聞かなかった場所 (角川文庫 ま 1-31)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041227572

作品紹介・あらすじ

役所勤めの浅井が、妻の死を知ったのは、出張先の宴会の席であった。外出中、心臓麻痺を起こし急死だったという。発作は、どこでどう起きたのか。義妹によって知らされた死に場所は、妻から一度も聞いたことがなかった地名であった-。死の真相を探るうちに、思わぬ運命に巻き込まれていった男の悲劇を描く復讐サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 聞かなかった場所(角川文庫)
    著作者:松本清張
    発行者:角川書店
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    ふとしたことから膨らむ心の闇を描くある男の復讐劇。

  • 小役人である浅井の妻が死ぬ。心臓麻痺で突然死ぬ。しかしその倒れた場所は、浅井が聞いた覚えもない場所であった。
    …という発端は、謎としてなんとも魅力的である。

    妻が何故そこにいたのか、を追う部分が、前半。分量的にも、全体のなかほど強あたりまで。
    そして、とある人物を追い詰めていこうとするのが後半。
    しかし、この前半と後半、トーンがまるで違うのだ。
    書いている時期に、時間的な断層があるのかと思うほど。

    結末に割かれるページは、意外と少ない。
    どんどん追い込んでいく割に、最後はあっさり。それも、無垢・善意によって切り返されるのが、ぴりりと小粒なスパイスになっていると言えるかもしれない。

    松本清張得意の断崖は出てこないけれど、列車は登場。
    なんとも小心な小ものや小役人を描く筆は闊達。

  • 「松本清張」の長篇ミステリー『聞かなかった場所』を読みました。

    「松本清張」作品は、今年の4月に読んだ『内海の輪』以来ですね。

    -----story-------------
    妻の死の真相を追って運命に翻弄される一人の男。
    力作長編。

    農林省の係長「浅井」が妻の死を知らされたのは、出張先の神戸であった。
    外出先での心臓麻痺による急死とのことだったが、妻が倒れた場所は、妻が一度も口にしたことのない町であった…。
    一官吏の悲劇を描く力作長編。
    -----------------------

    農林省の係長「浅井恒雄」は神戸への出張中に妻「英子」が心臓麻痺で急死した… 元々「英子」には軽度の心筋梗塞があったのだが、倒れた場所に不信感を抱いた「恒雄」は、妻の死の真相を知るために調査を始める、、、

    「恒雄」が被害者として真相を探り加害者を追い詰める前半、

    一転して脅迫される立場となる中盤、

    そして加害者として自ら仕掛けた罠に自ら陥り、農協職員の誠実さにより事実が明るみになる後半… と、それぞれの展開に応じた心理描写が愉しめる作品でした。


    自然体でいれば明るみにならなかったかもしれない犯罪が、隠蔽しようと工作を仕掛けた影響で… しかも、悪意のない誠実な農協職員の行動から見破られてしまうという皮肉な展開が面白かったですね。


    被害者って、加害者になってしまう要素を持っているもんですよねぇ… 怖い。

  • <蟷螂の斧 自制心と暗い衝動>

     しがない公務員、浅井に嫁いだ身の丈に合わない美麗な妻、英子。そんな妻がある日、持病の悪化により急逝してしまう。その妻が亡くなった場所は、浅井には思い当たる節の無い、縁もゆかりも無い場所だった。

     そこに絡むタイトル。。

     真実を知る為に、そして自分の仮説を否定する為に、推察と調査を重ねるほどに、信じたくない真実が近づいてくる。
     丁度、境内にある小池で、水面に向かってゆらりと浮かび上がってくる鯉を見つけた時みたいな。
     もう、鯉であることは間違いない。でも、鯉が口を水面から突き出す瞬間まで見つめてしまう、みたいな。
     どう転んだって、鯉である。そんな確実性をもって、ぬるぬると真実と鯉は近づいて来る。

     舞台は暗転。
     逃げようとすればするほどに、偶然と自分で掘った墓穴に足を絡め取られる。因果応報とはまさにこのことか。
     しかし、ここまで結び付けられてしまうものなのか、重なってしまうものなのかと思う。もはや神的な意志によって、絶望に誘い込まれているのでは? とまでも思える。でも、わざとらしくならない。それは浅井の心理描写が『そうゆう人間』そのものの動きやから、だと思う。すごく自然なのだ。

     最期はたった数行。
     しかし物語のその先にあるエンディングは明瞭にイメージさせられる。

     堅実な生き方を重ねてきたのに。ぶち壊したのは、自分自身。
     そう思う一方、突き動かされた浅井の気持ちが理解できないわけではない。もし自分が、、と主人公に重ねてしまって、胸が締め上げられた人も多いのではないか。

     残酷な真実を無理に掘り起こす行為は危険なのかもしれない。危険やからこそ埋まっている。掘り起こせば最後、そんな真実よりも暗く重たい自分の衝動が襲いかかってくる。半端な覚悟では、あっという間に飲み込まれてしまう。

     と、、なんかかっこよく書いてみました。いかがかしら。笑

     あんまり書きすぎるのは良くないと思いつつも、熱中するあまり朝の通勤電車を乗り過ごしかけたのは久しぶりなのでその熱が乗ってしまいました。笑

     文中『活字が模様の様に見える』って表現があるんですが、これは「分かるっ、、」てなりました。

  • 妻の死から始まる物語。役所勤めの男の妄想が引き起こす事件と隠し通そうとする葛藤が描かれた作品。

  • 農林省のノンキャリア役人の夫は、出張中に心臓発作で妻が急逝したことを電話連絡で知る。しかし、妻の死に不審を抱く。興信所による再々の調査によって、妻の不貞が明らかになってくる。相手の男をふとした激昂から危めてしまう。

  • ラストの滑稽さがとてもよかった。自然と感情移入してしまうのは松本清張ならでは。

  • 読んだ後の、動悸の激しさがすごい。2-3時間は眠れなかった。心理描写がとても上手。最後50Pは、自分が犯人にでもなったような感覚にさせてくれる。
    松本清張さすが!!

  • とても高名な作家なのに、松本清張さんの作品を読むのはこれがはじめてのような気がします。ミステリードラマの筋書きみたいで、知らず知らずに避けていたようです。ズバズバと核心に迫るのではなくその辺りをうろうろしながら近づいていくようなじれったい描きかたは好き嫌いがあるでしょう。
    ちょっとしたきっかけで殺人を犯したした心弱き犯罪者の心理が、うんうんそうだろな、と思えるほど的確に描かれていました。松本清張さんの小説の終わりかたがいつもこんなかたちなのか、もう一冊、機会があればぜひ確かめてみたいです。

  • 再読。巧い・・。再読。傷ついた主人公の自尊心は妄執を生み、疑念にとり憑かれる。その執着には復讐者の憎しみ(狂気)ほどの苛烈な高まりはないが、そんなところはむしろ人物像(苦労人でもある役人)に現実味をあたえている。ゆっくり対象を追いつめる主人公の心理にひきこまれた。後半部の展開も冴え、運命の歯車のゆっくりと回転するさまが巧妙に描かれている。追われる立場に陥った犯罪者の慄き(怯え)を描いては著者の独擅場である。主人公は破局を避けようと画策するもことごとく裏目に出る。最後の犯罪が露呈する(面が割れる)滑稽な場面(顛末)は秀逸。

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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