天使の囀り (角川ホラー文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041979051

感想・レビュー・書評

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  • ホスピスに勤務し終末医療に携わる精神科医の北島早苗。彼女の恋人で作家の高梨は、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加し、その様子を彼女にメールで送ってきていた。帰国後、彼が異常なまでに食欲と性欲を抑えきれない様子に早苗は違和感を覚える。しかも、極端に死を恐れる「死恐怖症(タナトフォビア)」だったはずの彼が、なぜか薬を大量に服用して自殺をはかった。その後、同じ調査に行ったメンバーが次々に不審な死を遂げていることに疑問をもち、調べるうちに恐ろしい推測に辿り着く…。

    貴志祐介の中では『黒い家』が最も好きだったが、本作はそれを上回る面白さだった。タイトルと、天使を描いた(改訂前の)カバーデザインから、こんなグロテスクな話だとは思いもよらなかったが、大抵のグロが大丈夫な私でも、本作ではうすら寒く感じるような場面がいくつかあった。クライマックス近く、早苗と依田が施設に乗り込むところも大変気持ち悪くてよかったが、最も恐ろしかったのは、早苗が依田の部屋で2人きりになり悪夢を見た後の展開だ。物語に入り込んで鼓動が速くなるほど怖かった。

    ひとしきり怖がらせた後で、まさかと思うようなオチを最後につけてくれるのも驚いた。寄生虫への感染、それがもたらす快楽は絶対に人を幸せになどしないと思った後に、早苗があんな行動に出るとは……。

    内容の細かい部分に関しても、ともすれば見落としがちな何気ない描写に、真相に繋がる数々の伏線が散りばめられていたり、お見事としか言いようがない。

    生命の神秘と怖さ、死の恐怖と尊厳死、様々な問題を突きつけられたように思う。

  • これほんとにグロすぎて、読み終わった後は逆にスカッとする。内容やそれに伴う情報が驚くほどしっかりしていて作者がどんなにリサーチしたのかが伺える。

  • 12年位前に読んで懐かしくて再読。内容も覚えていなくて「気持ち悪かった本」しか記憶にない為殆ど初読。この頁数でぐいぐい引き込まれるのは2/3以降なので最初は我慢。頁が進むにつれてどんどん気持ち悪さが増していく。どこかすっきりしない結末が余計にリアルさを掻き立てる。 昔から、ぶよぶよになった緑のイソギンチャクが急に弾けたり、蜘蛛が潰れたりする悪夢をよく見た。その元凶がまさかこの本だったとは…。思春期に読む本にしては影響が強すぎる。やっぱり貴志祐介は恐ろしいなあと思いながら本屋で別作品を漁ってしまった。

  • めちゃ気持ち悪いがとても面白かった

  • きもい、グロい、面白い!!

    読んでると実際に天使の囀りが頭で再生されて焦った…

  • 最高。
    特に最終局面のトラウマ級な描写がうますぎて一気読みしちゃった。
    また読みたい。

  • もし、強い不安やストレス、恐怖などを快感に変えてくれるものが存在するとしたら、あなたはそれを試しますかーー?

    アマゾン調査から帰って来た人々が、次々に異常な死を遂げる。彼らはなぜ、自殺したのか?恋人の死をきっかけに、事件について調べ始めた精神科医の北島早苗は、やがて驚くべき事実に辿り着く……!

    あまりの気持ち悪さに、ゾワゾワと鳥肌が立つホラー小説。苦悩や心の傷を抱えた人々や、終末期医療についての描写も多く、色々と考えさせられた。

  • 貴志祐介の作品中もっとも好き。あのシーンのせいで映像化が完全に不可能なのが残念でならない。(叙述トリックという意味ではなく)

  • 時代が移り変われば恐怖の対象も自ずと形を変えていく。進化していく細菌やウイルスのように。
    これだけ科学が発達して、もはや心霊や化け物のような非科学的な存在が陳腐と化した時代。科学が発達したことによって生まれたあらたな嫌悪の対象を描くことによって新しい怖さを体感させてくれた。
    寄生虫による疾患というのはもちろんのこと、最初にアマゾンで登場人物たちを感染させること(しかも気味の悪い悪魔のような生き物を食べることによって)で未知の不気味さをますます増幅させ、そもそもこの疾患の正体はなんなのか?という謎解きの要素まで持ち合わせている。
    某団体の事件のあとでもあるため新興宗教に対する多少の嫌悪感もあり、また虫や動物、不潔、醜形恐怖、先端、死といったいくつかの恐怖症を挙げることによってそれぞれ個人に当てはまる恐怖の対象も読者が自然に想像し、気持ち悪さを増大させる構造になっている。わたし自身も蜘蛛がものすごく苦手なので途中読んでてしんどかった。ああ考えるだけでもおぞましい…ガクガク。
    自分がもっとも恐れているものに殺されるという潜在的な怯えと、その原因が寄生虫という普通に考えてほぼすべての人が気持ち悪いと思うであろう生き物にあり、その上そいつらに体を乗っ取られ遺伝子までも操作されるという強烈な嫌悪感が相まって、人間が一番怖い系ホラーや影のないもの系ホラーとはまた異なった独特の気持ち悪さが演出されている。書き方が本当に上手く惹きつけられる。
    主人公が精神科医でありながら心理学に詳しいということでフロイトの夢判断のような文系的な知識が所々に垣間見られのも面白い。心理学や文学に対して精神医学、寄生虫学といった文系と理系のコントラストが奇妙にマッチして現実味を帯びているところも本作の見所の一つであると思う。

    またこの小説、ただの大衆ホラーでは終わらず、薬害や安楽死という問題にも踏み込んだ社会的な一面も持ち合わせている。強い恐怖を快感に変える寄生虫に自ら感染することによって苦痛からの解放を図った人々を見て、直接的にも出てきたペインコントロールや安楽死、尊厳死への暗喩を感じた。身体的なものでも精神的なものでも苦痛を薬によってコントロールすることは良いことなのか。あるいは死にたがっている人間を本人の意思通り死なせることは正義なのだろうか。という一貫した生命への問いかけを感じる。本来人々の命を救うために存在する医者が薬を投与し、患者の命を奪うという矛盾と違和感。薬害に関しても同様だろう。さらに恐るべき感染症や薬害による被害を予測できながらなにもしない官僚たちへの批判と皮肉(←特にこれは今まさにコロナで身をもって痛感していることだろう)。
    「線虫そのものに悪意があるわけではない」といった記述もあり、また動物実験に関するシーンも多々あるためそういった問題にも触れていると思われる。
    寄生虫という不気味な生き物を通して生命倫理、現代医療や官僚制の問題にまで踏み込んでるだと…!とまじで脱帽してしまった。ちょっと俗っぽいかな〜とか思って舐めてたの本当にすみませんでした。久々にめっちゃ楽しい読書体験だった。ova版のブラックジャックとか好きな方にはかなりハマりそう。 

  • これは現代日本のホラー小説の傑作だった。
    この作者の本はほんの少し読んでいたが、特に『黒い家』は傑出した出来で、描写力に並々ならぬものを感じていた。
    本作も、描写が素晴らしい。筆力が優れているので、迫力がある。
    生物学などの知識をかなりよく調べているし、それらを上手に取り込んでいる。
    スティーヴン・キングのような独白体の生々しさはないが、現代日本人の淋しい生き様を上手に点描していると思う。
    鈴木光司さんの『リング』シリーズや瀬名秀明さんの『パラサイト・イブ』に比肩するか、あるいはそれらを凌駕していると思う。映画化してしまうと、この作品の良さは失われてしまうかも知れない。

著者プロフィール

1959年大阪生まれ。京都大学卒。96年『十三番目の人格-ISOLA-』でデビュー。翌年『黒い家』で日本ホラー小説大賞を受賞、ベストセラーとなる。05年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、08年『新世界より』で日本SF大賞、10年『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。

「2023年 『梅雨物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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