幸福な遊戯 (角川文庫)

  • KADOKAWA
3.07
  • (40)
  • (116)
  • (526)
  • (84)
  • (28)
本棚登録 : 1712
感想 : 215
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043726011

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2014年の67冊目です。
    3つの短編が収められています。
    1つ目の「幸福な遊戯」は、女子大学生の主人公が、男性2人と、家賃の倹約の為シェアハウス生活を始めます。そこでのルールは「同居人同士の不純異性交遊」禁止です。自分自身の家族から得られなかった”居心地の良さ”を3人の生活の中に見出した主人公。でも、自分より”生きる目的”を未だに見出していないと思っていた、彼らが、追い求めることを見つけて家を出ていきます。取り残された寂しさや焦燥感にさいなまれながら、前に進むことができない若い女性の心情が描かれています。私の年齢では考えられない「不純異性交遊禁止」付の男女一緒のシェアハウス。でも、そこにしか、自分の居場所を見つけられなかったという設定が、主人公に対する不憫さを強くします。突き詰めると家族の情の薄さが、奇妙な生活を作り出しているような気がします。3人の間に、全く恋愛感情が発生しないのも少々奇妙の感じがしますが、この「不純異性交遊」禁止は、守られることはあるませんでした。
    2つめの短編は、「無愁天使」です。
    これも、母親との支配的関係がその死によって崩壊したのちの、私の刹那的な生き方が描かれている。たくさんあった母の保険金を憑かれたように物を買いまくり使い果たし、お金の為に風俗係の仕事をするに至るのだが、そこには、淡々とした心のうつろいのみがあり、後悔や後ろめたさは見られない。彼女の初老の客が、”死”をイメージして眠るという奇妙な癖を持つ。今生きていこの時間を、眠りにつくたび、洗い流し人生をリセットするかのように。何度も死に生まれ変わる儀式を繰り返すのだが、決して彼女がそれで救われることはないように思える。満たされないことは、出口のないことのようにさえ感じる。
    3つめの短編は、「銭湯」です。主人公の彼女は、就職した今も、アパートにお風呂が無く、銭湯に通います。そこに、丹念に丹念に体を洗い磨く普通の容姿で普通のスタイルの女性客を見つけます。主人公は、都会で学校を卒業した後も、好きな演劇を続けていると母親に偽りの手紙を書きます。実際の彼女は演劇を諦め小さな食品会社で目的もなく、働きます。それは、母に書いた偽りの自分を確かなものに変えるためのようにも感じられます。でも、この手紙は、一度も母に差し出されることはありませんでした。どちらの人生にも意味のないことに、気がつくきっかけが、銭湯の中の些細な出来事からやってきます。人が自分の人生に、これでいいんだと気付くのにドラマはいらず、日々繰り返される些末な出来事だと思います。

  • 角田光代さんのデビュー作と、全く意識せずに読みました。なのに、書かれているテーマや表現、また作品に現れている社会に対する視点・見通しが、一貫していると感じた。ほんとに良い作家さんであると思う。

  • 角田さんの処女作を収めた作品集。3品とも、かつて私が読んだ角田作品のどれよりも、骨太な文学でした。

    人間を見つめ抜いて、そこからかすかな希望を見出す、文学の王道です。

    しかし、後の作品に比べて、描写がこなれていないのは事実。
    読み手を意識した書き方、すなわち大衆性の獲得が課題。

    しかし、しかし。
    後に熟れていく=売れていくことは、時代が証明してくれているので、角田さんは今後も楽しみです。

  • 表題作他2編を収めた短編集。3作とも人事じゃないくらい寂しい話。特に家族や自分の育った家庭に思うところのある人は、身に摘まされるんじゃないかな。かく言う私がそうなので。
    この本を読んでいて思い出した話がある。
    人は生まれてから暫くは後ろを向いて歩いてるんだって。それがいつからか前に向き直る。生を始点、死を終点にした時間軸を思い浮かべて貰うと解りやすい。子供の頃見るともなしに見てるのは、生まれてきたこと、自分を育む家族、出生や生きる意味等『生』に纏わること。でもいつしか向き直った先にあるのは『死』。生来の家族じゃなくて自分のこれから築く家庭、家族。どう生きるかを越えてどう死ぬかを見る様になるって。この話聞いた時、前に向き直れない人間は、生き辛さを抱えて行くことになるんだろうなって思ったんだよね。
    「幸福の遊戯」に出てくる3人の女性は、前に向き直れなかった人間なんだろうと思う。そして私自身同類なのかもしれない。だから寂しさが他人事じゃなかったんだろうな。
    読むのに少し覚悟のいる話かもしれない。

  • モヤモヤとするお話。
    でもそのモヤモヤは決して悪いわけじゃなくて
    何かに引っ掛かる人の姿を
    現実逃避する人の姿をうまく描いていると思う。

    思い当たるところもあるから
    なんだかモヤモヤするんだろうな…。
    でも、角田光代さんの書く文章はやっぱりなんだか好きなんだな。

  • 好きだけど印象に残らない

  • KindleUnlimitedから。

    この本の感想では無いけど読後の所感。
    もう何年も好きな作家数名の作品しか読んでなくて、少しは色々読んでみようとKindleUnlimitedに加入したけど、うーん。
    うまく言葉にできないけどしっくりくる小説ってあんまり無いのかも。自分の感覚に従って読むものを選んでいたのは間違いじゃないと分かった。
    これは!っていう本が新しく見つかるといいけど、どうだろう。


    2022-11

  • 幸福な遊戯は、角田光代さんのデビュー作だそうですね。
    知らずに手に取りました。
    その他、無愁天使、銭湯の短編3作品が収録されていました。
    いずれも幼少期の家庭環境から理想と現実のギャップに彷徨う女性のお話です。
    決して読後感の良いものではありませんが、角田光代さんの普遍的な問いのような原石のようなものを感じるお話でした。

  • 短編集だと知らずに読んでしまったので、1話目の余韻が残ったまま2話目に突入。
    頭の切り替えがうまくいかずそれ以降集中力できませんでしたが1話目の余韻がとても長く続いてよかった。

  • タイトルから想像する内容よりはかなり暗い話だった。
    3編で構成されており、最後の「銭湯」が個人的には読みやすかった。
    2つ目の「無愁天子」は重く暗い作品だった。

    心の中にある少し暗い気持ちや周りと比べて感じる劣等感などに共感した。

    どのお話も少し狂気的であり、非日常感がある。

全215件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

角田光代の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×