ユージニア (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 9080
感想 : 796
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043710027

感想・レビュー・書評

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  • 本の中に本の話が出てくるというと「三月は深き紅の淵を」が思い浮かびますが、この本では本の内容というよりもその本の元ネタとなっている過去のある事件に焦点が当たります。かなり早い段階で恩田さんは主人公の語り、自問の中で〈書かれていることには嘘が混じっている〉こと、〈最後まで読んでも真相がハッキリしない〉ことを暗に読者に伝えています。なので、恩田さんいつものごとく最後はモヤモヤで終わるんだなという覚悟が早々にできました。ただ、何が嘘なのかという点は注意して読もうと思いました。

    読みはじめて感じたのは、とにかく読みづらいこと。インタビュー形式で「」括りになっていたり、なっていなかったり、第三人称的な書き方になったかと思うと、記事のようなものや取材メモがいきなり出てきたり、それでいて時系列はバラバラ。これでは日を分けて読んでいると分からなくなってしまうと思い2日で読み切りました。注目したのは第三人称的な書き方の部分で、ここは真実が書かれているのだろうなと考えました。そして読み終えましたが、最終章の読者振り落とし感は半端なかったという点は強く印象に残りました。

    ただ、色んな形式で書かれてはいましたが、多いのは事件について知っている人たちの語りです。ここで面白いと思ったのは、ある人の語りの中で登場した人が、今度はその人が語り手となって出てくることです。状況が分からない読者は順に出てくる語り手に感情移入しながら、他の登場人物をその登場人物がどういう人なのか頭の中でイメージしながら読んでいきます。ところが語り手が変わるとその出来つつあったイメージが否定されてしまったりもする。新しい語り手に今度は感情移入してしまうからです。一体何が真実なのか。
    でもよく考えると我々のリアルな世界でもこれは同じことなはずです。AさんはBさんのこと良く思っていないからなぁとか、Cさんは実はBさんのこと好きなんじゃないかとか、Bさんの話は本当か嘘かわからないことがある、とか、知っている人たちだと意識になくても自分の中に持っている他人のデータベースと照合しながら話をします。この本の登場人物は読者にとっては全員が初対面ですが、無意識のうちに知っている誰か何かと重ね合わせたりしながら各登場人物のイメージを作っていく。そのため読者のこれまでの経験によって見える世界も変わってきて、読者の数だけ答えがある。恩田さんが〈最後まで読んでも真相がハッキリしない〉というスタンスをとっている以上、読者の中に出来上がる人物像、そして真犯人が誰かということも人によって違ってくるのも当然なのかもしれません。

    この本は、推理小説として真実、結末を追うものなどではなく、茫洋とした独特な世界観の中に描かれる色んな人たちが同じ一つの事象をどう捉えどう見ているか、その人の考え方、感情、そういった心の内を味わう作品なんだと思います。極めて恩田さんらしい作品、この本は特にその印象が強いです。その意味で、話の結末には全くスッキリしませんが、読後感は極めてスッキリです。恩田さんの世界感を存分に楽しませていただきました。

  • 何年も読みたいと思っていて、ようやく読める!と思ったけれど…読んだことあったー!

    紅い花、白い花、青いツユ草、赤いミニカー…記憶の中はシロクロだったり、セピアだったりするんだなーというのが、鮮やかに感じる色から知ったような気がする。

    毒物で凄惨な事件でありながら、美しい物語でした。

  • 感想

    読み終わった時の心境が、ゴールデンスランバーを読み終えた時の興奮と同じくらいの混乱。

    大量毒殺事件に多少なりとも関わる人の証言で事件の成り立ちがどんどん明確になっていくが、明確になっていくようで全く明確にならず、読み終わって大混乱。読み込みが甘いのかと、縋る思いでこの本を読んだ人達の考察を自分の感じたことと擦り合わせる。が、みんな同じように混乱していた。

    犯人はわかっている。答えに辿り着いている。
    なのに、読み終わっても真犯人がわからないって一体どんな現象。

    Q&Aを読んだ時も思ったが、ひとつの出来事があったとして、関わった人の数だけ見方や感じ方があり、その出来事の輪郭も色もピタッと合致することはないのだな、と。
    そしたら真実とは誰も知ることはできないのでは。気が遠くなった。

    一気に読んだので体力を消耗。
    2日間で読んだのですが、1週間くらい読み続けていた感覚。

    恩田陸さんが描く世界は、独特な雰囲気を纏っていていつも少し不安定で不思議で不気味で閉鎖的で魅力がある。登場人物も然り。いつも早く抜け出したいけどずっとそこにいたい気持ちで、縋るように読んでいる。

  • なんでしょう?
    フワフワした酩酊状態のまま、
    大量殺人の犯人は特定されるし
    動機もなんとなく納得できる

    ある大量殺人に関するインタビューで構成されてはいるけれど、物語の核心はそこではない

    不思議に包まれてもどかしい
    でも真実って、そういうものだねと再確認させられる傑作

    どうも文庫本より単行本のほうがイイらしい

  • ずっと霧の中を歩いているようなもやもやした感じがすごくよかった。
    語る人によって見方が変わってきたり、混乱しながら読んだ。

  • 天網恢々疎にして失わず
    悪事は一時的には隠しても公になり天罰がくだる。
    この物語はじわりじわりと核心に迫り来、焦りと緊張。最後はぼかしとは、とほほ。泣。。

  • 全体的にふわっとしている印象だった。内容自体はとても衝撃的な事件から始まる分かりやすいものだったのに、人に焦点を当てるとふわっと想像が膨らんでいく感じがよかった。最後も読者に内容の考察を委ねている?ような所も世界が続くようで読了後も小説の世界に浸れた。

  • 過去、旧家で起きた大量毒殺事件。数十年を経て解き明かされてゆく、事件に関わった人たちの想い。

    事件の真実を探り当ててゆく物語かと思いきや、最後まで読んだ時に残ったのは、真実の奥にあったさらなる謎。
    事件の真犯人だと思われる人物の、得体のしれなさが解されてゆく様は、恩田陸の作品が持つ求心力没入感が遺憾無く発揮されていて、入り込まされてゆく。一方で、真実に近づいてゆく実感と、それを知ってしまうであろう未来を予想した時の確たる恐怖に震えるのも、恩田陸ならでは。
    真実を知り、そこにある恐怖を超えた先には、解放なり爽快なりがある。それを経験しているので、約束された場所へと進んでゆくのですが、進んでいたつもりだったのですが、最後の展開は事件のもつ暗さから逃してくれませんでした。

    知ってしまったものは逃がさないよ、というには迫力圧倒は足りないような気がする。ただ、そこにある確実にある、という実感は存在感を強くしています。
    何かを知る、ということには新しいものへの興味、興奮という心情があるから進めていけるのだけど、知ったからこその後悔もあるのだ、と再確認。それでも、怖いもの見たさという言葉のように、知りたいという欲からは逃れられない。


    物語に登場する刑事さんの佇まいに、浦沢直樹作品の雰囲気を感じました。
    きっと、浦沢作品では恩田陸の雰囲気を感じるのでしょうね。妙なシンクロ。

  •  今の梅雨の時期にぴったりな暗くじめじめした雰囲気が終始漂う小説。読後もあれは結局何だったんだろう、彼女はなぜこんな行動を取ったんだろう、などと細部が気になり不穏さだけが心に残る。スッキリ爽快にわかりやすいミステリーがお好みの方にはお勧めしない。不思議と怖いもの見たさで世界観に引き寄せられていく感覚は病みつきになりそう。今回再読だが、次回はさらに熟考しながら再読したい。

  • すごく妖艶な話だった。
    大量毒殺事件の犯人は自殺したが、各章で語り手が話す内容はみんな、犯人とは異なる人物が真犯人だと思っている。

    犯人がわかっているようで、各章の語り手が真実を話している確証がなく、明確にされないからこそ、ゾワゾワしたような印象をもった。
    そこに妖艶さを感じる。

    凡人の私には、読後のモヤモヤとゾワゾワと他の人の考察が気になって仕方ない。
    話を遡って自分なりに解釈をしようと試みつつ、
    みんながどのように解釈したのかが気になる。
    自分の中のモヤモヤを落ち着かせている感覚。

    個人的には、
    最後の章を読む限り、
    青い部屋の意味を考えると、
    描かれていた犯人以外に、
    この毒殺事件を必要と感じ、実行したい人がいると思っている。

    緋紗子はそれを知った上で生きているのだと。

著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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