刺青・少年・秘密 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 215
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109748

作品紹介・あらすじ

舞台は江戸時代の下町。腕ききの刺青師・清吉の心には、人知らぬ快楽と宿願が潜んでいた。ある日ふとした折に見かけた娘の足。その娘こそ、彼が憧れる肌の持ち主だった。
1年後、偶然にもその娘が訪ねてきた。娘を麻酔薬で眠らせ、一心に女郎蜘蛛を娘の背中に刺し込む清吉。そして娘は――。谷崎潤一郎24歳の処女作「刺青」。

ガキ大将の仙吉と、良家の子息の信一、信一の姉、そして私。踏みつけたり、姉を縛り上げるなど、4人の少年少女の「遊び」は次第に過激なものとなってゆく。子供の倒錯した世界を描く「少年」。

普通の刺激に慣れ切った私は、女装をして浅草の街中を歩くことに悦楽を覚え始める。だが、映画館の貴賓席で、かつて暫く関係を結んでいたT女と出会い――。秘されたものに魅了された男を描く「秘密」。

耽美、サディズム、マゾヒズムが交錯し、それでいて格調高い物語の数々。著者初期の代表作8編を収録した短編集。
永井荷風による「同時代人の批評」を収録。

感想・レビュー・書評

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  • ◾︎刺青
    耽美派と言われてイメージする作風そのもので,知識人のいう「純文学の味わい」とはかくなるかという印象を受けた.
    あるファッションモデルが服を着ることで魂をインストールするといった旨のことをどこかで書いていた気がするが,そういった描写をこんなにも艶かしく描けるものかと.

    ◾︎少年
    個人的に最も谷崎らしいといった感想.
    各々の描写は汚く,眉を顰めざるを得ないところが多々あるものの,流麗な文体ゆえに何故か美しさも感じる.生々しいのに,一枚薄布が張ってあるような感覚.
    秀逸だと思うのは,最後に少年の姉が関係内に置いて覇権をとり,宛ら女王の振る舞いになり,少年らを蹂躙するシーンがあるのだが,直接的な性描写は用いられていないにも関わらず,艶かしく極めて性的.
    「フェティシズム」とは耽美派を語る上で外せないキーワードだが,この独特な趣向こそフェティシズムそのものだと実感する.

  • 神童と異端者の悲しみはわりかし面白かった。

  • 新潮文庫には未収録の「悪魔」「続悪魔」「神童」を読む。

    「悪魔」は陰鬱とした作品。
    神経衰弱の佐伯は汽車や地震を極度に恐れ、そのために死ぬのではないかと怯えている。上京して叔母の家で下宿を始めるが、そこには鈴木という陰気な書生がいて、佐伯の従姉妹の照子と婚約をしていると主張する。しかし照子と佐伯は次第に親しくなっていき、鈴木に恨まれるようになる。最後は照子の鼻水がついたハンカチを佐伯がこっそり舐めるシーンで終わる。

    「続悪魔」は、佐伯と照子の関係がさらに進み、最後は鈴木に刺されてしまう。
    谷崎は「続悪魔」を執筆するにあたって、「悪魔」の結末部分(ハンカチの場面)をないものと思って読んでもらいたいとしている。

    「神童」は、驚異的に勉強のできる瀬川春之助が純粋さを失って驕り高ぶり、自分の堕落を悔い芸術を志すまでを描く。最後に芸術に目覚めるというのは「異端者の悲しみ」と同じ。

    「人間の歓楽世界の裏側に、こんな秘密な、奇妙な楽園が潜んでいるんだ。 (中略) 一種掻き挘(むし)られるような快楽が、煙草の酔の如く脳味噌の浸潤して、ハッと気狂いの谷底へ、突き落とされるような恐怖に追い立てられつつ、夢中になって、ただ一生懸命ぺろぺろと舐める。」
    (「悪魔」p.148)

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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