな
    市長がいるのかと感銘を受ける。課題山積の復興だが、今後も
    被災地の状況を忘れずに確認して行きたい。

  • 「使命感をもたない人が報道すると、逆にどれだけ被害を被るか知れない」

  • 南相馬に行く前に読んだ本。
    これだけで足りるってことはないけど、南相馬の概要を知るのによい一冊。

    メモ:
    ソーシャル・キャピタルが豊かな地域は、社会的な効率性がよいばかりではなく、健康指標も高い。
    「ソーシャル・キャピタルと健康」(日本評論社)の編者のひとり、ハーバード大学公衆衛生大学院のイチロー・カワチ教授は、「日本人はなぜ長寿なのか」という問いに対して、ソーシャル・キャピタルの有効性を説いている。
    社会疫学を専攻するカワチ教授は、日米豪を比較して、日本人の塩分摂取の高さや過剰なアルコール摂取、喫煙率の高さ、高いストレスや過重労働を指摘し、食生活や生活習慣が長寿の理由ではないと推論する。
    あれこれ要因を探って、最終的に行きついたのが「情けは人の為ならず」「もちつ、もたれつ」「お互いさま」といった日本人の互酬性の規範だという。

    相双地方の被災地のソーシャル・キャピタルは、もともと豊かだった。集落の共同性が、大都市圏と違って、しっかり残っていたと思われる。

    だから、政府が上からの統治の発想で、同心円状の線引きや、機械的な区域割りを押しつけてくると、共同性を破壊される側は激しく反発をする。同じ地域に住む者は、行政の規制で色分けされると、生木を裂かれるような痛苦を覚える。
    それは抽象的な痛みではなく、紐帯を断ち切られ、外へ放り出される苦しみであり、土地とともに生きてきた自己同一性が破壊される痛みなのである。

    こうした社会人類学的な痛苦を受けとめる感受性が、国家の統治機構のなかで急速に薄れている。政治家や官僚が、経済指標や効率性を追い求めるあまり、見えにくいソーシャル・キャピタルを軽んじがちになっている。
    そこに震災復興の本質的な難しさがある。

  • 地震と津波、原発事故という外的要因で、カオス的状況かまもたらされている。天命かもしれない。苦しんでもがいて何とか光を探り出す。

  • 「原子力村の大罪」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4584133352で興味を持った、南相馬市と市長・桜井勝延の本。
    忘れられないために露出してるんだろうな。

    南相馬市と市長の本と書いたけれど、南相馬市の原発事故被害を縦軸に、南相馬市民という横糸をはわせて東日本大震災の絵を織っていく。
    たとえば地震直後に船を沖に逃がした漁師たちが経験した海上の津波、やりすごした波が家族や友人の住む陸へ向かうのを見つめるしかない恐怖。
    農家や酪農家、土地に密着して食っていく人たちにとっての場所の重み。
    話が通じない外の人への苛立ち。
    そして一番太い横糸が桜井勝延。

    興味に従って織り込まれる横糸は、宮沢賢治だったり相馬藩だったり、一見震災や原発事故とは関係なさそうな部分もある。
    しかしその辺のつなげかたが角度を変えた見方を教えてくれて面白い。

    でも「著者の興味」と「登場人物の興味」を混同している気もする。
    相手に興味をもったからその人の興味対象にも興味を持つということはあるけれど、書き方がどうも自分と他人を混ぜてしまっていると感じる。
    表現は常に自分の頭を通すしかないものだけれど、自分の再構築した物語であるということに無自覚な語りに見えるのが気になる。
    ドキュメンタリーではなく再現ドラマを見るような印象。
    悪くはないんだけど。

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著者プロフィール

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「公と私」を共通テーマに政治・経済、医療、近現代史、建築など分野を超えて執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。一般社団デモクラシータイムス同人。著書に『ルポ 副反応疑い死』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(ともに草思社文庫)、『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)ほか多数。

「2023年 『暴言市長奮戦記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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