絵巻 (角川文庫 な 6-7)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041372081

感想・レビュー・書評

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  • 「炎環」が源氏側のお話なのに対してこちらは朝廷側のお話。構成が凝っていて短編に浄賢法印の日記が入る。短編が絵巻、日記が枕書ということですが、これも少々間に入ることによって、わたしには読み辛かった。短編はすらすら頭に入るのに日記は入らないのは何故だろう?有名なエピソードも入っていたりスポットを当てたのが平知泰とか源通親などで、ここで繋がるのかと興味深く読めた。

  • 信西の息子・静賢法印の日記を詞書として絵巻の手法で表現している。
    この手法はあまり受け入れられなかったそうだが、5つの短編連作と詞書が歴史の表と裏を表しているようで面白かった。
    権力に魅せられそれを極めた先に破滅がある、歴史はそれの繰り返しなのだなとしみじみ感じた。

  •  オムニバスというよりまさしく文字による「絵巻」は、各巻の主体とその近辺が鮮やかに描かれ、時として醜悪な図すら“絵”になる仕組みが素晴らしい。
     これらを繋ぎ、総合的に解説する役割の『詞書』の部分では、観察者に徹した静賢法印の叙述表現に感嘆することもしばしば。
     特に、後白河法皇の卓越した美的感覚と、政治的愚劣さの共棲に着目する下りは見逃せない。
     相反する資質が一人の人間の内に巣食う、不可解さとやりきれなさへの絶望。
     淡々とした語り口故に、その苦渋が沁み入ってくる。
     現状への不満に擦り替えられた、薄っぺらい無常観を痛烈に批判し、愛にも見紛う欲望の逞しさを、現実への足跡と見る。
     “いのちのからみあいこそ人の世の絵巻”――。
     紐解いたそれを終え、世界もが閉じるような感覚の見事さは、著者の力量ならでは。
     余談として、盛衰激しい源平期の一端に過ぎない源義仲の描写に、愛情のまなざしがふっと垣間見える気配があるのが嬉しい。
     都にて失われた純真さ、痛ましさが、簡明ながら哀悼をもって示される。

  • (2005.07.07読了)(2005.05.05購入)
    直木賞受賞作の「炎環」は、鎌倉の源頼朝の周囲の人々を扱った連作でした。
    本屋で、何気なく手に取った「絵巻」は、京都の後白河法皇の周囲の人々を扱った連作ということなので、読んでみることにした。題名に、源氏とも平家とも書いてないのに、平家物語の時代を扱っているものがあるというのは、本探しというのもなかなか難しい。

    5つの話と、それぞれの話を補う静賢法印の日記から構成されている。5つの話が絵巻の絵の部分で、日記が詞書の部分という見立てになっている。
    第1話、「すがめ殿」は、平家一門の発展の元を作った平忠盛の話。
    白河法皇のお気に入りの祇園女御に、忠盛は白河法皇同様あれこれ世話をしている。そのうち、祇園女御の妹の兵衛佐局とねんごろになる。白河も、祇園女御の元へ通ううち、兵衛佐局に手をつけたという噂が巷に流れる。そのうち、兵衛佐局が身ごもり子供が生まれる。忠盛は、その子を自分の子として育てる。平清盛である。
    第2話、「寵姫」は、後白河法皇の侍女として献身的に仕えた丹後局の話。(大河ドラマでは、夏木マリが演じている。)
    丹後局(元の名を高階栄子という)は、相模守平業房の妻で、二男三女を儲けている。その平業房が反平家クーデターの張本人として捕らえられたとき、夫を助けたいために、鳥羽に幽閉された後白河に侍女としてもぐりこんだ。何とか助けてもらおうとあれこれ手を尽くしたが、もはや助けられないとわかったとき、栄子は泣き伏し、後白河は慰めようと・・・。
    栄子は女ざかり、後白河は、女気なしの2ヶ月。栄子は、後白河の子を産み、丹後局と呼ばれ、後白河に献身的に仕えた。
    第3話、「打とうよ鼓」は、平知康の話。(大河ドラマでは、草刈正雄が演じている。)鼓判官といわれたほどの鼓の名手。
    平知康は、木曾義仲に「そもそもそなたは鼓判官といわれるそうがな、そりゃ面の皮を張らりょうがためか、さ、どうだ」と言われた。後白河法皇と図って、山門の僧兵を動かし義仲を討とうとしたが、無理な話だった。木曾義仲が都にいるうちは姿を消し、義経がやってくると、義経のところによく出入りした。義経がいなくなると、鎌倉に現れ、頼家に近づき、鞠の名手を都から呼び寄せ、鞠に夢中にさせた。頼家が家督をはずされると、平知康はどこへともなく去った。
    第4話、「謀臣」は、今様光源氏として騒がれた源通親の話。関白の九条兼実(日記「玉葉」の著者)に変わって権力の座を手に入れる。
    第5話、「乳母どの」は、後鳥羽上皇のお気に入りの乳母、藤原兼子の話。第4話の源通親の協力者でもある。したがって、第4話の続編でもある。

    公家の世界の権力争いも、なかなかにすごい。権力の世界は、古今東西余り変わらないということなのでしょうけど。

    ●単行本・文庫版
    「絵巻」永井路子著、読売新聞社、1966年12月
    「絵巻」永井路子著、新潮文庫、1984年3月
    ☆関連図書(既読)
    「義経(上)」司馬遼太郎著、文春文庫、1977.10.25
    「義経(下)」司馬遼太郎著、文春文庫、1977.10.25
    「炎環」永井路子著、文春文庫、1978.10.25
    「大塚ひかりの義経物語」大塚ひかり著、角川ソフィア文庫、2004.09.25
    「義経」宮尾登美子著、日本放送出版教会、2004.11.25
    「平家物語を読む」永積安明著、岩波ジュニア新書、1980.05.20
    「平家物語」高野正巳訳・百鬼丸絵、講談社青い鳥文庫、1994.04.15
    「平泉 よみがえる中世都市」斉藤利男著、岩波新書、1992.02.20
    「奥州藤原氏 平泉の栄華百年」高橋崇著、中公新書、2002.01.25
    「源義経」五味文彦著、岩波新書、2004.10.20

    著者 永井 路子
    1925年 東京生まれ
    東京女子大学国語専攻部卒業

    (「BOOK」データベースより)amazon
    人間の欲望と権力―栄枯盛衰の源平の世、その裏にある、後白河法皇の不気味な存在…。そして周囲にはびこる巨大な権力にこびへつらう人間模様。かわらぬ人間の欲と、変転きわまりない時代の流れを絵巻に準え、かつての独裁者入道信西の子であり冷徹な観察者でもある静賢法印の「日記」を「詞書」とした連作小説の傑作。

  • 平安時代末期から鎌倉初期の時代を、絵巻風に書いた歴史小説。
    絵巻風と言うのは、5つの短編からなる連作の間に、静賢法印の日記を普通の絵巻のことば書きのように挟んで、5つの物語が一幅の絵巻のように見せようと筆者が試みた書き方なのだが、私はなかなか面白いと思った。
    ページ数は少ないが、まるで平家物語を読んでいるような雰囲気。平家物語も、最初は平清盛を中心に、色んな登場人物が入れ代わり立ち代り出てきては、その人物の視点で物語が進んでいき、凄く壮大な感じだけれど、いかんせん、登場人物が多くて、それに合わせて視点の移り変わりも激しいので、普通は小説を読んでると主人公なりに気持ちが入りこんで、のめりこんでいくのだけれど、平家物語に関してはそれができにくくて、話しも長いし、読むのが大変だった。
    それに比べ、こちらは同じ時代を扱っているものの、時代の変遷ごとに5人の人物を主人公とした短編で、それが間に入る「日記」によって上手く繋がっていて、とても読みやすかった。それにで、5つの短編のそれぞれが、朝廷側の人間で、「日記」の静賢法印は、後白河法皇の側に仕える人間なので、貴族達の権謀渦巻く姿や、無気力な冠位ばかりを欲しがり、無能な様、政治的駆け引きや、変転していく時代の中での人間模様などが、とても面白かった。権勢を極めた人間達が、やがては時代の波に飲まれて、新しい勢力に押しつぶされていく。
    栄枯盛衰なんだろうけど、そんな単純な事ではなく、大きな時代の流れの中の、ほんのひとコマのドラマなんだなぁ〜。時代は本当に流れていってるんだなあ〜。でもその中にいる当事者には、その動きが見えにくいものなんだな〜。ってな事を改めて認識させてくれた作品だと感じた。
    後白河法皇の側に仕えた静賢法印の日記と言うことで、後白河の存在は、この作品に大きな存在として浮かびあがっているが、後白河の新たな側面を見たと言うか、世で言う権謀家ではなく、芸術や遊びが好きで、政治の事も、自分が面白いように引っ掻き回してくれた、って感じた。元々、平家打倒の計画を2度も失敗したあたりのやり口から見たって、決して頭が良いとも思われなかったし、その後の木曾義仲や義経、頼朝との掛け合いと言うか、やり取りも、頭の良い人がやってる事とは思えなかったので、この作品で、改めて後白河は美に関する感覚は優れていたが、政治的には無能力者だった、と評価されている事に、ヤッパリって思ったし、その生立ちや性格、行動などの裏付けの部分を読むと、十分に納得できる解釈だと思った。
    普通の歴史の学習や、平家物語、その他の作品を読むと、大抵は、源氏か平家の誰かが主役なので、武士同士の争いや、武士対公家の構図で書かれたものが多くて、この時代の本当の姿と言うか、もっと複雑な駆け引きのようなモノがなかなか見えずにいたが、この作品のお蔭で、この時代が、前よりも良くわかるようになってきたような気がする。
    登場人物達も、実に人間臭くて生き生きとしていて、とても面白い人間ドラマだった。

  • こちらは「炎環」の京都バージョン。
    解説めいたものを一人の人物の日記という形で語っているのが面白い。歴史上のスケールとしては「炎環」の方が大きいと思うのですが、描き方は「絵巻」が好きかも。

  • 源平合戦の頃の朝廷の話
    後白河とか兼子とか源通親などの裏貴族な話がたっぷりです
    序盤主語が誰か分かんないんで結構イライラしてしまうかもしれません、が
    分かってくるとなかなか面白いです、兼実がなんか可哀想な扱い

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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