日本中世に何が起きたか 都市と宗教と「資本主義」 (角川ソフィア文庫)
- KADOKAWA (2017年3月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044001919
感想・レビュー・書評
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人間が所有できない神仏の領域=無縁。俗世界と縁が切れたがゆえに物と物は交換取引できる。無縁こそ商業と金融の発祥地。このように宗教と経済を不可分に結び付けた網野史学の要諦を講演録や対談からまとめた内容。被差別民についても斬新な視点を提示している。かつての遊女や乞食、河原者は神仏・天皇に仕える芸能民=非農業民であり、蔑視の対象ですらなかった。むしろ神聖を帯びた存在として一般の平民、農民から特別視されていた。が、13世紀以降、銭の流通による貨幣経済の発展と戦乱によって神仏・天皇の権威が低下し、伴い芸能民たちは穢れた存在、悪や悪党とみなされ差別の対象となったという。彼らの救済に乗り出したのが、いわゆる鎌倉新仏教の開祖たちで、鎌倉という時代に優れた宗教家が輩出した理由がここにある。と、非常に刺激に満ちた網野史学の歴史は大変おもしろい。ただ、著者の「日本の歴史をよみなおす」など他の著作を読んだことがある人は、本書と重複する内容が多いので読む必要はないかもしれない。
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「なぜ、平安末・鎌倉という時代にのみ、すぐれた宗教家が輩出したのか」
ぐいと引き付けられる素晴らしい問いではないかと、書店にて速攻で買い求めた本書。その答えは「社会の変革期だから」という、至極当たり前の論説。本書は硬派な歴史書でもあり、それ以外の答えが出てきてしまうのであれば「トンデモ本」の仲間入りをしてしまうわけだから、むしろ素直に向き合える。
ただし「社会の変革期」ということに関する著者の論考の中身は、切り口鋭い。中世に初期資本主義が萌芽していたという推論に端を発し、"農耕社会ではない市場”のスケールを見積もろうとしている。
再読候補。