- Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
- / ISBN・EAN: 9784042792024
作品紹介・あらすじ
灼熱の地での戦闘がいよいよ始まった。玉砕覚悟の日本兵たちを相手に、あっけないほど簡単に仲間たちは倒れていく。草陰に身を隠しつつ、臭いと音にぎりぎりの神経をめぐらせ、いつ終わるとも分からない極限状況に身を委ねるほかない兵士たち。彼らの頭には様々な感情がよぎり続ける。人間を傷つけることに罪を感じる者、恐怖を悟られまいと虚勢を張る者、自分が何故この場で戦わねばならないのか悩む者…それぞれの葛藤は、時に反目となり、時に友情を生む。嫉妬、羨望、憎しみ、怒りという感情は、次の一瞬を生き抜くためのよすがとなる。生死の境に生きる人間の内面を克明に描き出した、超大作。
感想・レビュー・書評
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読もうと思った動機は二つ。
T・マリックの映画の原作であること。
それと、作者による前書きが戦争賛美であったこと。
映画は映像美と語りが相まって叙事詩的な作風だが、小説は全然違う。とても多い登場人物たちのありとあらゆる感情で構成されている。
引き合いに出されているアメリカ中西部の古い諺。
「正気と狂気のあいだには、一本の細く赤い線があるだけだ。」
筆舌に尽くし難い地獄では、人は簡単に人であることをやめる。心が麻痺する感覚に、ある兵士は苦しみ、ある兵士は溺れ、またある兵士は麻痺するものかと抗う。
前書きにあるような、とても戦争を賛美するような内容ではなかったけれど、細く赤い線の向こう側に行っていない者には、永遠にその意図がわからないのかもしれない。
わかりたくはないけれども。
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1942~3年、第二次世界大戦・太平洋戦線の激戦地ガダルカナル島を舞台にした小説。
日本兵達が絶望的な戦闘と飢餓に見舞われた地獄の戦場として知られるガダルカナルの戦場が、アメリカ陸軍の兵卒の側から描かれる。
地獄の戦場だったガ島の実態を、あえて米軍の視点から読みたいと思い、本書を手にとった。
地べたに頬を押しつけてへばりつき、砲弾の炸裂とかすめ飛ぶ機銃弾に震える米兵たち。歩兵の恐怖がリアルに迫ってくる。
戦闘の恐怖、仲間の栄誉への嫉妬、戦闘に怯える自分への自己嫌悪。優位な戦況に転じた米兵が日本兵を虐殺していく昂揚感。
そして、国家が統計的犠牲者を必要とするのだとする諦観。
兵士達の様々な感情、観念が、混沌としたまま淡々と描かれ、そうした複雑な感情を巧みに表現して文学の深みに達している。
登場人物は20人以上に及ぶだろうか。名前と人物像がなかなか結びつかず難儀する。物語は特定の主人公に収斂せず、小隊、中隊の多数の兵士達が織り成す群像として描かれてゆく。
著者はジェイムズ・ジョーンズ。「地上より永遠に」の作者として知られる作家。
「シン・レッド・ライン」は98年に映画化されている。
小説では生々しい人間的感情が主題であるが、映画化作品は透徹した形而上学の趣が強く、別物の感がある。
著者は、実際にガダルカナルの戦闘に参戦したという。
ところが、作者のあとがきに、この小説はガタルカナル島の名を借りているが、ガダルカナルでの事実そのものを描いたものではなく、作品の舞台となっている高地や戦闘は事実そのものではない、との旨が付記されている。
創作やフィクションに近いのか、史実やノンフィクションではないのか。どのように受け止めたらよいのか、読後、すっきりしない思いが残った。