家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040821030

作品紹介・あらすじ

最大の政治団体、家族と国家による暴力。
日々、私たちはそれに抵抗している。

家族は、以心伝心ではなく同床異夢。
DV、虐待、性犯罪。最も身近な「家族」ほど暴力的な存在はない。
イエは「国家のミニチュア」に陥りやすいのだ。その中で、私たちは日々格闘している。いわんや、被害の当事者は闘い続けている。
絶え間ない加害に対し、被害者がとる愛想笑いも自虐も、実はサバイバルを超えたレジスタンスなのだ。
エスケープでもサバイバルでも、レリジエンスでもない。
私たちはレジスタンスとして、加害者に後ろめたさを抱かせる――。

被害を認知することは服従ではなく抵抗だ
■昭和の男らしさは発達障害の特徴
■家族は無法地帯である
■家族における暴力の連鎖は権力による抑圧委譲
■報道では虐待だけが選ばれて強調される
■殴られれば、誰もがDV被害者と自覚するわけではない
■被害者は不幸の比較を犯してしまう
■父のDV目撃が息子をDV加害者に陥らせる
■被害者支援に加害者へのアプローチは必須だ
■彼らの暴力は否定するが人格は尊重する

【目次】
 まえがき――母の増殖が止まらない

第一部 家族という政治
 第一章 母と息子とナショナリズム
 第二章 家族は再生するのか――加害・被害の果てに
 第三章 DV支援と虐待支援のハレーション
 第四章 面前DVという用語が生んだもの
 第五章 「DV」という政治問題
 第六章 家族の構造改革

第二部 家族のレジスタンス
 第一章 被害者の不幸の比較をどう防ぐか
 第二章 加害者と被害者が出会う意味
 第三章 加害者アプローチこそ被害者支援
 第四章 レジリエンスからレジスタンへ
 第五章 心に砦を築きなおす

 あとがき
 主要参考文献一覧

感想・レビュー・書評

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  • 9年前~7年前、信田さよ子さんの母娘関係の本を
    5冊読みました。
    大事と思ったところ書き写して
    繰り返し読んだものです。

    当時、母について悩んでいたというより怒りでいっぱいでした。
    信田さんの本で勉強して、母に立ち向かい
    現在は非常に良好な関係です。
    信田さん、ありがとうございます。

    この本は基本的にそれらのように具体的に何かを起こすようなものではありません。
    〈本書のタイトルは、DVや虐待にかかわってきた私に
    最大のパラダイムシフトをもたらしたフレーズである。〉
    〈女性学の成果を吸収し、社会学の言説を駆使することで、
    初めて家族の暴力の構造が見える気がしたのである。
    こんなの自分だけでしょ、という極私的な経験が、
    国家の暴力(戦争や政治)と根底でつながっているとしたら…。
    そんな私のワクワク感が執筆を駆動した本体である〉

    そういう本ですが、第一部の第六章、
    子どもの問題行動に悩んでいる親御さんには
    とても有用と思われることが書いてあるので
    お薦めします。

    〈一つの問題が生じたことによって、その家族は大きな構造改革を迫られているのだ。
    少なくとも、私たちはそのような認識に基づいてカウンセリングを行っている〉

    構造改革とは、コミュニケーションを通じて家族の関係を変化させることを意味します。
    あいさつの励行。
    「私」を主語にした会話。
    そうして他人行儀にすることで、距離ができ境界がつくられる。
    関係の改革はすべて会話から。

    〈家族は「いわずもがな」「以心伝心」ではない。
    多くは同床異夢、すれ違い、立体交差の関係に満ちている。
    だから「心ではなく型から入る」を強調したい〉

  • あの事件を起こしたのが、自分と同じ年の人だったと知ったとき、すごくショックで、気持ちがまとまらないまま書店でこの本を手にとってフラフラとレジへ。

    著者がカウンセリングを通じて向き合った膨大な事例から、家庭における暴力の存在とそれを取り巻く国家の意図を鋭く問い、被害者支援と加害者更生に必要な新しい考え方を示した一冊。

    虐待の事例は読み進めるのがつらくて、ときどき本をおいて深呼吸する必要があったけれど、著者の考え抜かれた言葉選びと文章を、できる限り読みこぼしたくなくて、一文一文をかみしめながら読む。
    国家によって生じた戦争神経症も、家族の中の暴力も、長い間ないものとされてきた点で相似形を描いていること、衝撃的だったけど、どこかで納得している自分もいて。
    そして、強者によって行使された権力を、自分にとっての弱者に同じように行使することを「抑圧委譲」という言葉で丸山眞男が表現したことを、この本で初めて知りました。
    怖いくらい、日本の社会をよく言い表している言葉だと思う。

    先の戦争がどのようなものだったのか、国家や軍にどのような意図があったのか、考えるのは重く苦しいことだし、私1人の力はあまりにも小さくて、有効な手立ても思いつかないけれど。
    やっぱり、気がつかないふりをして生きていくことはできないから、自分なりに知識を身につけたり、目の前で起きていることを言語化しようと努力することだけでも、続けていきたいなと思います。

  • 私は信田さよ子を知らなかった『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』 | カドブン
    https://kadobun.jp/reviews/ctydzjjke08o.html

  • 直前に武田砂鉄さんの「マチズモを削り取れ」を読んだので、マチズモじゃん!とツッコミ入れながら読んだ。
    「自己肯定」は「自己責任」に結びついてしまうというのは、なるほど…という感じ。
    使ってしまう言葉だからこそ、その視点を持つことは大事だなと思った。

  • 自分が受けた暴力を自分より弱い者に行うことを「抑圧委譲」という。その対極にあるのが「レジスタンス」で、被害者は自分の被害を自覚し、抵抗することで回復し始める。しかしそのプロセスは長く険しい。DVも戦争も、家族と国家という規模の異なる場で行われているが、同じ構造をもつという。永年、臨床心理士として家族の問題に携わってきた著者の、情報密度の濃さに圧倒される。

  • 筆者はカウンセリングという仕事を大変知的に行なっていることがよくわかる。
    「共感」みたいなものを示されるよりも説得力があるしより深い関心を持てる。

    ・虐待やDVにおいては、「被害者側に立つことこそが中立である」というのは繰り返し唱えていかないといけない。
    ・虐待とDVはつながっている(抑圧移譲)
    ・家族の問題解決のためには「構造改革」
    →「この人がこうなったのはなんでなのか」という原因を探す「因果論」ではなく、「この問題は、こういう状況の元で発生する」という「システム論」的に考えることで、問題を実際に解決することができる
    ・加害者像の構築こそが被害経験に意味を付与する。そういう意味では加害者アプローチこそが被害者支援。もちろん、加害者を改善しないと同じ被害がまた生まれてしまうというのもあるが。
    今でもフェミニズム的活動の被害者支援のプレーヤーは、加害者へのアプローチを拒否しがち。

    また、筆者は「被害者権力」についても触れている。報道に携わるものとしてこの存在は感じるし、権力化には報道が加担しているとも思う。
    ただ、これを否定するのは大変難しい。なぜならその人は被害者だから。
    筆者も「被害者としての当事者性を獲得することと、被害者の権力化とをわかつものとは何か」と書いているけど、答えは明確には出ていないよう。

  • 半分以上読んでも、タイトルの意味するところが分からなかったが最後の方で繋がった。内容は既知のものもあれば逆もあり、全体的にとても興味深く読んだ。

    家族という無法地帯。児童虐待とDV。子供の頭を叩くのも、生意気な妻を蹴るのも、ちゃぶ台を引っくり返すのも、家長からみれば「仕方のないこと」であり、家庭内に暴力など存在しないのだ、という下り。

    引きこもりは、本人よりも両親のケアが先と著者は言う。両親のチームワークの形成。引きこもりが原因で破綻する夫婦は多いからだ。

    第二次世界大戦からの復員者の心的被害。妻や子供への苛烈な暴力。これはベトナム戦争後のアメリカでも見られる。

    「プライバシー原則とは、家長という私的権力の支配圏に対して公的権力が介入しないという密約の産物ではないのか」
    (上野千鶴子)『生き延びるための思想』

  • 国家の暴力と家庭の暴力の構造は似ている。というかほとんど同じ。信田先生は、ぼんやりした生きづらさに対して言葉を与えてくれ、見識を広げてくれる。

  • タイトルを見て手に取ったが、期待していた内容ではなかった。国家間の対立と家族内でのDVや虐待の共通点を指摘しており、それはそれで面白いのだが、そういうことが知りたかったわけではなく、昨今の国や社会の仕組みが、家族のDVや虐待をどのように形作るのか、その構造が知りたかった身としては物足りない内容だった。

  • 社会構造の最小単位である「家族」について
    社会制度、風潮が凝縮された「家族」が描かれ、思わず
    ハッとさせられました

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著者プロフィール

公認心理師・臨床心理士、原宿カウンセリングセンター顧問、公益社団法人日本公認心理師協会会長。1946年生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院勤務、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室室長を経て、1995年原宿カウンセリングセンターを設立。アルコール依存症、摂食障害、ひきこもりに悩む人やその家族、ドメスティック・バイオレンス、児童虐待、性暴力、各種ハラスメントの加害者・被害者へのカウンセリングを行ってきた。著書に、『母が重くてたまらない』『さよなら、お母さん』『家族のゆくえは金しだい』(いずれも春秋社)、『カウンセラーは何を見ているか』(医学書院)、『アダルト・チルドレン』(学芸みらい社)、『家族と国家は共謀する』(角川新書)、『タフラブ 絆を手放す生き方』(dZERO)、『共依存』(朝日文庫)などがある。

「2023年 『家族と厄災』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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