母親を魔女狩りで火あぶりにされた少年と、彼を拾った変わり者の短い夏を描いた児童書。
舞台は多分デンマークのフィヨルド。
魔女狩りの話だけど、テーマは魔女狩りという歴史的出来事よりも、知らないことに対する恐怖からくるマイノリティの排除にある。
これは評価が難しい。
本としては間違いなく5なんだけど好きじゃない。
ダメだから好きじゃないわけじゃなくて、人にはおすすめしたいというか押し付けたい。
この本の重さを誰かに一緒に持ってもらいたい。
出会ったのが大人になってからで良かった。
子供のころに読んでいたら、きっと意味もわからないまま怖さだけで嫌ってしまっただろう。
後ろの折り返しにあるデンマークでの書評が、本当にその通りだ。
“非常に鋭く、迫力がある。” “ごく普通の話しことばで、ことば少なく語られた格調高い作品”
文章がすごい。
ハンスの瞳の描写で「やさしいとかあたたかいのではなく、善良で力強く、そこにあらゆる陰影を秘めた」というのがあった。
私は「善良」に「人畜無害」を連想してしまう。これは消極的な善良。
害をなさない善良さではなく善をなす善良は、必ずしも穏やかな(だけの)ものじゃない。
巣食われたときに救われたと勘違いしやすいってのは鉄鼠の檻の解脱と同じことだろうな。
原題は「魔女熱」らしい。そのほうが内容にあっている。
でも私は日本語版のこのタイトルで中身を想像して手に取ったから、読む気にさせるという点で成功している。
話は全然違うのに、ずっとダンサーインザダークを思い浮かべてた。
私はあれ嫌いだけど。他の選択はできないのかって。
人魚姫も思い出した。そういえばあれはデンマークか。
人魚姫はある種のハッピーエンドらしいけれど、そのハッピーを私は理解できない。
ついでに主人公の名前がエスベンだから、『エスベンと魔女』(デンマークの民話)を連想した。なんてこった。真逆なのに。
デンマークでエスベンと魔女はどのくらい知名度があるんだろう。名前は偶然だろうか。
ハンスはゲイなのかもしれない。
最初からなんとなくそんな感じがしたんだけど、「長すぎて省略できる自分の話」でそう思った。
誰にでもあてはまるように抽象化された部分に、私はセクマイをあてはめた。
これは自分のこととして考えてほしいってことなんだと思う。