昨日星を探した言い訳

著者 :
  • KADOKAWA
4.03
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本棚登録 : 814
感想 : 52
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041097793

作品紹介・あらすじ

自分の声質へのコンプレックスから寡黙になった坂口孝文は、全寮制の中高一貫校・制道院学園に進学した。中等部2年への進級の際、生まれつき緑色の目を持ち、映画監督の清寺時生を養父にもつ茅森良子が転入してくる。目の色による差別が、表向きにはなくなったこの国で、茅森は総理大臣になり真の平等な社会を創ることを目標にしていた。第一歩として、政財界に人材を輩出する名門・制道院で、生徒会長になることを目指す茅森と坂口は同じ図書委員になる。二人は一日かけて三十キロを歩く学校の伝統行事〈拝望会〉の改革と、坂口が運営する秘密地下組織〈清掃員〉の活動を通じて協力関係を深め、互いに惹かれ合っていく。拝望会当日、坂口は茅森から秘密を打ち明けられる。茅森が制道院に転入して図書委員になったのは、昔一度だけ目にした、養父・清寺時生の幻の脚本「イルカの唄」を探すためだった――。

感想・レビュー・書評

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  • 初読み作家さんです。図書館で借りました。
    愛と倫理の物語。平等とは何かなど、今の私たちが考えるべきものが深く問われていると思いました。
    内容は少し難しいけど、物語の世界観は結構好きだなと感じました。
    この作家さんの他の作品も読んでみたいです。

    • マメムさん
      初コメです。
      私も未読の作家さんですが、『いなくなれ、群青』やシリーズ作の『さよならの言い方なんて知らない。』が人気のようです。後者は第一巻...
      初コメです。
      私も未読の作家さんですが、『いなくなれ、群青』やシリーズ作の『さよならの言い方なんて知らない。』が人気のようです。後者は第一巻を積読中(笑)
      2023/04/30
    • aquamarineさん
      マメムさん、はじめまして!
      コメントありがとうございます。
      『いなくなれ、群青』や『サクラダリセット』シリーズは映画やアニメ化にもなっていて...
      マメムさん、はじめまして!
      コメントありがとうございます。
      『いなくなれ、群青』や『サクラダリセット』シリーズは映画やアニメ化にもなっていて、作品名は知っていますが、原作を読んだことがないので、読む機会があれば読んでみたいです。
      2023/04/30
    • マメムさん
      aquamarineさん、お返事ありがとうございます。
      感想を楽しみにしていますね♪私も積読消化しないと(笑)
      aquamarineさん、お返事ありがとうございます。
      感想を楽しみにしていますね♪私も積読消化しないと(笑)
      2023/04/30
  • 中高一貫の全寮制の共学校。もうその設定だけで心がときめく。
    そこに迫害され差別されてきた「緑の目」の人間たちの歴史をからませていく。一気に物語に深みが増した気がする。単なる学園ものではない、深みが。

    総理大臣になること、を目標に掲げる少女茅森と、繊細さと独自の正義感を持て余す坂口の、長い長い青春と恋の物語。そこに、アイデンティティと差別と友情と同情と理解と共感と、それからあと何があったか…とにかく十代で経験するべきすべてのものがここにある。
    オトナにはオトナの理論があり、正義がある。それは多分いつも、正しい。
    けれど、十代には十代の、彼らにしか分かち合えない、譲れない、正義も間違いなく存在する。
    眼の色が違うことや、足が不自由なこと、そういう被差別要因に対して、どうふるまうのが正しいのか。
    坂口の橋本先生への嫌悪、綿貫との拝望会でのエピソード、その根拠。簡単に言葉で言い表せない違和感たち。そこからつながる茅森と紡ぎ続けたとある脚本。そのひとつひとつが美しくて尊くて、涙腺を刺激してくる。
    いつの間に自分はこんなにも彼らから遠くへと来てしまったのか、と愕然ともする。

    正しい事、正義、倫理。そういうものに圧迫され続ける今だからこそ読んで欲しい一冊。
    読み終わった後、きっと、深く呼吸ができる。

  • 100個の嫌いなところとひとつの好きなところ

    いくらだって並べられるあいつ嫌いなところ
    でも、たったひとつの好きなところは唱えようとしても言葉にならない

    ラストが特に好きだった

  • 差別が日常の陰に潜む世界で、理想的な世界を目指している少女・茅森と、彼女を尊敬して支えようとする坂口の物語。
    表紙の帯のアオリにもある「あのころ僕は、茅森良子に恋していた。もしもこの一文に嘘があるなら、それは過去形で語ったことくらいだ。」という文章がおしゃれ。

    作品の中で語られる差別のエピソードは、所詮フィクションでしかないのだが、登場人物たちはそれぞれの信念と複雑な思いを抱えていて、それがリアリティを持っている。
    主要人物には純粋な悪人はおらず、それぞれに正義がある。

    例えば、女子が生徒会長になることに否定的な卒業生代表がいる。
    彼は、女性の能力が低いという偏見を持っているわけではなく、男というものは責任を負うべきという考えに依っている。

    差別を否定し弱者を救済しようとする熱血教師は、主人公たちに押しつけがましく思われているが、彼は心の底から平和を望んでおり、差別にあふれた世界では貴重な存在だ。

    足が不自由で車椅子で生活しているある生徒は、憐みの目を向けられたり、勝手に救いの手を差し伸べられることに納得していない。
    彼は足が不自由な現状を受け入れようとしており、友人たちが長距離遠足に出かける様子を羨ましく思い、また羨ましく思えることを大切にしようとしている。

    差別をなくそうとする人もいれば、思いは同じにしていても差別があった歴史自体はなくしてはならないと考える人もいたり、人の考えは千差万別だ。
    「差別=悪」という命題は真ではあるけれでも、そこにすべてを集約しようとすると、個々の考えの微妙なニュアンスが失われていってしまう。
    よく考えさせられる物語だった。

    さて、本作は茅森と坂口の恋愛小説という側面も持っているが、二人とも例にもれず複雑な性格をしているものだから、まあややこしいことになる。
    彼らは、中学高校と同じ時間を過ごす中でお互いのその複雑な考え方を理解することを学んでいくのだが、自分が素直になるという方向へはあまり成長しなかったみたいだ。
    私もいろいろ考えすぎて物事を複雑にしてしまう質だからよくわかるのだが、彼らを見ていて少しめんどくさい奴らだなと思ってしまった。

    複雑な考え方を理解すること、自分とは違う考え方を認めること。
    それと同様に、自分の考え方を認めてもらえるように努力することも必要だ。

  • 愛と倫理の物語。痛いほどまっすぐで、潔癖な少年少女の姿に胸がいっぱいになりました。美しいしすてきな理想だけれど、真面目すぎて馬鹿馬鹿しく思えるほど。たくさんの会話と議論により積み重ねた信頼と愛。河野先生の作品のなかで、一番恋愛色が強かったのではないかと思います。繊細だけどわがままで強い物語。100個の嫌いなところと、ひとつの好きなところ。が、一番好きでした。多様性が叫ばれるいまの時代に即した物語でした。

  • 平等とか、倫理とか、正義とか、差別とか

    私たちは、相手のことを全部わかることはできない
    だからわかりたくて、話をしようとする
    でもいくら話しても、わからないこともある
    わかり合えないなって思うこともある

    その人の思いや感情は、どうしたってその人本人にしかわからない
    決めつけてはいけないし、それが正しいことだと押しつけてもいけない
    そう思っていても、その人に対して頼ることを諦めて欲しくないな、とも思う

    自分はどこまで意地を張っていられるのだろう

    綺麗で、美しいなんの偏見もなく平等な世界なんてものはきっとないけど
    考え続けて、目指すことは、できるものだとも思う

  • 制道院という中高一貫校を舞台に物語が進む。
    倫理観みたいなものを物語の中でうまく考えさせてくれる展開が良かった。
    それだけにラストはちょっと残念。
    頭のいい坂口なら、もうちょっと考えて、違う流れにはもっていって欲しかった。

  • ああ、河野さんだ。
    真辺みたいな茅森みたいなタイプ、すごく面倒くさいけどすごくわかる。頭先行型。

    地の文で共感するけど、それ、そういう風には相手に伝わらないよ、というところが茅森の傾向上あって
    それでも互いが互いに対して理解することを諦めない、伝えることを諦めない、というゆめのような理想的関係性が、著者的にもゆめなのかなとかつい過ってしまう。
    一冊で完結しているから、シリーズものより全体像をストレートにすぐに受け取りやすかった。
    一文だけ、言葉だけ抜き出したなら浅いけど、人物や前後の流れを見ると絶対にそんなことないという詰まった瞬間が何度かあって
    そういうの多分尊い。

    幻の脚本の後半は、清寺時生が書きたくなってしまったのすごくわかるけれど
    公開するつもりはなかったのではないかっていうの、ああって思うけど
    でも仮定として、まだ若い視聴者やファン、特に11歳だった義娘を思うと
    一層、ああ…ってなってしまう。
    一周回ってもういちど著者に辿り着いてみる?ってなったりするのとても余計な思考。

    そんなのも
    茅森にとっては、それよりも、であって。
    エピローグかわいすぎ問題。
    気持ちは大変にわかるが皆まで言うな…嫌いなところわんさかだけで読者的にはめちゃくちゃ伝わっちゃう。

  • 普段本を読む習慣がないからなのか、国語力が足りないからか、読みすすめる速度は遅くなくとも、賢い主人公達の言い回しにあまり共感できず何となく消化不良な感じで読了した。

    評価は高いようなので、自分は分かりやすい感情表現の本じゃないと向かないのかも…と自分にガッカリした。
    ただ、こんな映画監督の映画は確かに観てみたい。

  • これは青春小説?恋愛小説?となかなかカテゴリしにくい印象でした。

    第一部と第二部に分かれていて、第一部では主に生徒会選挙について、第二部では幻の脚本「イルカの唄」についての描写が描かれています。時折、25歳になった主人公とヒロインの物語を交えながら、2人(主人公とヒロイン)の視点で交互に物語は進行しています。
    一つのエピソードを2人の視点から読み解けるので、新たな発見があるのが魅力的でした。
    一応、恋愛要素があるのですが、2人の関係性がどこかドライな感じがしました。この空気感は、河野さんの「階段島」や「架見崎」シリーズの主要2人とどことなく感じさせるなと思いました。距離感も近からず、遠からずで、青春群像劇を見ている印象でした。

    内容ですが、特に印象的だったのは、第一部。小さな「政治」を見ているようでした。ある人を生徒会長にするためにあらゆる人に声を掛け、協力していく様は政治そのものでした。まるで学校が国会、各寮が派閥かのようでした。
    その中で、若者ならではの嫉妬や主張なども描かれていて、
    どこかファンタジーぽいけれども、現実感がありました。
    ただ、全体的にダラダラ感があり、もう少し圧縮してもよかったのではというのが個人的に思いました。
    それぞれの登場人物達の「正義」が詰まった作品で、読み終わった後、複雑な余韻に浸れました。

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著者プロフィール

徳島県出身。2009年に『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』で、角川スニーカー文庫よりデビュー。若者を中心に人気を博し、シリーズは7冊を数える。他著作に「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズ(角川文庫)、『いなくなれ、群青』(新潮文庫)に始まる「階段島」シリーズなどがある。

「2023年 『昨日星を探した言い訳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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