平城京

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041058497

作品紹介・あらすじ

遣唐使船の船長だった阿倍船人(あべの・ふなびと)は、ある事件により朝廷より処罰をうけて草香津に逼塞していた。そこへ、七年ぶりに再会した兄・宿奈麻呂(すくなまろ)から新都造営の手助けをしてほしいと、打診を受ける。たった三年で、唐の長安に並ぶ新都を奈良に――これは朝廷一の実力者・藤原不比等(ふじわらの・ふひと)からの必達の命だった。失敗すれば大きな責任を問われる難事業だったが、白村江の戦い以来冷遇されてきた阿倍家再興を誓う兄を助けるため、船人は引き受けることに。行基衆の手助けなどもあり、着々と準備を進めるが、朝廷では遷都推進派と反対派の対立が激化。造営予定地の立ち退きを巡り、死者まで出てしまう。事件の黒幕について、船人はある疑念を抱くが……。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルのとおり、平城京への遷都を描く古代史小説である。
    藤原京遷都からたった16年しか経っていなかったのに、さほど遠くない地に平城京を作って遷都したのはなぜか? 「古代史最強の謎」(帯の惹句)の謎解きがなされていく。

    平城京建造の責任者(造平城京司長官)を務めたのが、阿倍宿奈麻呂(阿倍比羅夫の子)。
    この宿奈麻呂も重要キャラとなるが、主人公はその弟で遣唐使船の船長であった阿倍船人(あべのふなびと)だ。
    阿倍船人という名の人物は実在したようだが、事績は一切不詳。船人を宿奈麻呂の弟に設定したのは著者のフィクションだ。

    船人は兄に懇願され、平城京建造プロジェクトの現場責任者といった役どころに就く。

    だが、さまざまな難題が次々と起こり、プロジェクトの遂行を阻む。その最たるものは、朝廷内に遷都を阻止しようとする勢力が存在すること。
    ストーリーは、それらの敵と船人たちの戦いを軸に進む。

    藤原不比等、吉備真備、行基など、歴史上の重要人物が次々と登場。ワンシーンのみだが稗田阿礼も出てくる。

    平城京建造の模様もリアルに描写され、〝古代版プロジェクトX〟的な趣も楽しめる。

    大国・唐の影が、全編を黒雲のように覆っている。また、すでに滅びた百済の再興を熱願する百済人たちの存在も、ストーリー上重要な役割を果たす。
    つまり、古代の国際政治をリアルに描く小説でもあるのだ。

  • 平城京建設の物語。
    河川のつけかえから始まり、用地の買収や人足の確保などの下準備をしたり、都大路の整備、建物の建設など大がかりな土木工事を進めていく中で建設反対勢力の妨害が起こる。
    果たして工期は間に合うのか、妨害の親玉は誰なのか。プロジェクトXにミステリーを少し足したような、ドキドキハラハラしながら読める一冊。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    平城京への建造と遷都を題材とした小説
    うまく史実の出来事や史書の内容を盛り込みながら物語として、成立させている。
    遷都の詔から2年で平城京に遷都するというのは言われてみれば、非常に短期間の遷都で民に大きな負担をかけることになっただろうということは本書を読んで強く感じた。
    それと本書は天智系から天武系への王朝交代した壬申の乱を明確に近江朝廷を滅ぼしたと書かれていることには驚いた。

  • 教科書では「710年平城京に遷都され奈良時代が始まった」ぐらいしか書かれていない。どこから遷都?って思っても藤原京についてはほぼ書かれていないような。
    史実に基づくフィクションであるにしても、この時代の人の息吹を感じられたのはとても良かった。
    それを抜きにしても読み応えのあるストーリーで満足。

  • 奈良・稗田、環濠集落につながる葛城氏の話が面白かった。
    一文の表現力に奥行きがないように感じて、
    どうも安部さんは肌が合わないかな。

  • 平城京遷都のお話。壬申の乱や白村江の戦いから続く因縁も描かれ、歴史の流れを感じる。
    2019/11/1

  •  著者の作品は3作目。『等伯』は面白く読んだが、その後の『姫神』に続く古代日本を描く一連の流れの作品だろう。『姫神』の日経書評に次は「平城京造営の音頭をとった阿倍宿奈麻呂が主人公の連載を始める予定だ」とあり、まさにそれが本書。
     ただし、主人公は実在した官僚宿奈麻呂ではなく、弟で船頭という阿倍船人(ふなびと)という架空の人物としている。これが良かったのか悪かったのか。物語のドラマ性は増したが、フィクション度が高くなり、ストーリーとしてやや重みに欠けるというか、作り話っぽくなってしまうのが、こうした古代史を題材にした際のタマニキズ。前作『姫神』が演劇脚本だったように、舞台的な見せ場としての活劇シーンも後半差しはさまれ、そのあたりはやや劇画的でシロート臭い。歴史小説ではなく、時代小説と言われてしまうところだろう。

     とはいえ、奈良県人として、古代史好きの身としては面白く楽しく読めた。周防柳の連作『蘇我の娘の古事記』『逢坂の六人』でも描かれたように壬申の乱にまつわる因縁が、その50年後の平城京造成に影を落とすという設えは興味深い。教科書では宮家の兄弟喧嘩程度にしか習わない壬申の乱が根深く皇族を呪縛する様は、さすがに歴史小説としては描けまい。フィクションである効用か。藤原京から平城京への遷都推進派と、反対勢力の確執、そして黒幕の存在はミステリーとしても読み応えあり。

     また、平城京造成を進める上で、地方豪族である葛城氏との丁々発止の交渉、戦闘、そして和睦後の協力体制の構築なども実に興味深い。こちらは、なんと雄略天皇の時代、それ以前の歴史を踏まえての物語である。
     丁度、今(2019年7月現在)、日経新聞の朝刊の連載が池澤夏樹氏による雄略天皇の治世を扱った『ワカタケル』である。この物語の前半の読みどころだった、先代の天皇が暗殺されるクダリや、それ以降も葛城氏との関りはふんだんに描かれている。池上史観は日本書紀に則り、安康天皇は葛城氏の姫の連れ子の目弱(まよわ)に暗殺され、それをワカタケル(のちの雄略天皇)が成敗して帝位に就くという流れで描かれていた。
     本書では、そうではなく、ワカタケルが父親を暗殺し、その罪を眉輪(まゆわ)王(目弱と字も違う)に濡れ衣を着せたとして描く。古代史の解釈は定説がないだけに、このあたり発想が自由で面白い。

     本書の主人公の船人が、遣唐使の船長を務めた船乗りという設定も良い。これは伊藤潤著『男たちの船出』を読んでいたからだと思うが、太古の昔より船乗りは建築技師であり天文学者であった、数字に長けていたという設定がすんなりと腹落ちした。そんな阿倍船人と、後の遣唐使、阿倍仲麻呂や吉備真備らが世代を超えて交流し合うさまも、当時の奈良の都を舞台に生き生きと描かれ、わが故郷の地を、本当に彼らがその昔闊歩していたんだと想像たくましく、その暮らしぶりを脳裏に描いてみた。実に、楽しい。
     行基さんが、活躍するのも嬉しいね。近鉄奈良駅の前で、佇んでいるお姿は馴染み深いけど、本書を読むと、なぜあの場所に行基さんが居るのかが良く判る。今度、行くことがあれば、しっかりご尊顔を拝し、その偉業に感謝の気持ちを送りたい。

     そんなことで、古代史好き、奈良好きには、そこそこ楽しめる内容にはなっている。
     冒頭記したように、ファンタジーに振れすぎた点は残念。そもそも古代史が謎多くて、想像を働かせなければ補えないのだから止むむ無しではあるが、政治的駆け引きや、より経済的な側面などで平城京遷都の緊急性を表現し、ストーリーに織り込めたら、より読み応えがあったのにと惜しい気がする。その分、非常に読みやすくはあったけどね。

  • 人が集まって一大プロジェクトを成し遂げようとする時、
    自らの信念や利益を全うしようとして、
    時には残酷な行いにも走ってしまうのは、
    今も昔も変わらない。

    そして、そんなピンチの中であっても、
    人の心をつかんで離さないリーダーがいれば
    まとまることができるのも変わらない。

    今の日本にそんなリーダーは現れる日は来るのか?

  • 石上豊庭が割とメインキャラ(主人公の敵役)で登場する

  • 遣唐使船の船長だった阿倍船人は、白村江での敗戦以来冷遇され続けてきた阿倍家の復興を胸に、遷都反対派との対立のなか、平城京造営という国家の一大プロジェクトに挑むことになる。

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著者プロフィール

作家。1955年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒。東京の図書館司書を経て本格的な執筆活動に入る。1990年、『血の日本史』(新潮社)で単行本デビュー。『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『下天を謀る』(いずれも新潮社)、『信長燃ゆ』(日本経済新聞社)、『レオン氏郷』(PHP研究所)、『おんなの城』(文藝春秋)等、歴史小説の大作を次々に発表。2015年から徳川家康の一代記となる長編『家康』を連載開始。2005年に『天馬、翔ける』(新潮社)で中山義秀文学賞、2013年に『等伯』(日本経済新聞社)で直木賞を受賞。

「2023年 『司馬遼太郎『覇王の家』 2023年8月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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