- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041308639
感想・レビュー・書評
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妖怪や都市伝説で語られる「くだん」のことが描かれた作品『くだんのはは』が収録されていると知って、数年前に購入。
今回で、二度目の読了。
「くだん」にしてもそうなのだが、いわゆる民間伝承や怪談をモダンホラーとして構築している手腕にただ脱帽する。
この系統で挙げると、『さとるの化物』と『まめつま』も楽しめるだろう。
「さとる」とは、「さとり」と呼ばれる妖怪のこと。
この作品は、特に描かれた視点が良い。
収録された幾つかの作品では、戦争の匂いを感じる。
あとがきを読んで、なるほどと思った。
体験した者でなければ醸し出せない、ニュアンスなのだろう。
勿論SF作家なので、空想科学も幾つか恐怖な作品が収録されている。
『影が重なる時』なんかは、もはやSFに対し自虐的。
また発展途上国の土着信仰や、欧米の絶滅危惧種に絡めた作品も味わい深い恐怖を体験できる。
狂気と妄執とアイロニー。
かなりバラエティに富んだ、ボリューミーな一冊。
面白い短編を読みたい方にも、書きたい方にもお勧めです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
15編収録の作品集。
SF作家の小松さんが描いたホラーだけあって、人の怖さだけでなく、超常現象や怪物といったスケールが大きかったり、また人外のものの怖さであったり、というものが印象的です。
そして、もう一つ印象的なのが、戦時下や戦争をテーマとした短編の迫力や雰囲気。1930年代生まれで戦争を知っている世代だからこそ描けたであろう、雰囲気やアイディアが光っています。
そうした戦争をテーマとしたもので特に印象的なのが「召集令状」
突然若者たちの元に届いた赤紙。それを受け取った若者は数日のうちに、謎の失踪を遂げてしまい……
戦前と戦後の断絶と、そこに押し込まれた闇を見事に体現した短編でした。こうしたアイディアがでるのもそうした世代ならではの作家さんが感じた、当時の空気感が反映されているのかと思います。
突然人々が、自分にしか見えないドッペルゲンガーを目撃しだす「影が重なる時」もラストが印象的。
突然の展開とラストの断絶は、戦争という突然に命が失われる時代に生きていた人だからこそ描けるものだったのだと思います。
そして「くだんのはは」は空襲で家を失い、伝手をたどって住むことになったお邸に居候する少年が主人公。
このお邸の娘がまったく人前に姿を現さず、また、そのお手伝いさんの世話の様子もどこか不気味さが漂います。作中のピンと張りつめたような空気感と、不気味さがたまらない作品です。そして、この娘と戦争の結び付け方もなんだか因果なものを感じさせるものでした。
「消された女」は誰もいないはずのホテルの部屋にいた女をめぐって、話が二転三転します。頭がグルングルンと振り回されるような感覚が、なんとも印象的な短編です。
自宅から庭から骨が見つかった男の顛末を描く「骨」
庭を掘っていくごとにどんどんと掘り出される骨。しかもおかしなことに、掘り進めるごとに、古代人の骨から、中世、近代、そして現代と骨が移り変わっていき……
悪夢の中を彷徨っているかのような、不可思議な読み心地。主人公が現実感を失っていくように、読んでいる自分も現実感が薄れていくかのような気持ちになっていきました。
表題作の「霧が晴れた時」は家族で登山に行った男が主人公。
話のネタとしては、今となってはベタな展開でもありますが、筆勢で読ませる短編になっています。不安感が徐々に高まってくる書きっぷりは見事です!
バラエティー豊かで、単純な怖さだけでなく、幻想や奇想、SF、怪物といろんな味が楽しめる短編集でした。 -
SF小説の大御所、小松左京氏のホラー短編集。名作『くだんのはは』をはじめホラー好きにはたまらない傑作揃い。
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小松左京の短編集です。
読後の感想一言、 怖い。
現代風にアレンジすれば「世にも奇妙な物語」で
出てきそうな内容です。
内容としては、
古事記などの古典や大戦中の話など織り込まれていたりするので、
ものによっては少し良く分からないものもあったのですが、
うそ寒い感じだけは全作品共通です。
古典文学がお好きな方には面白いかもしれません。
個人的には「召集令状」と「くだんのはは」、
「影が重なるとき」、「黄色い泉」が好きです。
「影が重なるとき」と「召集令状」はパラレルワールド感のあるSF調、
「くだんのはは」は大戦中の神語(?)調、
「黄色い泉」は古事記のイザナギが黄泉の国を訪問する話が モチーフです。 -
『くだんのはは』が読みたくて購入。『召集令状』もおもしろ怖かった。
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2013/9/30
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SFホラー。不条理なところが面白い。「くだんのはは」と「秘密(タブ)」が好き。
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怖くはない。奇妙な怪談。
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「骨」の不気味さがいい。
全体的にノスタルジックな感じを受けるが、そこがまた怖さにつながっている。 -
図書室の常連の女の子が受験で北に旅立つ前に貸したのがまずった一冊。” 先生、小松左京の「くだんの母」が読みたい!” と言われて、”いやいや、あれもええけど、「保護鳥」「霧が晴れた時」「黄色い泉」も怖くてええよ~” と、新刊を。”おもしろくて受験前の一日ずっと読んで読み終えてしまった!”と卒業前に返してくれたが、北の大学に合格してくれてちょっとほっとした。やっぱり、小説というより文章が下手やなぁ~、と思いつつ、高校生時代に耽読した小松左京を楽しんだ。中年オヤジになると「逃ける男」がおもしろい。昨年亡くなられたのが残念だ。合掌。