左遷社長の逆襲 ダメ子会社から宇宙企業へ、キヤノン電子・変革と再生の全記録

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023319912

作品紹介・あらすじ

キヤノングループのお荷物子会社だったキヤノン電子はいかにして、宇宙企業へと変貌したのか。酒巻氏が社長として赴任してから「会社のアカスリ」で徹底したムダを省き高収益企業へと生まれ変わり、そこで得たお金で人工衛星とロケットという宇宙企業へと参入する。20年の経営改革の全貌をストーリー形式で紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • キヤノン(株)の役員、酒巻久は1999年小会社のキャノン電子社長に就任する。当時のキャノン電子はグループ内のお荷物会社であり、事実上の左遷人事。が、坂巻は腐ることなく、社内改革を進める。社員もビジネスも切るべきところはバッサリ切り、使える社員には更に高い成果を求める。そして、たどり着いたのが宇宙ビジネス。

    実に見事なサクセスストーリー。主人公、坂巻の聖人君子っぷりと順調すぎる経営改革はおとぎ話のようだ。が、宇宙ビジネスへの新規参入なんて、それなりの利益、自社と親会社からの信頼を獲得していなければできなかっただろう。大きな結果には、地道な努力が伴っていることを改めて知る。

    そんな成功譚は認めるが、そこそこの大企業で、赤字でもない小会社への社長就任で、キャノン本体の社長からのバックアップもある人事異動。タイトルの「左遷」、「逆襲」は大げさすぎる。

  • トップの意識で会社は変わる。逆に言えば「魚は頭から腐る」もまた真なり。変革しなければ、死ぬだけだ。
    既存事業がすでに衰退の状況になっているのに、なかなか意識を変革できない。
    それこそイノベーションのジレンマであるが、子会社の場合は特にそういう事例が多いと感じる。
    当方が働く会社も、あるグループ企業の所謂「子会社」である。
    本書に記載されていたようなサボリ社員のエピソードは、正直かつての日本企業は似たり寄ったりだったと思う。
    ある程度親会社から仕事が流れてくるために、自立性は失われ、考えもせずに言われたことだけやるようになる。
    それでも変革しようとして立ち上がる社員もいるはずであるが、大抵は「余計なことをするな」と頭を押さえつけられるのが普通だったのではないだろうか。
    日本企業の停滞の原因は様々あると思うが、こういう内向き思考が蔓延ったことも大きな要因だろうと思う。
    企業文化を変えるのは本当に難しい。
    とにかく日本人はリスクを嫌う傾向がある。特に子会社の社員はその置かれた状況から、リターンを求め大きなリスクを張ることはあり得ない。
    とにかく「言われたことを一生懸命黙々とやる」ということが根付き過ぎていて、もはや「思考停止」としか言いようがない。
    改革をするには、やはり最初はトップダウンだ。
    もし頭が腐っていたら、いくら改革をしようにもどうにも進まないはずだ。
    昼間から仕事もせずにスポーツクラブに行き、碁会に精を出す役員に変革を求めても無駄だ。
    本書でも改革の1年目にまずやるべきことは、「残す人を見極める」と明確に示している。
    これは本当にそうだと思う。
    名著「ビジョナリーカンパニー」でも「誰をバスに乗せるか?」が最重要であると説いていた。
    しかし、これがなかなか出来ない人が多い。
    仕組みの上では、取締役は任期1年だし、管理職であればラインを外せばよいだけである。
    トップ人事を英断できるのは、社長だけである。
    当たり前であるが、スタートはここからなのだと改めて感じた。
    改革のメンバーが揃えば、次は社内業務の棚卸。
    無駄の排除は当然であるが、自社の保有技術や、強みの再認識が実は大事なポイントだと思う。
    さらに社内人材の能力把握が進めば、自然と次の戦略は見えてくるのではないだろうか。
    この状況でも、改革に否定的な人たちは出てくるかもしれない。
    しかし、改革側の仲間を少しずつでも増やして、心折れずに大義を持って邁進するしかない。
    自分たちが「行ける!勝てる!」と信じられれば、人はついてくる。
    改革が進んでいくような気がする。
    本書内では「アイディア募集で、1件につき100円支給」という施策を何度も行っている旨が紹介されていた。
    未来工業でも似たような制度があったが、これは非常に良い取り組みだと思う。
    「現金か?」「たった100円か?」など否定的意見を言う人もいるかもしれない。
    しかし、仮に5,000件のアイディアが集まっても、経費としては50万円程度。
    一人で何件応募してもよくて、100件応募すれば1万円である。
    ほんの数行ずつでも言語化し、100件の企画をひねり出すのは、社員の能力UPには有効ではないだろうか。
    普段から受け身でしか仕事をしていない会社にとっては、充分な刺激策になるような気がする。(それでも応募しない人は多数いるだろう)
    改革はトップから行う必要があるが、上手に仕組みを組み合わせて、末端の現場から自主的に動けるようにしていくのが理想的だ。
    それではミドル層は何をするかということであるが、実はミドルの動きこそ重要となる。
    年齢的にもフットワークが落ちている年代だと思うが、ここが上下それぞれの情報を、どうやってスムーズに社内流通させるかの手腕にかかっている。
    結局、遊んでいる人員がいたのでは会社が機能するはずはない。
    誰もが自分の持ち場で、自分の役割でどうやって力を発揮するか。
    特別な施策は何もない。愚直に当たり前のことをやるだけなのである。
    (2023/5/17)

  • やや前時代的な感もあるが、会社が変革するためにはトップが情熱を持って取り組むことの大切さが改めて分かった。
    ここまでできるかというと全く自信がない。
    後半の宇宙話から急に趣がかわる。

  • 人の動かし方、モチベーションの上げ方などとても参考になった。また、経営について書かれた本の中でも突出して面白かった。

  • 面白かった。
    赤字から宇宙事業への挑戦がすごい。
    また、経営者の人脈のコネクションがすごい。

  • こちら(↓)で書評を書きました。

    https://www.rinen-mg.co.jp/web-rinentokeiei/entry-5563.html

    キヤノン本体から子会社のキヤノン電子の社長になり、見事再建を成し遂げた著者(現・会長)が、その再建の舞台裏を綴った本。

    著者が再建に向けて打っていった手の一つひとつが、理にかなっているとともに情熱みなぎるもので、感動的だ。
    社員たちとのやりとりなども緻密に再現され、ビジネス・ノンフィクションとして大変優れている。

    このまま『プロジェクトX』になりそうだし、このまま『プロジェクトX』になりそうだし、池井戸潤的なテレビドラマや映画にもなりそうだ。

    V字回復後の宇宙事業への挑戦が終盤で綴られるが、それもまた別の面白さがある。

  • 現在、世界で民間企業主導による宇宙開発事業が進んでいる。

    日本においても例外ではなく宇宙事業に民間企業参入しつつある。
    そんな中で、キャノン電子が大きな役割を果たしていることを知る人は少ない。

    本書はダメ子会社とされたキャノン電子がいかにして再生し、宇宙産業に参画できるまでになったかが克明に書かれている。

    酒巻はキャノンから子会社キャノン電子に社長と就任した時、キャノン電子の役員は昼間からスポーツクラブで汗をかき、碁会所に通っていた。
    優秀な社員は数時間で仕事を終わらせ、勤務時間に自分の趣味のサイトを運営していた…

    まず酒巻は社員に、自覚、自発、自治、の精神を教え自ら考え動ける社員へと意識改革をした。
    また徹底的に無駄を削ぎ落とし、高収益を生み出す体質に変化させた。

    更には現状維持は即脱落であると、次世代の基幹産業を育てるべく人工衛星、ロケットなどの宇宙事業に参入する。

    鬼の酒巻と言われただけに、現状維持でよいとする社員、定年まで失敗せずやりすごせば良い、と考えていた者たちにとっては厳しく恐ろしい場所になってしまったに違いない。

    しかし会社が事業を続けて生き残るというのは本当に厳しいものである。

    それを知り尽くしているからこそ、成し得た再生であり成功であったと本書を読んで感じた。

    酒巻がキャノン電子に行くと話があった時、アップルのスティーブジョブズから、うちに来て一緒に仕事をしようと誘われたエピソードか印象に残る。
    キャノンにいたとき液晶タッチパネルを酒巻が手掛けていたのを知っていたからだ。
    その後、そのタッチパネルはiPhoneやiPadで生かされることになる。

    経営者には先見性が求められる。

    現在、和歌山にキャノン電子も関わっているロケット発射場が建設されている。
    早くから宇宙事業を見据えていた酒巻の夢が一刻も早く実現するのを期待したい。

  • 上司に勧められたので読んでみた。内容的には読みやすく抵抗なく読めた。色々な教訓があったけど、挨拶をする。など、取り入れやすい部分もあり参考になった。こう言うサクセスストーリー本を読むと一時的にやる気が出るので、たまに読むには良いかなと思う。

  • キヤノン電子会長の著者が、本体のキヤノンから左遷(実際は再建を託されている)され、当時ダメ子会社だったキヤノン電子へ転籍し、見事に再建。後に念願だった宇宙ビジネスへ踏み出すまでを追っている。

    自らの体験談の本だが、自分を主人公に据えて客観的に、一部関係者以外は仮名で表現されており、ノンフィクション小説のようなノリで書かれている。著者にそういう文才があるのか、出版社による編集のなせる技なのかは不明。

    構成の方法はさておき、酒巻社長は現場を熟知しているだけに「ごまかしが効かず」、現場の管理者達は特に、常に緊張感を持って仕事に向かうことになる。ダメ子会社だった頃の問題点と問題人物をつぶさに排除・改善し、業績も改善している。ダメな会社ほど、トップが「現場を知る」ことと同時に働く人の心理を知る重要さがわかる。

    後半語られる宇宙ビジネスは、こうした積み重ねの集大成のようにも、付け足しのようにも取れる。

  • 素晴らしい人が、多くの人を動かす感動のノンフィクション。宇宙ビジネスの今後も、注目したい。

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著者プロフィール

キヤノン電子社長

「2020年 『仕事の哲学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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