- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041100196
感想・レビュー・書評
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戦後間もない夏。詩人・歌川一馬の招待で、山奥の豪邸に集まった男女。招待された作家、画家、女優などいずれも変人ばかり。憎悪と愛欲が渦巻くひと夏の豪邸で、何も起こらないはずもなく─。恐るべき連続殺人が幕を開ける!
とにかく登場人物が多い!さらにみんな癖が強い!犯人の計画がなくてもなんか起きるだろ!ってツッコみたくなる顔ぶれ。愛欲で乱れに乱れた場だからこそ、犯人の意図はそこに紛れ込む。異常の中に隠された異常はもはや正常に見えてしまう。連続か不連続かを見抜くには心理を深く読み抜く以外に方法はない。
強烈なキャラやニックネーム、次々と起こる事件などで読みやすさはあるものの、人の多さと人間関係のこじれ方は尋常じゃない。人物リストと相関図は書かないとごちゃごちゃになる。ただ、探偵・巨勢の流れるような推理と、そこからのラストシーンは圧巻。破滅の美しさに立ち尽くすのみ。
これだけの内容をどうやってまとめるんだろうと思ったら、見事な論理に脱帽した。まさに賞讃あるべし。ただ、帯にもあった「お梶さまは誰に殺されたか」は引用するにはずるい一言だなと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これも何度読んだかわからないくらいの再読。
トリックは今でも通用するくらい秀逸なのだけど、いかんせん文体がキツい。ワタシは高校時代に教科書に載っていた「ラムネ氏のこと」に衝撃を受け、その後しばらく安吾を読み漁ったりしたくらいには好きなんだけど、それでも「不連続殺人事件」の文体はちょっとキツいなぁ、と思う。昭和二十二年の発表だし、きっとまだヒロポンが抜けきっていなかった頃の作品なのね、と邪推したりなんかして。
横溝正史も筆が滑った時に似たような文体になるので、この年代の方がちょっとフザケた文を書こうとするとこうなるのかと思うけど、それにしても「不連続殺人事件」でのフザケ具合はちょっと過剰だよねぇ・・・。
登場人物はどいつもこいつもクセがあるし、文体にもクセがあるうえ「てにをは」が微妙だけど、一読の価値はあるミステリです。 -
坂口安吾といえば『堕落論』しか読んだことがなく、そのイメージしかなかったのですが、ミステリーも書いている、というのを知ってすぐに購入。
とある別荘にひと夏を過ごすこととなった男女の一団。1人また1人と殺されていくが、同一犯による連続殺人なのか、それとも、数名もしくは数組の犯人がいる不連続殺人なのか、謎が深まっていく。。
一言でいうと、とても面白かったです!
色々面白かった点があるのですが、まずは登場人物たちの魅力溢れるキャラクターでしょうか。文士や絵描きなど、芸術家が多く一癖も二癖もある人たちばかり。それぞれの際立ったキャラが丁寧に書かれており、また、文士同士の抜き差しならない妬み・僻み、嫉妬といったことが、よく描かれていました。当時の文学界の人間関係の様子を垣間見ることができたように思います。
あとは警察側のキャラクターもあだ名の付け方が秀逸で、ベタといえばベタなんですが、やはり物語に立体感を出すには、登場人物たちを、その存在を具体的にイメージ出来るように描くことが大切なのだなと。
もう1つは、いかに犯罪を成し得ることができたか、、というネタ、トリックの部分ですが、そのミソが人間の心情や心理を探求し、その盲点をうまく突いたところにあったということです。なので、逆に金田一とかコナンとかでよくでてくる難解な密室トリックとかはでてこないので、素人でも十分可能な、すごくリアリティのある仕上がりになっています。
人間心理を逆手にとったトリックやネタばらしにしたのは、坂口安吾のこだわりなのでしょう。
1こだけ、物足りなかったと感じたのは動機について。作中でも、動機がわかれば犯人はわかる、といように伏線とおもわれる箇所が何個かあったのですが、ミステリー通的にいうと、回収しきれていないのでは?と思ってしまいました。これはあえてこうしているのですかね。
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目次の一、俗悪千万な人間関係
ここがこの本の中での一番の難関(^_^;)
一体何人登場するのだ!?という登場人物の数。
誰が誰なのか?さっぱり覚えられず、三回は読み直したか。
クイーンのYの悲劇のような、私の好きなクローズドサークルもの。
事件が起こってからの展開はなかなか早かった。
半分を越えたあたりからはどんどん面白くなっていく。
今風な文章に変えたらかなり面白い物語だろうと思う。
ただ、少し下品かなぁ(^_^;) -
日本推理作家協会賞の前身となる探偵作家クラブ賞を受賞した物語である。
高木彬光の「刺青殺人事件」と争った末の受賞だったようだ。
最近の小説を読みなれている者としては、とにかく文体が古く読みにくい。
ひとつのセンテンスはこれでもかと言うように長いし、言い回しも昔ふうでわかりづらい。
序盤ではそんなこんなで数日に分けて読み進んでいたのだが、いつの間にかすっかり物語の中に引き込まれていた。
登場人物がとても多く、次々と起きる殺人事件によって被害者もまた増えていく。
にもかかわらず、個性的な人物のひとりひとりを丁寧に描写することによって、彼らの特徴がすんなりとわかりやすく伝わってくる。
待ち受けていた結末は驚きのものだった。
いかにもな人物たちが混在する中での事件。
歌川邸に集まる面々だからこそ成立した物語は、完成度の高い上質なミステリーだった。
難を言えば探偵役がことのほか魅力に欠けている。
もっともこの物語に限っていえば探偵役はあくまで脇役であって、読者が真相を知るための繋ぎ役でしかないのだろう。
悲劇的な結末は、すべてが明らかになってみればこれしか事件の落としどころはなかったのだろうと納得ができるものだった。 -
ミステリーとはこういうものだ、と満足感。時代背景は古いのにちっとも古くない。安吾は人を書き上げている。人の欲を書き上げている。憎しみも苦しみも寂しさも面白さも人の感情は欲から出ているものなのかもしれないとおもわせる。殺人というのはそれがいちばん明らかにあらわれるものなのかもしれないなぁ。時代は変われど人のなかみはなにも変わらない。坂口安吾さすが、である。
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純文学作家の印象が強い坂口安吾の書いた、人間の行動心理の隙をつくトリックで有名な推理小説の名作。戦後まもなくの田舎の山奥に、奇人変人ぞろいの文壇や演劇界の著名人が招待され次々と殺されていくいわゆる「館もの」で、ちゃんと「間取り図」もある本格ものだが、館の建造物としての構造や特殊な道具などのトリッキーなトリックに頼らず、ある状況下において「ふつうの人間ならとるはずのない不自然な仕草」だったり、どんなに疑り深い人でも「これだけは絶対大丈夫」と思い込ませる詐術がトリックになっており、それは読んでいてふと感じる程度の違和感か、言われるまで全く不自然さを感じさせないほど巧妙なもので、私は前者だったけどそこにこそ謎解きの鍵があるなんて微塵も思わなかった。探偵役の登場人物が館もののお約束の一同前にした謎解きの場面で、第一線の文士たちである館の客たちのことを「日本第一級の心理家」と名指しし、小説家とはすなわち最高の心理通、人間通であるべきはずで、その人たちでも見落とした「心理の痕跡」があったことを宣言する。それはとりもなおさず文芸作品で扱われる「人間の心のあや」は、探偵小説のトリックにすら成り得るものなのだ、という純文学の作家でもある作者の気概を感じるのだ。
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文学者=犯罪者予備軍という皮肉をうまく利用している。まさか坂口安吾が本格ミステリをものしているなんて寡聞にして知らなかった。夢中で読んだ。