未明の砦

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041139806

作品紹介・あらすじ

その日、共謀罪による初めての容疑者が逮捕されようとしていた。動いたのは警視庁組織犯罪対策部。標的は、大手自動車メーカー〈ユシマ〉の若い非正規工員・矢上達也、脇隼人、秋山宏典、泉原順平。四人は完璧な監視下にあり、身柄確保は確実と思われた。ところが突如発生した火災の混乱に乗じて四人は逃亡する。誰かが彼らに警察の動きを伝えたのだ。所轄の刑事・薮下は、この逮捕劇には裏があると読んで独自に捜査を開始。一方、散り散りに逃亡した四人は、ひとつの場所を目指していた。千葉県の笛ヶ浜にある〈夏の家〉だ。そこで過ごした夏期休暇こそが、すべての発端だった――。四ヶ月前、工場の製造ラインの班長・玄羽昭一が海辺の実家に招待してくれた。そこには玄羽のある思惑が隠されており、その思惑どおり、若くやわらかな四人の心はひと夏で劇的な変貌を遂げる。だが休暇の直後、玄羽が勤務中に突然死する。何かがおかしいと直感した四人は行動を起こし、玄羽を死に至らしめたユシマの暗部を突き止める。彼らはグローバル企業を相手に反旗を翻した。それが共謀罪始動に直結するとも知らずに。自分の生きる社会はもちろん、自分の人生も自分で思うようにはできない。見知らぬ多くの人々の行為や思惑が作用し合って現実が動いていく。だからこそ、それぞれが最善を尽くすほかないのだ。共謀罪始動の真相を追う薮下。この国をもはや沈みゆく船と考え、超法規的な手段で一変させようと試みるキャリア官僚。心を病んだ小学生時代の友人を見舞っては、噛み合わない会話を続ける日夏康章。怒りと欲望、信頼と打算、野心と矜持。それぞれの思いが交錯する。逃亡のさなか、四人が決意した最後の実力行使の手段とは――。最注目作家・太田愛が描く、瑞々しくも切実な希望と成長の社会派青春群像劇。

感想・レビュー・書評

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  • わたしにも。あなたにも。全労働者に送る、圧巻の感動長編。
    労働問題をメインに、現代社会の歪みを糾弾する社会派サスペンス群像小説であり、令和日本の『資本論』。

    搾取され続ける「力なき者たち」の叫びに胸を熱くし、政治家、公安警察から労働者まで敵味方入り乱れる展開に手に汗を握る。

    私たちと同じ「力なき者たち」が立ち上がる勇気とその結末を、あなたはどう感じるだろうか。

    知ることから始めましょう。この本には私たちが知るべき大切なことが詰まっている。

  • 96年ごろだったと記憶しているが、私の所属している労働組合で学習会があった。題は『日経連「新時代の日本的経営」について』。前年に出た日経連のレポートを批判的に読み込む内容だった。
    これからの日本の労働者を3種類に分けるというのだ。一部のエリートと、多くのヒラ社員と、もっと多くの直ぐにクビを切れる非正規社員に分ける。終身雇用制は無くして、能力型雇用制に切り替えるというものだった。当時、男は全員が正社員で、先ず全員がいい歳になれば、長時間労働だけど5〜600万円ほどの年収は稼げていた時代だった。従業員の半分以上が非正規になるなんて、この給料が下がってゆくなんて、そんなことは想像もできなかった時代だった。それでも、その後に出てきた派遣法の自由化や能力給人事制度の提案に私たちがいち早く反対に回ったのはそういう経緯があったからだ。知は力なのである。反対に言えば、どうして法案がこうもスルスルと通ってゆくのか。メディアは、わかっていて大企業に寄り添って報道していると憤ったものだ。派遣切りが横行した時は、こんな風に「予見」は「実現」するのか!と身震いした。

    この小説では、日経連レポートこそは出てこないが、この20数年間の労働環境の変化と、その基礎となる日本人の人権意識の希薄さが、まるで教科書のように紹介されている。

    それらを説明する上で必要だったのだろう。政治家代表として与党幹事長、財界をを描くために超大企業の社長、一部のエリートを代表するものとして公安の課長、あるいは副社長、事件を起こさないと面白くないから警視庁組織犯罪対策部.課長、万年ヒラの刑事、「多くのヒラ社員」を代表して大企業の工場長、そして非正規社員として派遣工、期間工などを、「冒頭」に登場させている。それら全員が登場するに相応しい事件とは何か?

    著者は共謀罪を選んだ。戦後日本で初めて大々的に報道される共謀罪の適用。実際それがあるから、私は最後まで読もうと思った。意図は一応成功している。どう読んでも、一章を読む限りでは、〈テロ等準備罪〉が4人の主人公たちに適用される雰囲気はない。どうなるのか?

    しかし、著者の意図はわかるが、この設定自体が〈無理筋〉だったと私は思う。ツッコミどころが多くあった。

    そして、國木田さんほどは経験や知識は持ってないけれども、私も長い間労働相談員をボランティアでやっている。

    マシマは、政治家も動かせる大企業なのに、あんなあからさまな労働法違反をやっちゃダメ。実際にはお抱え社労士と相談しながらもっと巧妙なやり方をしている。実際には中小企業の中で、あのようなあからさまに過酷で、陰湿な労働環境があるのだと思う。

    確かに、4人の奮闘は、(あり得ない嫌疑については脇に置くとしても)賞賛に値するものだった。1人から入れる労組に入って、労働条件の改善を勝ち取る手段もあるけれども、困難だけれども、自ら労組を結成して全体の労働環境を変えないと、解決しないことは多い。団結こそが力、(突入経緯に少し疑問は残るけど)ストライキが武器、団交こそが主戦場なのだ。

    2024年3月14日読了



    • bmakiさん
      感想のレベルが高すぎて、感想に圧倒されました。。。
      流石です。やっぱり天才です。
      あ、ひまわりめろんさんも天才です( ̄▽ ̄)

      同じ...
      感想のレベルが高すぎて、感想に圧倒されました。。。
      流石です。やっぱり天才です。
      あ、ひまわりめろんさんも天才です( ̄▽ ̄)

      同じ本なのに、ここまで感想のレベルが違うと、私なんかが読んでしまってごめんなさいと謝罪したくなります(^_^;)
      2024/03/18
    • kuma0504さん
      bmakiさん、コメントありがとうございます♪
      だ、か、ら、「天才」はやめてください(^^;)。
      私は単に、斜め方向からのレビューが好きなだ...
      bmakiさん、コメントありがとうございます♪
      だ、か、ら、「天才」はやめてください(^^;)。
      私は単に、斜め方向からのレビューが好きなだけです。
      それにひまわりめろんさんのコメント欄に、得意分野なので、去年「解説レビュー」を書くと約束したので、ついそっち方面に偏ってしまいました♪
      2024/03/18
  • ★5 彼ら生き様に痺れる!ブラック企業の非正規社員が、仲間との出会いから変わっていき… #未明の砦

    ■あらすじ
    非正規社員として自動車工場に勤務する若き四人の男性たち。彼らはわずかな給料しかもらえないのに、恐ろしくブラックな環境で日々働き続けていた。
    ある日長年勤めていた先輩が、工場で過労死してしまう。彼らは働き方を変えさせるべく立ち上がるが、テロ行為を目論んでいると警察からとして追われることになり…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    いつまでたっても高度成長期の成功にしがみつき、もはや外国から後れを取っている我が国。力をもった者は、間違った理想や欲望と保身だけしか考えずに、弱い者を押しつけていく。弱い者はさらに弱い者を叩き、なんとか自分だけは生き抜けるように精神のバランスをとる。

    元気のない日本、格差社会の歪んだ現実、もはや戦前の戻ってしまった狂乱の現代を描いた社会派小説です。

    胸が締め付けられるんです…
    私は胸に刺さったシーンや会話には付箋を付けながら読んでいるのですが、本書の場合は大量に付箋がつけられました。読めば読むほど力が入ってしまい、完全に物語に引き込まれてしまいましたよ。

    非正規社員として工場につとめる若い主人公たち…底辺で這いずり回る人たちの思考があまりにもリアル。ただ生活することに必死で、いまの環境に疑問を持たない。情報や環境に流され、常に諦めながら生きているのです。

    それに対して、上級国民たちの横暴があまりにも酷い。経営者、政治家、警察官僚。たぶん現実と比べて、中らずと雖も遠からずなんですよね。マジで笑えない。

    そして本書で綴られる我が国日本の経済データは、本当に目をそむけたくなります。頼むから経済が安定するように、戦略を持った政治と行政をして欲しいものです。

    本作で一番の読みどころは、非正規の彼らが成長していく姿です。これまで戦ってこなかった者たちが、人との出会いや別れがきっかけで立ち上がっていく。これが痺れるんです。

    本書引用:
    強い者と戦うことなど意味はあるのか?我々は勝つと分かっている勝負なんてできない、まず勝負の場に立つことだ。

    カッコイイーーーーー、こんなまっすぐで力強い台詞を、胸を張って言えるような生き方をしてみたいものです。

    ■きっと共感できる書評
    私も若い頃、人生がうまくいかずに必死に生活していた頃を思い出してしまいました。本書の彼らと、なんら変わらない。

    ・気がついたら周りよりもレベルの低い生活をして、欲しいものも買えない。
    ・人とコミュニケーションをとるのが臆病になり、人間関係が広がっていかない。
    ・好きな女性ができても、自らの人生の将来性に疑問があるため、発展的な付き合いができない。
    ・自己研鑽より、なんとか今日を生きることしかできず、成長やキャリアアップまで頭が回らない。

    それでもなんとか前向きな人生に変えられたのは、一緒に働いていた良い仲間がいたおかげでした。

    冗談を言いながらも励ましてくれた友人。学習すべきスキルを教えてくれたり、進むべき方向を背中で示してくれた先輩。能力も学歴もない私に責任のある立場を任せてくれた上司。私にとって、彼らに出会えたことが、なによりの宝だったのです。

  • 「それでまず決めたわけだ。いい労働者になろうって」

    はい、太田愛さん『未明の砦』ですよ!

    以前読んだ『天上の葦』がめちゃくちゃ面白くずっと気になる作家さんだったんですが、三部作の最後を一番最初に読んでしまうという致命的なミスを犯してしまったがために、『犯罪者』は常に読みたいリストの上位にありながらなんとなく後回しにされ続けていた太田愛さんですよ

    でもなんか普通に借りれたんで
    まあまあの新刊で人気作なのに図書館行ったら普通にあったんで借りて来ました
    あれか?うちの地域は新刊は購入して図書館がすぐ新刊を配架してしまうことに一石を投じる派の人たちばっかなのか?
    だとしたらなんかすみません

    はい、本編!

    まさしく太田愛さんの「怒り」が詰まった傑作でしたね
    全ての文章の最後に怒りマークが付いてるようなそんな物語でした

    冒頭のセリフは最終盤で主人公の青年たちのひとりが発するセリフなんですが
    彼らが苦悶の末に辿り着いた「いい労働者」と利益を搾取し続ける一握りの老人たちが考える「いい労働者」の間に埋めようのない溝があって
    そんなところにも登場人物たちの「怒り」、太田愛さんの「怒り」が向けられているように感じ、自分もなんだか体が熱くなりました
    だけどそんな熱さも少し時間がたてばシュッと消えちゃうのも日本人なんだよなぁ〜って思ったり
    うん、なんかすみません

    それにしても驚愕すべきは太田愛さんの「噛み砕き力」です

    『天上の葦』のときもそうだったんですが、とにかく情報量が多い!そしてなんだか難しい!
    だけど難しいことを分かりやすく伝える
    しかもそれを(これがとても大事なんだけど)物語の邪魔をしないで伝える
    この物事を噛み砕いてやさしくする技術がすごい!
    大人気の塾講師か!っていう

    あれ?なんかこの例え違う?

    なんかすみません

    • 1Q84O1さん
      だったら諦めます!w
      だったら諦めます!w
      2023/11/16
    • kuma0504さん
      あれだ、太田愛なんて普段読まないから油断していたら、これは私が読んで解説を書かなくてはいけないヤツだ、と気がついて予約したのが10月1日、そ...
      あれだ、太田愛なんて普段読まないから油断していたら、これは私が読んで解説を書かなくてはいけないヤツだ、と気がついて予約したのが10月1日、それでも現在順番待ち7番目。これは来年2-3月にくるというヤツ。我が日本一の図書館借り出し数を誇るシステムではそうなっている。ざんねんだ。ツッコミを入れられない。
      2023/11/18
    • ひまわりめろんさん
      では、2-3月にまたお待ちしておりますw
      では、2-3月にまたお待ちしておりますw
      2023/11/18
  • ブクログのレビュアーさんたちから高い評価を受けていたので、気になって本作を手に取りました。ブラック企業と若者たちの闘いを描いた作品であり、非常にメッセージ性の強い作品だったように感じました。

    本作は公安警察が若者4人の確保に向かうところから始まります。その若者たちにかけられた容疑は、共謀罪。共謀罪とは、テロや暴力活動を未然に防ぐ目的で、危険因子を捕まえる際に発令する罪状とのこと。そんな珍しい罪状が通った背景には、大手企業の思惑があって…というような展開。

    ストーリー構成としては物語の発端から、主人公たちの努力や感情を揺さぶるような出来事、そして主人公たちが決起するまでが丁寧に描かれており、読み応えのある作品だったと思います。内容に関しては、労働組合や法律等も出てくるので、読み込もうとすると難しくはなるのですが、ストーリー展開だけを追っても十分理解できるのかなと個人的には思いました。

    私も大手メーカーの工場に勤めている若手社員であり、さすがに工場の稼働状況や労働環境はここまで劣悪ではないのですが、大手の工場現場の風潮とか企業のカラーに関してはすごく共感できました。

  •  読むのを楽しみにしていた一冊…すごかったぁ!600ページ越えの超大作…読み応え充分!さすが、太田愛さんです。読み終えるまでに日数を要しましたが、読めて本当によかった~ヒボさん、読めました(*^^)v

     この作品は、大手自動車メーカー勤務の非正規工員の4人が労働環境の改善を求めて、様々な人たちからの協力も得ながら行動を起こすストーリー…。それはこの4人のみならず、雇用形態に関わらず多くの労働者、そして経営者サイドや政治家、警察組織も巻き込む大きなうねりとなっていく…。

     もう…ぜひぜひ映像化をお願いしたい!ドラマでも、映画でもいいので…!!今の環境がたとえ劣悪なもので不満があったとしても、声に出さなきゃ、行動しなきゃ伝わらない…。そういえば…池袋の西武でストライキしたのは、先月のことだったかな…街頭インタビューでストライキのことを全く知らない世代もいて、逆にびっくりしたりもして(あ…年バレる(;'∀'))。この作品を読んで、みんなが同じ方向を向いて同じ目的のために一致団結する姿に、心が揺さぶられました。

    • かなさん
      1Q84O1さん、こんばんは(^O^)/

      ですよねぇ…やっぱ、知らないんだぁ(・・;)
      若いっていいなぁ~!
      そうですよ、私のこと...
      1Q84O1さん、こんばんは(^O^)/

      ですよねぇ…やっぱ、知らないんだぁ(・・;)
      若いっていいなぁ~!
      そうですよ、私のことはこれ以上は、詮索禁止っ(^_-)-☆
      2023/09/24
    • kuma0504さん
      私の元いた職場は闘う労組だったんで、しかも私は中執だったんで、ストライキは何度も「やり」ました♪
      交通止めるとか、大規模なストライキだけがス...
      私の元いた職場は闘う労組だったんで、しかも私は中執だったんで、ストライキは何度も「やり」ました♪
      交通止めるとか、大規模なストライキだけがストライキじゃない。いろいろあるんですよ。
      2023/09/26
    • かなさん
      kuma0504さん、おはようございます(^^)
      そうなんですね!
      kuma0504さんは何度もストライキをやったことがある!!
      スゴ...
      kuma0504さん、おはようございます(^^)
      そうなんですね!
      kuma0504さんは何度もストライキをやったことがある!!
      スゴイっ!!!
      私は、ストライキは傍観していたほうなので…
      でも、以前は熱いストライキ展開してましたよね!
      最近はめっきり聞かなくなって、
      先月西武デパートのニュースがあって、ちょっと懐かしくなり、
      さらに、この作品を読めたので興味を持てるようになりました。
      2023/09/26
  • 「天上の葦」で感銘を受け、楽しみにしていた太田愛さんの新刊は読み終えるのに1週間、なかなかの大作です。

    私自身が仕事の関係で労働法関係には少しばかり知識があり、かなりリアルに感じることが出来ました。

    非正規で働く人がここまで日本で増えたのは間違いなく派遣労働者の解禁があったから。

    法の根底にあるのは派遣はあくまでも臨時的、一時的な雇用であること。

    法改正を繰り返す中で現行法では派遣会社には派遣労働者の保護が明確に義務付けられています。

    臨時的、一時的が根底にある中で、雇用の安定を図れという真逆の事を求めている時点でいかに無理があるかを証明しているように思います。

    そこに労働契約法の改正により定められた無期転換、これ自体は有期雇用で働いてきた人達にとっては明るい話であったように思いますが、本書で語られる通り抜け道だらけのザル法としか言いようがない。

    つい最近、ようやく最低賃金が全国平均で1,000円を超えるなんてニュースが話題になりましたが、世界的にみても日本の賃金はまだまだ安い。

    都内を中心にホテルの稼働率を見ても、海外からのインバウンドは中国人の団体客が入って来てはいませんが、それを除けばコロナ前の水準に戻りつつあります。

    確かに円安の影響もあるでしょう。

    ただ、今日本に来ている外国人は中国を除く東南アジア諸国の人々(ドル圏ではない)が最も多いのも事実。

    GDPは世界3位の日本に海外から多くの方が訪れる理由は全てではないでしょうが、世界トップレベルのサービスを安く受けられたり、高品質の物を安く購入出来ることもその要因の一つだと思う。

    日本で生活をしていると特に最近の物価高で安いなんて感じませんが、それは日本の賃金が上がっていない(物価高と比較しても賃金の上げ幅が追いついていない)からで、実質賃金はむしろ下がっているのが現状。

    年々、非正規と呼ばれる働き方をしている人々が増え、最新の賃金構造統計を見ても日本の平均年収は未だ300万を少し超えたところで水位。

    少なくてもこの20年、平均年収はほぼ上がっていません。

    賃金が上がり続けている世界の人々からすれば、今の日本は「安い」と感じているのではないでしょうか?

    大企業を中心に過去最高益や税引後営業利益1兆円なんてニュースも話題になりましたが、それでも賃金が上がらない(=内部留保)こと、超富裕層と呼ばれる一部の人とそれ以外の人々との格差はこれからもっと大きくなっていくでしょう。

    法治国家である以上、法は遵守すべきもの。

    しかし、本書で語られた内容のように、法を作る国会議員が、大企業の犬であるならば、弱者である労働者は救われない。

    そして、労働者の中でも非正規と呼ばれる人々が増え続ける今の日本の社会において、弱者が大企業を相手に闘うド直球の社会派作品。

    今を生きる事に精一杯の多くの現役世代の人々、今の子供たち世代がまともな生活をしていける未来に不安を感じる私にとって、実体験をもとにウンウン確かにそうだよって感じながらも、読み終えた本書がフィクションであることをただただ願いたい。






    共謀罪、始動。標的とされた若者達は公安と大企業を相手に闘うことを選ぶ。

    その日、共謀罪による初めての容疑者が逮捕されようとしていた。動いたのは警視庁組織犯罪対策部。標的は、大手自動車メーカー〈ユシマ〉の若い非正規工員・矢上達也、脇隼人、秋山宏典、泉原順平。四人は完璧な監視下にあり、身柄確保は確実と思われた。ところが突如発生した火災の混乱に乗じて四人は逃亡する。誰かが彼らに警察の動きを伝えたのだ。所轄の刑事・薮下は、この逮捕劇には裏があると読んで独自に捜査を開始。一方、散り散りに逃亡した四人は、ひとつの場所を目指していた。千葉県の笛ヶ浜にある〈夏の家〉だ。そこで過ごした夏期休暇こそが、すべての発端だった――。

    自分の生きる社会はもちろん、自分の人生も自分で思うようにはできない。見知らぬ多くの人々の行為や思惑が作用し合って現実が動いていく。だからこそ、それぞれが最善を尽くすほかないのだ。共謀罪始動の真相を追う薮下。この国をもはや沈みゆく船と考え、超法規的な手段で一変させようと試みるキャリア官僚。心を病んだ小学生時代の友人を見舞っては、噛み合わない会話を続ける日夏康章。怒りと欲望、信頼と打算、野心と矜持。それぞれの思いが交錯する。逃亡のさなか、四人が決意した最後の実力行使の手段とは――。
    最注目作家・太田愛が描く、瑞々しくも切実な希望と成長の社会派青春群像劇。

    著者について

    ●太田 愛:香川県生まれ。「相棒」「TRICK2」などの刑事ドラマやサスペンスドラマの脚本を手がけ、2012年、『犯罪者 クリミナル』(上・下)で小説家デビュー。13年には第2作『幻夏』を発表。日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補になる。17年には上下巻の大作『天上の葦』、20年には『彼らは世界にはなればなれに立っている』を刊行、話題を集める。

    • かなさん
      労働環境をめぐる社会派ストーリー
      大好物です!
      いつか、絶対に読みますよ(*^^*)
      ヒボさん、ありがとうございます!
      労働環境をめぐる社会派ストーリー
      大好物です!
      いつか、絶対に読みますよ(*^^*)
      ヒボさん、ありがとうございます!
      2023/08/06
    • ヒボさん
      かなさん、おはようございます♪

      朝起きてから少しレビューも追加してみました。

      本書の内容に触れるというよりは、まさに私の感じる事って感じ...
      かなさん、おはようございます♪

      朝起きてから少しレビューも追加してみました。

      本書の内容に触れるというよりは、まさに私の感じる事って感じで、少し熱くなっちゃいました。

      ただ考えれば考える程、思う事は際限なく出てくる感じで...^^;

      大作ですが、是非手にしてみてください。
      2023/08/06
    • かなさん
      ヒボさん、こんばんは!
      うんうん、そうだよねって思いながら
      追加されたレビューも読みました。
      今の社会問題を赤裸々に描き、
      読者に問...
      ヒボさん、こんばんは!
      うんうん、そうだよねって思いながら
      追加されたレビューも読みました。
      今の社会問題を赤裸々に描き、
      読者に問題提起して意識を高める作品って、
      必要ですよね!
      太田愛さん、流石です。
      いつになるかは、なんとも言えないけれど
      必ず読みたいと思います(*^-^*)
      2023/08/06
  • 大手自動車メーカーで働く4人の非正規行員。
    派遣や一定期間という先の不安定な彼らが、夏休みに帰る家もないことを知っていたかのように現場の班長である玄さんの亡き妻の実家へ招待される。
    少しの休憩だけでの仕事に疲れ、今まで話しをしたこともなかった4人が、ここでの体験から力を合わせてやろうとしたことは…。
    彼らたちの熱い闘いが始まったのは、職場で玄さんが亡くなったことからより加速する。

    派遣社員のことを深く知りもしなかったが、昔からあったわけではなく、90年代以降、企業が労働力を非正規に頼るようになり、その結果、低賃金で働く労働者が増えた。
    会社側としては正社員より派遣を雇っているところも多くあるように思う。
    期間で雇い止めになったり、リストラ要因として真っ先に首を切られるのが派遣であるのは、会社側の都合である。
    だが、派遣としては従うしかない…というのが現実。
    実際、コロナ禍において職を失った者の多くは、派遣社員ではなかっただろうか?


    物語の終盤に向かうにつれて、政治家とキャリア官僚の腹黒さに失望よりも怒りが勝った。
    高齢政治家がいかがわしい団体と平然と手を組み、利権に群がり、法と人事を弄び、これでもかというほど国を破滅し尽くしてきた。とあったがまさしくそうだと頷ける。

    この国ではこれから先、貧富の差が急激に拡大する。
    一握りの超富裕層と若干の富裕層、その他大勢の貧困層と極貧層へと分化する。
    この流れは加速し、想像を絶する格差が生まれる。
    社会は不安定になり、犯罪が増加する。〜これも今近い状態にあるのではないかと思う。


    組織に潰されながらも諦めずに彼ら4人が成し遂げたこと。
    彼らがこんなにも変わるとは思わなかった。
    だが、現実をみると何かしないと変わらないということがわかる。
    黙って我慢だけしてるのでは、いいようにされるだけ…使い捨てされるだけ、なのだ。


    感動というよりも心に残ることばがたくさんあり、読んでよかったと思える一冊だった。


    「力のある人とその近くにいる人たちがより豊かになるのではなく、大勢の普通の人たちが生きやすい世界へと変えていくためには、力を持たない私たちが声をあげるところから始めるほかない。」

  • あなたの会社は大丈夫?

    働いていると誰しも大なり小なり不満はあるでしょう!

    だけど、これはダメだわ!
    世界に名を轟かせる大企業がこれじゃあダメだわ!
    むしろ、大企業だからこれなのか…


    工員のことを人間と思っていない会社
    非正規はできるだけ切りつめるべきコストと考えている

    もしかすると非正規工員は機会以下なんじゃないか
    機会が故障したらラインが止まって一大事
    機会が故障したら自力では治らないから、修理や取り替えでもの凄い金がかかる

    しかし、非正規はいくらでも取り替えのきく安い部品みたいなもので、メンテナンスの必要もない
    使いものにならなくなれば、契約更新をせず別の奴と取り替えれば金もほとんどかからない

    完全に壊れたら、つまり死んだら、形だけ昇進させて終わるだけ
    過労死でも労災は認めない

    使い捨てが当たり前とされている非正規工員が大企業を相手に闘う!

    『俺たちが、人間だってことをわからせるために!』


    こんな企業を見てるとうちの会社は優良企業だなと思います!
    もちろん、辛いこと、きついこといろいろありますよw

    • 1Q84O1さん
      かなさん、お給料増えませんかねーw
      どーんと、増えませんかねw
      増えませんよね…(^.^;
      私もコツコツ頑張りますよぉ〜!
      かなさん、お給料増えませんかねーw
      どーんと、増えませんかねw
      増えませんよね…(^.^;
      私もコツコツ頑張りますよぉ〜!
      2023/12/04
    • アンシロさん
      1Q8401さん、こんばんは。

      太田愛さん、ブラック企業をテーマにした作品もあるのですね。yukimisakeさんに『犯罪者』を勧めて頂い...
      1Q8401さん、こんばんは。

      太田愛さん、ブラック企業をテーマにした作品もあるのですね。yukimisakeさんに『犯罪者』を勧めて頂いて今読んでいますが、太田さんすごいですね〜面白い(*^^*)こちらも読んでみたいです。

      しかし、うちの会社は大丈夫では…ないかもしれない笑。頑張りすぎないように頑張ります(*^^*)
      2023/12/05
    • 1Q84O1さん
      アンシロさん、おはようございます!
      『犯罪者』面白いですよね^_^
      よければこちらも読んでみてくださいね!
      そして、アンシロさんの会社は大丈...
      アンシロさん、おはようございます!
      『犯罪者』面白いですよね^_^
      よければこちらも読んでみてくださいね!
      そして、アンシロさんの会社は大丈夫ではないですか…w
      生活のためにも仕事は大切ですが、頑張りすぎないようにですねw
      2023/12/05
  • 600ページ超の大ボリュームにビビりましたが、
    読める読める。まるでテレビドラマを観ているようにワクワクドキドキでページをめくり、最後まで飽きることなく楽しめました。
    太田愛さんの他の作品にも大注目です。

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著者プロフィール

香川県生まれ。「相棒」「TRICK2」などの刑事ドラマやサスペンスドラマの脚本を手がけ、2012年、『犯罪者 クリミナル』(上・下)で小説家デビュー。13年には第2作『幻夏』を発表。日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補になる。17年には上下巻の大作『天上の葦』を発表。高いエンターテインメント性に加え、国家によるメディア統制と権力への忖度の危険性を予見的に描き、大きな話題となった。

「2020年 『彼らは世界にはなればなれに立っている』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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