シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と黒の妖精 (角川ビーンズ文庫)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2010年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044550073
感想・レビュー・書評
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これは本当少女小説投稿作のお手本だと思った。お話作りの満たすべき要件をきちんきちんとこなしていっている。題材も「砂糖菓子」と「妖精」といった女の子の好きなものをうまく使ってるし、今流行りのヒロイン職業モノとしてもレベルが高い。ただ惜しむらくは、視点がヒロインと黒妖精とで割ところころ変わるところと、シリーズ化しにくそうなところ… ビーンズが今後どう売り出していくのか楽しみ
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うわあ、面白い!
こんなに面白い新人賞受賞作を読んだのは久しぶり!
かわいらしくて、ライトで、甘くて、キャラも立ってて、世界観も素敵!
前向きで優しい主人公、クールな妖精、出しゃばりがかわいい妖精というこのパーティー。私も仲間に入りたいもん。面白い証拠だね。
私もこんなロードムービーが書きたい!
たき火で食事するシーンなんかは西部劇みたいで好きだよ。
いいね、たき火は。 -
“目があった。妖精は、アンをまっすぐ見つめた。
何か考えるように、妖精はしばらく眉根を寄せていた。が、すぐに納得したように、呟いた。
「見覚えがあると思ったら、かかしに似てるのか」
そして興味をなくしたように、ふいと、アンから視線をそらした。
「し…し、失礼な……花盛りの、年頃の女の子に向かって」
妖精の独り言に、アンは握り拳を固めた。
「盛りも、たかがしれてる」
そっぽをむきながらも、妖精がずけっと言った。
「なんて言いぐさ――!?」”
小柄で痩せていて手足が細くて、ふわふわとした麦の穂色の髪をしている十五歳の少女、アン・ハルフォード。
彼女は、年に一回開催される砂糖菓子品評会に参加するため、護衛として黒い瞳に黒い髪をもつ、美形だが口の悪い戦士妖精シャル・フェン・シャルを雇い、品評会のおこなわれる王都を目指して旅をはじめる。
はたして、彼女は品評会に無事参加することができるのか。そして、一流の銀砂糖師になれるのか。
『審査員全員が激賞!!第7回小説大賞審査員特別賞受賞作!!』……ということでちょっと気になって読んでみた。
一言でいうと、良かった。
宣伝に偽りなし。
“アンはどこか、図星を指されたような気がした。自分でも意識せずに感じている、自分の砂糖菓子に対する、引け目のようなものを的確に言い当てられた。”
舞台設定から登場人物は、もしかしたらそれなりにありがちのものかもしれない。
でも、この展開はすごいと思う。
アンが人間と妖精の関係と、自分とフェンの関係を見つめ直すところとか。
アンが自分の欠点を克服することができたところとか。
フェンが自分からアンのところへと戻ってくるところとか。
そのどれもが、すごい道筋立って、納得できる。
しっかりとしていて、それでいて面白いトーク、目が離せない展開。
久しぶりに、良い本読んだなって思えた。
“「とことん失礼な奴だな、シャル・フェン・シャル!いくらアンが、どっからひいき目に見ても、かかしにそっくりとはいえ、かかし、かかしと呼ぶな!」
「かかしをかかしと言って、何が悪い」
「なっ、おまえ!!かかし、かかしと連呼するなよ!」
「かかしを連呼してるのは、おまえだ」
「とにかく!事実でも、言っていいことと悪いことが、世の中にはあるんだ!かかしなんて、かかしなんて!!そっくりすぎて、笑えないだろうが!!」
力なく、アンは笑う。
「あなたたち……、二人とも失礼なんだってこと、いい加減自覚してくれる?」
すると二人の妖精ははたと気がついたように言い争いをやめて、お互いに顔を見合わせた。
――今年、銀砂糖師になれなかった。でもまた来年来るようにと、王妃様がおっしゃった。それで充分。
美味しい砂糖菓子を欲しがる、黒曜石の妖精と。
無理やり恩返ししたがる、水滴の妖精と。
すくなくともこれからは、ひとりぼっちじゃないと知る。
――わたしは、一人じゃない。いつかは、銀砂糖師になれるかもしれない。未来がある。これは最高。
アンは、微笑んだ。
「ま、いいか。かかしでも、カラスでも。わたし、あなたたちのために、砂糖菓子を作る。素敵な砂糖菓子をね。わたし、それしかできないから」
空は高く澄んでいる。
王都の広場には、たくさんの砂糖菓子の、甘い香りが漂っていた。” -
好きな場面。
「ーー俺の羽を抱いているんだ。しっかりしろ、かかし。
アンは使役者というよりは、お荷物だ。シャルの羽を抱き込んで離さないから、けして粗略に扱えない。側を離れられない。
シャルにしてみれば、鍵をなくして開けることができない、生きた宝箱を連れ歩いているようなものだ。」
「一生、笑われることはない。人間は、俺たちと違う。人間は、常に変わっていく……。おまえは、あと三年も経てば、驚くほど綺麗になってるはずだ。この髪のも、色の薄い、綺麗な金髪に変わる。そのころには、誰もおまえをかかし呼ばわりしないはずだ。砂糖菓子を作る腕前も、変わっているはずだ。ヒューが言ったことは真実だが、気にする必要はない」
「羽は、ほのかに温かかった。拳を滑らせて、絹よりもなめらかな、ぞくりとするような手触りを確かめる。そして軽く、その羽に口づけた。」
「どうして、と問われたシャルは、むっとして、なんと言うべきか考えあぐねているように見えた。しかし。しばらくすると彼は、降参したようにふっと表情をやわらげた。
答えのかわりに、彼はアンの右手を手に取った。そして。
「アン」
囁くように、呼んだ。はじめて、名前を呼んでくれた。そのことに、アンの胸は熱くなった。
シャルは優しく、アンの指に口づけた。慈しむように。
それは、何かを誓う行為のようだった。」 -
あきさんのイラスト目当てな気持ちが半分以上を占めていましたが、読んでいくうちにどんどん世界観に惹きこまれていきました。
とにかく続きが読みたくて本屋を駆けまわった思い出。 -
ちょっと読もうかなと思いながらつい読み終わってしまうほど面白かった。後半に泣いた。こんな素敵な作品に出会えてよかった。もうシャルに夢中★!
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シリーズを通して読むと作品の設定やキャラクターの良さ、関係性、甘くはないが希望のある素晴らしい作品だったと感じます。
キャラクターのひたむきさ、頑張りが心に残る作品です。
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あきさんのイラストにつられて読み始めました。
やわらかい絵柄の表紙・挿絵と優しい雰囲気の文章が合わさって、ひとつの絵本のようでした。
アンの成長と旅路、シャルとの恋、2人を取り巻く人間(妖精)関係に心踊りながら一気に読み進めてしまいました。当時は中学生だったので図書館で借りて読んでいましたが、古本屋で偶然見かけて一冊だけ購入。その後コンプリートしました。
まだ全て読み返せてはいませんが、何回でも読みたくなる少女小説です。