- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041010440
作品紹介・あらすじ
明治30年代、美貌のピアニスト・井ノ口トシ子が演奏中倒れる。死を悟った彼女が綴る手紙には出生の秘密が……。(「押絵の奇跡」)江戸川乱歩に激賞された表題作の他「氷の涯」「あやかしの鼓」を収録。
感想・レビュー・書評
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デビュー作といわれる「あやかしの鼓」も収録された一冊。
「氷の涯」を読んでいるときは、それこそ中島河太郎の解説にあるような「大衆読物視された作品」にすぎないような気がしていたけれど、表題作「押絵の奇蹟」を読んでからはもう全然違って、やはりロマンと推理の複合的怪作を描かせたら夢野久作が一番、という感を新たにせざるをえない。
「押絵の奇蹟」にせよ、「あやかしの鼓」にせよ、それは『ドクラ・マグラ』に通ずる「出生の秘密」×「言い伝えの秘密」×「自我の秘密」をめぐる推理と夢想の境地であり、これを頭脳明晰、あるいは技能随一の登場人物が喝破看破しまくるところがたまらない。もちろん彼ら彼女らは終局的に、左記の「三密」にうなされ、惑わされ、自らの揺らぎに耐えられなくなるのだけれど・・・。
夢野久作文学に多い手記調の魅力は「語り手への信ぴょう性」をめぐる文学的「信頼」のおきどころだと思う。果たして主人公は、あるいは手記の書き手は、あるいは「神の視点」までも・・・、誰しもが本当のことを言っている(書いている)とは限らないから、自分の読みが正しいかどうかを終始疑わなければならない。そのことが敷衍していくと、自らの記憶、自らの思考体系、ひいては自らの存在意義までもが揺さぶられてくるというのが、夢野久作文学の醍醐味といえよう。
「『ドクラ・マグラ』を読むと精神に異常をきたす」というのは左記のような揺らぎから考えると至極当然のことで、僕たちはこの文学的ダイナミズムの対流に、そして人類が永劫のかなたに抱える「大記憶」のロマンに、全身全霊でぶちあたっていかなければならないのだ。「読み」という行為の髄の髄までためされるようなスリルと覚悟。それこそが、夢野久作を読むということなのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
収録三作とも書簡形式の独り語りで
延々と一方的に語りかけられると
本来の受け手ではないであろう読み手は
正直結構疲れる。
『氷の涯』
推理・逃亡劇で、複雑?に絡み合った
謎を解き明かしてみたものの、
複雑に多分だ~れも救われない話。
『押絵の奇蹟』
妖しい空気をまとって、幻想的に映るのは、
遺伝、生殖ではなくて、一途で清らかな念が作り上げた
奇蹟だったからか、それとも。
『あやかしの鼓』
過去の怨念に囚われて、今も断ち切れない不幸に
足を踏み入れてしまった人間の不運。
ブツに支配された人間の心と、それが呼び起こした
事件の不運な適合。 -
数年振り、夢野久作ワールドを堪能(?)いたしました。
『氷の涯』『押絵の奇蹟』『あやかしの鼓』全3編。
全て、遺書(『押絵の奇蹟』は微妙ではあるが)の体をした書簡体。論文、記事等引用形式もあり、後の『ドグラマグラ』の片鱗も見え隠れするのも…。
個人的に気に入った順に、簡単に触れます。
イヤミス的な読後感の『押絵の奇蹟』。でも、弱ってる時ほど、とりとめのない話しに没頭したり、誰かにしたくなったりする、っていうのはわからないでもない。
ミステリー、ホラー、あやしさ(←あえて、平仮名で)、様々な要素二転三転する『あやかしの鼓』。解説にあるように、オーラス前が少し急ぎ足の感は確かに…。『瓶詰の地獄』を漫画化した、丸尾末広先生にコレも漫画化していただきたい。
『氷の涯』は仕掛け自体は面白い。ただ、舞台が第一次対戦後の旧満州ということで、自分には、ちょっと映像喚起しにくい部分もあった。ラストは「そんな〇〇あり?」的な…。
そして、同時期に文庫本の整理をしていたら、夢野久作作品は『少女地獄』しか手元になく、ガックリと肩を落とす自分がいた。 -
高校時代に熱愛した怪奇幻想小説。
米倉斉加年の色っぽい表紙が魅力的だ。
久作の「押絵の奇跡」、「ドグラマグラ」、乱歩の「押絵と旅する男」、正史の「かいやぐら物語」「真珠郎」がドストライクの趣向だった。
これらの作品で、で自分の嗜好の方向性が決定付けられた。
「不義密通!」と叫んで妻と娘を斬り殺すところに江戸の残滓を感じたが、本当に不義密通があったのか、それとも胎教による影響なのか、結論を宙吊りにしたまま物語は終わる。
夢野は一人称語りを得意としているが、本作も手紙体の一人称語りだ。
夢野はこのスタイルをエドガー•アラン•ポーからの学び、多くの一人称小説を生み出していく。 -
話の主旨が見えないまま、つらつらとひたすらしゃべり続ける人が世の中にはいるが、夢野先生はそういう人物の語りを書くのが実に上手い。では面白くないのかというとそんなことはなく、とっ散らかった要領の得ない会話の中にぽつりぽつりと謎を植えつけている。そして読み進めるうちに謎の種はいつの間にやら芽吹き、読者を誘う。
『氷の涯』と、表題の『押絵の奇蹟』は、まさにそんな話だ。 -
『氷の涯』
正直よくわからなかった。ただ、ラストがよかった。
『押絵の奇蹟』
最後の最後まで真相が明かされない所が良くもあり悪くもある。話の内容はとてもよかった。運命・神秘・可能性みたいなものを感じた。
心の中の想い人ににてしまうというのはあり得るように思う。女独自の感覚かもしれないが。一種のテレゴニーのようなものか。
『あやかしの鼓』
まず強く感じたのは“因果”。
あらすじは割とよくある感じではあるが、作者らしいしつこさが素晴らしく出ていた。
しつこさも体良く全てが繋がりだすと退屈な話になり得るのだなと感じた。 -
なし