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ひとりだから楽しい仕事
- クォン・ナミ
- 平凡社 / 2023年1月18日発売
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韓国を代表する日本語翻訳者によるエッセイ集。その翻訳作品は小川糸、三浦しをん、村上春樹、朝井リョウ、東野圭吾などそうそうたる顔ぶれ。若い頃には月2冊くらいのペースで翻訳していたらしい。
もはや大御所といえる翻訳者だが、エッセイで語られる日常はいたって質素。シングルマザーとして娘の成長を願い、生活や仕事に対するグチも隠すことなく、ユーモアが添えられる。
日本人との違いを感じるのは、仕事を断ったことや断られたこと、自分の収入のことなどを結構、開けっ広げて語っていること。韓国人らしい自己主張が新鮮で、他のエッセイも読んでみたくなる。
2024年3月15日
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桃源 (集英社文庫)
- 黒川博行
- 集英社 / 2022年9月16日発売
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大阪弁を操るオッサン二人組が飲んで食べてを繰り返して、いつの間にかめでたしめでたし、となる安定の黒川作品。
本作の二人組は刑事の先輩と後輩。彼らに与えられたのは、小さな詐欺事件の解決。犯人追跡を名目に沖縄出張を楽しもうとする二人だが、沈没船引上詐欺に覚醒剤、ヤクザ、殺人が絡み、あれよあれよと事件はふくらんでいく。
とんでもなく拡がる壮大なストーリーの一方、主人公の二人は食事と映画と上司の悪口で盛り上がる。が、ヤルときはヤルの精神は忘れない。痛快だ。
2024年3月12日
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スタバではグランデを買え!: 価格と生活の経済学 (ちくま文庫 よ 27-1)
- 吉本佳生
- 筑摩書房 / 2012年1月10日発売
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2007年、当時の新鋭エコノミストによる市場経済における価格決定のノウハウ本。当時はその斬新でインパクトのあるタイトルでかなりのブームを巻き起こしていたことを覚えている。そのムーブメントに乗った読者の一人として、再読。
なぜ、スタバでショート(Sサイズ)ではなく、グランデ(Lサイズ)を選ぶべきなのか。量は倍だが、価格差はそれほどではない。そして、店側の材料費、労力負担はどちらのサイズもほぼ同じ。社会全体の経済利益を考えれば、客も店もグランデを選ぶことが幸せだ。という結論。
これって、最近のダダ下がりする日本のGDPを回復させる一つのアイデアでは。日本人はスタバでショートしか飲まなくなってしまった。
本書はさらに、コンビニとスーパーでの飲料格差、百均の低価格ノウハウ、子供の医療費無料化などなど、モノやサービスの価格がどのように決まり、消費者はどのように動くのかをわかりやすく解説。ベテラン企業人であれば、知っておくべき常識であり、これから経済を学ぼうとする学生には、よい教科書。
また、バブル崩壊後、iPhone上陸前、日本の元気がなくなりはじめた頃の市場を振り返ることができる「昔はヨカッタ本」。
2024年2月29日
前期高齢者となった著者が一念発起。一人暮らしの身には大きすぎる家と多すぎる荷物に別れを告げて、相応な家への引越を決断する。
まずはモノの処分。次に引越し先を探し求め、持っていくモノをダンボール箱に詰める。そして、転居して、電気、ガス、インターネットの契約とダンボール箱の片付け。
引っ越しネタのエッセイだけで、単行本1冊。改めて、引っ越しってのはこんなにも大変なことを知る。特にモノを捨てることは、体力も決断力の消耗が激しい。
年齢を重ねるに連れて、モノが増えるのはしょうがない。なんてことは言ってられない。
2024年2月19日
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ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー ブルーレイ+DVD [Blu-ray]
- アーロン・ホーヴァス
- NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン / 2023年9月6日発売
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誰もが想像しているスーパーマリオの世界をそのまんまビジュアル化。そのどストレートさに感動。
結局、スーパーマリオ・ムービーに涙や笑い、恋愛、正義、伏線と回収など、映画に当然あるべきものは必要ない。個性的なザコキャラ、変な小道具、誰もが知る効果音、それだけ再現していれば、観客は満足。ストーリーなんか必要ない。
そんな徹底したマリオ至上主義が成功し、何も考えず、鑑賞して楽しめる、唯一無二の映画。
2024年2月18日
日帰りで終わる、何でもない鼻の手術のはずだった。こんな手術で患者が亡くなるなんて誰ひとり考えていなかった。そして起こった悲劇、医療事故からはじまる本書は、医療、航空、法律、スポーツ、科学、政治、教育など様々な分野、業界で実際に起こった失敗事例を集め、それについての対応、結果がどのような影響を未来にもたらしたかを分析する。
著者が失敗に対する姿勢として、最も見習うべきだと礼賛しているのが航空業界。事故が起きれば、真っ先に第者機関がその原因究明を徹底する。犯人探しは二の次。明白な事故の責任者であっても、協力者としての立場を優先させる。そして、その調査結果とその対策は。速やかに業界全体に共有される。
こうしたひたむきな自己研鑽により、航空機事故による死亡率は交通事故や医療事故、冤罪の発生率よりもはるかに低くなった。
著者は説く。成功のプロセスには失敗が欠かせないし、失敗が多いからこそ物事はうまくいく。失敗への責任追及と自己弁護への労力は、失敗を成功につなげることはない。
2024年2月16日
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ダイ・ハード [DVD]
- ジョン・マクティアナン
- ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 / -
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何度見ても楽しめるレジェンド映画。1988年公開後、レンタルビデオやテレビ放送で何度も見て、ストーリーは完全に覚えているんだけど、よくできた伏線に改めて感心してしまう。個々のテロリストたちを含めて、無駄な人物が1人もいないところもすばらしい。
警察とFBIの無能っぷりは、当時の社会の非政府的自由主義の象徴か。
決してヒーロー然とはせず、ボヤきながら、巻き込まれたのでしょうがなく、悪に立ち向かうブルース・ウィリス演じるオッサン主人公に対して、アラン・リックマン演じるテロリストのボスは常に冷静で知的で、仲間を何人失っても作戦遂行に徹する。この2人の対比が本作品の見どころ。
ちなみにダイ・ハードシリーズは第5作まで公開されているが、本作品を観るだけで十分だ。
2024年2月8日
不倫、おやじ狩り、放火。何の関連もない小さな事件が積み重なり、関わった人々の人生を大きく狂わせていく。奥田英朗得意の群集劇サスペンス。相変わらず、緻密な構成で読み応えがある。
主要人物の刑事、主婦、高校生の3人が堕ちていく様はあまりにリアル。夫のささいな不良行為がきっかけで、平凡な幸せを楽しんでいた主婦がすべてを失っていくのは、あまりに救いがなく、不運で片づけるには悲しすぎる。
2002年発表の小説だが、努力しても報われない、誰も幸せにならない、そんな時代が近づいていることを予感していたようだ。
2024年1月26日
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囚われの山 (コルク)
- 伊東潤
- コルク / 2023年5月25日発売
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勤めている出版社でも、家庭でも行き詰まりを感じていた歴史雑誌記者、菅原は明治時代の八甲田山遭難事件の取材を命じられる。投げやりな気持ちで関わった取材だが、意外な謎があることを知る。
うまく行かない人生の中で、唯一、自分を奮い立たせるものを見つけた菅原は事件の真相に深入りしていく。そして、意外な事実が彼を窮地に追い込んでいく。
映画でも小説でも取り上げられ、有名で手垢がついた八甲田山事件を今さら取り上げるなんて。と、小説内の人物も小説の読者も言いそう。が、その不満を打ち破る、意外で強引な展開に圧倒された。ラストの想像もできなかった菅原の将来は、これぞ小説の愉しさ。
2024年1月25日
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ウクライナ侵攻までの3000日 モスクワ特派員が見たロシア
- 大前仁
- 毎日新聞出版 / 2023年2月13日発売
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2022年2月にロシアによる突然のウクライナへの侵攻ではじまり、現在も終わりの見えないロシア・ウクライナ戦争。しかし、戦争はすでに3000日前から始まっていた。それは2014年、ロシアがクリミア半島を強制併合したとき。クリミア半島を足がかりにロシアはウクライナ領土をじわじわと占拠していたのだ。事実上、両国は戦争状態に突入していた。
著者は2019年からクリミア地方を中心とした現地取材を重ね、隣国ロシアからのプレッシャーを受け続けるウクライナ国民の苦悩と分断をレポートする。
ソ連崩壊によりあれよあれよと独立してしまったウクライナは国家も国民も成熟することなく、プーチンのロシアやEU、アメリカなどに翻弄される。その結果、政治は常に不安定。政治経験がなく、自らのライブ公演を選挙活動にしてしまったコメディアン、ゼレンスキーを大統領に選んでしまうことも未成熟な国家ならでは。
長期戦になれば、ウクライナは内部崩壊するはずという信念でプーチンは戦争を続けているのかもしれない。
2024年1月7日
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新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日 (講談社+α文庫)
- 馬場康夫
- 講談社 / 2015年8月21日発売
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1983年、東京ディズニーランドが開業。そのディズニーランドを誘致した2人の師弟プロデューサー、小谷正一と堀貞一郎の行動を描いたノンフィクション。
まず、2人は昭和の大阪万博をプロデュース。その成功をきっかけに、千葉県の広大な土地利用を命じられ、ディズニーランド誘致へ。彼らは当時の日本人とウォルト・ディズニーが何となく求めていたもの、「エンタメ」を理解し、それを具体化することができた。
東京オリンピックに令和の大阪万博。今の世の中、エンターテイメントは利権と賄賂が絡む胡散臭いビジネスになってしまった。が、小谷と堀が苦労して築き上げたエンタメの夜明けはそうじゃない。人々を楽しませ、おカネを回し、幸せをもたらす。そして、彼らには達成感と名誉が与えられる。そんな夢のような話が当時にはあった。
2024年1月4日
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山は輝いていた:登る表現者たち十三人の断章 (新潮文庫 か 96-1)
- 神長 幹雄
- 新潮社 / 2023年7月28日発売
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13人の登山家たちが記したエッセイや紀行文を紹介するオムニバス作品集。
山に登ることは孤独を感じ、その孤独は人に何か書き残したくなる気にさせる。どの文章も名文だ。そして、山への思いも人それぞれ。山に咲く花への感情をつづったエッセイもあれば、たまたま訪れた山で山火事に巻き込まれるエピソード、数千メートルの高地へ挑んだ体験記も。
こうした文章をまとめて読んでいると、彼らは文章を書くために山に登っているのか、と錯覚する。SNSでもブログでも書くことに疲れたら、山に登ってみることだ。
これらエッセイ集のラストを飾るのは名クライマー山野井泰史の極限での登山記。この人の危機管理能力と記憶力と文章力は群を抜いている。
2023年12月31日
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ある行旅死亡人の物語
- 武田惇志
- 毎日新聞出版 / 2022年11月29日発売
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尼崎市のボロアパートで一人の老女が孤独死していた。高齢化現代社会を象徴するよくありそうな事件。
が、話はそこで終わらない。老女が住んでいたアパートは別人が賃貸契約していた。また、老女は片手の指をすべて失っていた。年金の受給手続きもせず、本当の名前も不明。そして、アパート内の金庫には3000万円以上の現金が残されていた。
老女の身元について、警察も弁護士も探偵もわからないまま、彼女は「行旅死亡人」として処理される。そして、彼女に興味を持った若手記者が真実を追う。
よくある推理小説のような展開だが、これは正真正銘の事実。そして、事実ゆえにすべての謎が解決されるわけじゃない。一人の人間の過去を追いかけるなんて限界があるのだ。
伏線回収や衝撃的な結末というのはフィクションの世界のこと。そんな当たり前のことを教えてくれる。
2023年12月29日
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人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー (幻冬舎新書)
- 小野一光
- 幻冬舎 / 2018年11月29日発売
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数々の衝撃的な殺人事件を取材、発表し続けた著者がその取材ノウハウ、印象的な取材の裏話を語る。日本での猟奇的殺人事件が起こると、著者による記事が発表される。そんな唯一無二の存在だ。
前半の著者流の取材スタイル解説は置いといて、圧巻は著者が収監された犯罪者たちとの面会にたどり着くまでと、その面会での石橋をたたく慎重な行動。
相手は殺人の経験者。ささいな一言で、気分を害し、怒りだすかもしれない。が、事件取材を完結させるためには、事件首謀者とのやりとりは絶対に欠かせない。事件に関する発言を引き出すため、やれることは全てやるという意識が伝わってくる。
2023年12月19日
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塞王の楯 (集英社文芸単行本)
- 今村翔吾
- 集英社 / 2021年10月26日発売
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戦国時代の城に欠かせない石垣を造る専門の技術集団、穴太衆。彼らは城主の依頼を受け、石垣の新設、修理を請け負う。時には弓矢が飛び交う戦闘中、兵士に混じって、崩れた石垣を修復することもあった。
そして、城を守る石垣が盾なら、石垣を壊そうとする火器は矛。石垣づくりと鉄砲づくりの若き天才がぶつかる戦国時代の頭脳戦が繰り広げられる。
敵から身を守ることは生きることだ。彼ら、穴太衆は生きるために石を積み上げ、石垣を造り続ける。一方、死後の世界で死者は賽の河原で石を積み上げ、崩れると、また積み上げる。生きることの大変さと繰り返すことの尊さに感動。
2023年12月17日
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中先代の乱 北条時行、鎌倉幕府再興の夢 (中公新書)
- 鈴木由美
- 中央公論新社 / 2021年7月25日発売
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鎌倉幕府滅亡で主要登場人物といえば、後醍醐天皇、足利兄弟に加えて、悪役として北条一族。中でも知名度は低いがキーマンと言えるのがタイトルの中先代の乱を起こした北条時行。
最後の執権となった北条高時の遺児として、北条家の再興を目指した時行は後醍醐天皇による建武新政に対して反乱を起こす。鎌倉を制圧するが、わずか20日間で足利尊氏によって鎮圧される。が、この乱をきっかけに足利家も建武新政に反発。時代は南北朝時代へ。
とはいえ、中先代の乱での時行はわずか9歳。周囲にかつがれての反乱とはいえ、北条家に象徴としての価値があったということだし、時行自身、乱の敗戦後も粘り強く反乱を続ける。父親の仇、足利家憎しでついには幕府を滅ぼした後醍醐天皇の南朝に下ることも。敵の敵は味方を地で行く、当時の武将らしい行い。
本書は学生の頃から北条時行にハマり、歴史学者になってしまった著者による北条時行の推し活本。わずか9歳の頃から時代に翻弄されつつ、20年間を足利家打倒に捧げた人生ロマンを感じるのはわからないでもない。
2023年12月9日
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暗殺から読む世界史
- ジョン・ウイッティントン
- 東京堂出版 / 2022年1月26日発売
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人類史に暗殺はつきものだ。個人や集団にとって都合の悪い人物を排除する手段として、戦争や説得に比べて手っ取り早く、安上がり。ゆえに暗殺される人物の多くは歴史的に知名度があり、その後の世界を大きく変えることになる。
では、古今東西の有名な暗殺を取り上げ、時代ごとに整理分析すれば、唯一無二な世界史が作られるのではないか。そんな著者の野心的発想で作られたのが、本書。
取り上げられた暗殺は、有名なカエサルやケネディ大統領に、暗殺が乱発した日本の幕末。その後の影響力が高さで言えば、第1次世界大戦のきっかけとなったオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子暗殺だろうか。
と、史実から暗殺をひたすらかき集めた著者の努力と数々の暗殺エピソードの面白さは認める。が、暗殺は謎に包まれていることが多く、本書で語られる世界史はボンヤリしているのが残念。「世界史暗殺ベスト10」といった、オムニバス歴史書の方が楽しめたのでは?
2023年11月21日
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A Man Called Otto [DVD]
- -
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社会ルールを守らない奴は隣人だろうが許さず、「このバカが」とつぶやくガンコ親父、オットー。最愛の妻に先立たれ、会社も定年退職。彼は妻の後を追うことを決意し、首を吊ろうとするが、引っ越してきたばかりの騒々しい隣人家族に邪魔され、彼らのドタバタペースに巻き込まれる。
よくありそうなホームコメディーで、なんだかんだで、オットーと周囲は理解し合い、幸せを分け合っていくのは予想通り。そんなありがちな展開ながら、トム・ハンクスのさすがの名演と巧みな伏線、そして名脇役のネコなどで退屈させない。最初からオットーっておせっかい好きの善人、と思わなくもないが、そこはトム・ハンクスの苦味切った表情で笑わせてくれる。
トム・ハンクス、未だ健在を確認できる良質のドラマだ。
ちなみに若きオットーを演じたのはトム・ハンクスの実の息子で演技経験はゼロだったらしい。
2023年11月15日
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深海の使者 (文春文庫)
- 吉村昭
- 文藝春秋 / 2011年3月10日発売
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太平洋戦争時、日本は同盟国ドイツとの物資や人材の移動手段は潜水艦だった。日本を出発した潜水艦は南下し、インド洋、喜望峰、大西洋を経由して、ドイツへ。
敵への攻撃を控え、隠密行動に徹底。航海中の乗員は長時間の潜水時は酸素不足に悩まされ、長期間上陸できなければ、水不足で入浴どころか、洗顔もできない。わずかな接触による被害が即、沈没につながり、乗員の脱出はほぼ不可能。深海で攻撃を受けた潜水艦はひっそりと海底に沈み、記録にさえ残らない。
出発からすでに悲運を背負った潜水艦たちの行動を、著者は残された記録、生存者のインタビュー、さらには敵国側の資料をもとに、本作品で明らかにする。いわば、戦時中の日本潜水艦を主人公にした短編小説集。
よく映画で描かれるドイツのUボートの華々しさとあまりにも違いすぎる日本潜水艦の暗い運命。この違いが特攻隊のような戦術を考える日本人らしい。
2023年11月12日
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兜町の男: 清水一行と日本経済の80年
- 黒木亮
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共産党員、週刊誌記者などを経て、証券業界を描いた「小説兜町」で小説家デビュー。以後、多くの取材スタッフを抱えたプロダクション方式で大量の作品を発表し続けた清水一行の伝記。
彼の小説は実際の事件、人物をモデルにしながら、フィクションとして発表するため、時には訴えられることも。そして、彼は安易な妥協や和解を求めず、裁判で白黒をつける。その合間に後輩作家のデビューに助力し、ゴルフもするし、麻雀もする。作家というよりも、小説制作会社の社長という印象。
本書は、同時代、同タイプの作家として、城山三郎をあげているが、彼と比べて絶対的な代表作や映像化されて注目された作品というのが清水一行の場合、思い浮かばない。作品を自分個人ではなく組織で作り上げたという、中小企業社長的、共産主義的な意識があったからだろうか。
2023年11月11日
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ノマドランド [AmazonDVDコレクション]
- クロエ・ジャオ
- ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 / -
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夫に先立たれ、経済危機で住居も失ったファーンはキャンピングカーでの放浪生活、ノマドを選ぶ。アマゾン倉庫や農場、ゴルフ場などで季節労働をこなしながら、先輩ノマド生活者と交流。彼女にとってノマド生活をこなすことが夫を失った悲しみを忘れられる時だった。
ドキュメンタリータッチのロードムービーで、大きなサプライズもなく、静かに進行するストーリー。地味な作品で、大笑いも号泣するシーンもない。日本人には理解が難しいが、サブプライムローン危機後、こうしたノマド生活がアメリカ社会の一部になっているんだろう。
家を失ったからじゃなく、疲れた人生を癒すためにノマドを選ぶというモチベーションを支えに彼らは生きている。
2023年11月10日
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書く習慣 自分と人生が変わるいちばん大切な文章力
- いしかわゆき
- クロスメディア・パブリッシング(インプレス) / 2021年8月31日発売
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文章を書くことが好きで好きでたまらない著者がそのすばらしさ、手軽さを語る。著者の「書く」ことへの熱量が伝わってくるし、書くことで自分自身を変えられるかもしないと期待してしまう。
ブログやSNSなどで書いて、発信することは誰にでもできることになった。が、その一方で誰からも見られてしまうことに反応し、書くことを必要以上に難しく考えてしまう。
が、そんなことを気にすることはない。くだらないこと、恥ずかしいこと、周囲には言えないことも書く。1日10分でいい。大事なことは書くことを習慣にすることで、中身は二の次だ。
2023年11月9日
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平治の乱の謎を解く 頼朝が暴いた「完全犯罪」 (文春新書)
- 桃崎有一郎
- 文藝春秋 / 2023年7月20日発売
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平治の乱。後白河上皇と二条天皇の対立に平氏と源氏の争いも絡み合い、結果、平清盛率いる平氏が政権の中枢を担うことになる。武士政権のきっかけとなった事件だ。
が、この乱の30年後、源頼朝が発した一言に違和感を持った著者は平治の乱とその前後の文書を徹底的に分析。実は、平治の乱は二条天皇主導によるものであり、天皇の命令で行動していた源義朝は途中の路線変更によって、罪を被せられていた。という、衝撃手な結論に達する。
しかも、源氏はそんな天皇の裏切りを秘密にすることで朝廷へ貸しを作り、その償いとして朝廷に幕府成立を認めさせる。
こうした著者の大胆な説が歴史学会に受け入れるかは別にして、様々な資料と推理力を駆使して、解き明かされる歴史の真相はドラマチックで感動ものだ。
2023年11月6日
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労基署は見ている。 (日本経済新聞出版)
- 原論
- 日経BP / 2017年3月8日発売
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2016年、電通の女性社員が長時間残業を苦にして自殺。これをきっかけとしてブラック企業、サービス残業、労災かくしなど、多くの労働用語が一般ニュースに流れはじめた。そして、注目されたのが労働基準監督署、本書タイトルの「労基署」だ。
労基署で監督官として働いていた著者が経験した企業、労働者への対応を明らかにする。
驚いたのは監督官は企業に乗り込んで、調査して、結論を出して、改善させるまで、基本的に一人で行う。税務署や警察とは異なる。人手不足によるものだが、それによって不真面目に業務をこなす監督官もいるらしい。
苦しんでいる労働者にとっては、十分な人数で労基署が活躍してほしいと思うんだろうが、労基署の目的は企業を罰し、潰すことではない。労働者と企業が仲良くして、ウインウインの関係になってほしい。
そういう意味では、大人数で企業に乗り込んで強制力を発揮するより、監督官個人がやんわりと指摘することの方が、理にかなっている。労働行政において、労基署、企業、労働者が求めているものが微妙に異なるようだ。
2023年10月30日