- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784023311503
感想・レビュー・書評
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読了。戦争での負け方、自分の土地で戦争に負けるという事、負け方を知らないという事、最初から最後まで衝撃の内容に引き込まれる。こういう政治的歴史の背景を今の時代にも持ち込むんだろうな。お勧めしずらいけど面白いよ!!
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前から気にはなっていたが、きっと悲惨な話だろうと思ってずっと手を出せずにいた本であるが、遠藤さんの『チャイナ・ギャップ』を読んで、遠藤さんを理解するには本書をまず先に読まなくてはと思って読んだ。本書はこれまで名前を変えて何回か出ている。同じかどうか比べたことはないが、その中核は変わらないだろう。それはともかく、本書の著者(遠藤)誉れちゃんは、戦前の新京で、アヘン等の中毒患者を救う薬ギフトールを製造していた製薬会社社長の娘として生まれ、7歳までは幸せに暮らしていた。ところが、日本が負けると新京はソ連の進駐、解放軍の進駐、さらに国民党軍の占領と、支配者がつぎからつぎへと変わり、解放軍を除いては略奪にあう。国民党軍が入ってくると、解放軍に包囲され、解放軍は新京の電気と水と食料を絶つ作戦に出る。国民党軍は空からの補給で生き延びるが、一般市民はつぎつぎと餓死していく。誉ちゃん一家も解放区へ向かって逃げのびていくが、解放区への門は閉ざされ、その間に閉じこめられる。この二つの勢力の中間地帯、閉じこめられた地帯が本書の題名のチャーズである。誉ちゃんの兄や弟はその中で餓死するし、誉ちゃん自身も餓死体の上で寝るという過酷な体験をくり返す。そして最後は結核にさいなまれ腕と足を切断する一歩手前までいきながらも九死に一生を得る。誉ちゃんは、過酷な現実にもてあそばれる中で、少女のみずみずしい感受性で、現実と夢の混在した世界を描き続ける。よくこの過酷な現実の中で生き延びたものだと思う。それは、一つには誉ちゃんが敬愛してやまない立派なお父さんがいたからである。お父さんが新京で中国人や韓国人を大事にしていたおかげで、彼女たちが生き延びることができたと言っても過言ではない。お父さんは磯田さんに「無私の日本人」の一人として書いてもらいたいほどの人である。お父さんは金光教の信者だったようで、信仰は人をここまで強くさせるものかと思う。(それと対称的なのは東おじさんとかで、むしろ、かれのような人間の方が多かったかも知れない)誉ちゃんは、解放区へ入ってからも新中国の光と陰にもてあそばれながらも成長していくが、解放後の政治運動の中で、人としての心を失っていく人々を見たお父さんは、もはやこれまでと技術者としての抑留生活を終え、一家そろって帰国する。誉ちゃんは頭のいい少女で、戦後、筑波大の理論物理の教授にまでなった人だが、その片鱗は彼女が解放区から移った天津の小学校でつづけて首席になったことからもわかる。ほとんど餓死したかに思われた弟も戦後医者になったという。頭のいい家系なのだろう。
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国共内戦時において中国共産党軍は長春市への食料封鎖を断行し、何十万の市民を餓死させた。筆者はその餓死体のうえで野宿をしたり、人が人を食べるところを目撃したりして、あまりの恐怖に記憶を喪失する。あることをきっかけに回復した記憶をたよりにこの作品は構成されている。長春市の惨状や彼女の家族の運命も酷いが、それ以上に中国共産党の思想教育、三反五反運動には背筋の凍る想いがした。自分の身を守るために、人は人を簡単に裏切ってしまう事実にも無常さが募る。