歌集 てのひらを燃やす (塔21世紀叢書)

著者 :
  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046527271

作品紹介・あらすじ

「待ち焦がれた恋歌の登場」と評され、京都大学在学中に角川短歌賞を受賞した著者、待望の第一歌集。受賞作品を含む274首を収める。俵万智『サラダ記念日』から四半世紀。短歌の“現在”がここにある。

感想・レビュー・書評

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  • 静かで滞空時間の長い歌たちだと思った。
    午後、カーテンの隙間からこぼれるひかり。物憂げな雰囲気が全般に染み渡る。すべてが相聞歌、と聞いたが相聞歌らしいうきうきとした歌はない。客観的な視点から、長い時間のなかのその部分を切り取ったといった感じ。既に失われてしまったものを振り返るような、古いアルバムをめくるような感覚。
    老成していて恐れ入る。
    以下15首選。

    戒名に光の字ありまばたきはひかりを薄く挟むということ(p55)
    忘れずにいることだけを過去と呼ぶコットンに瓶の口を押しあて(p62)
    遠い先の約束のように折りたたむ植物券の券しまうとき(p65)
    洗面器しずかに満たす秋の水呼び戻すすべなきものばかり(p74)
    憎むにせよ秋では駄目だ 遠景の見てごらん木々があんなに燃えて(p79)
    寂しいひとに仕立て上げたのはわたし 落ち葉のように置手紙あり(p81)
    言葉より声が聴きたい初夏のひかりにさす傘、雨にさす傘(p88)
    いつもわたしがわたしの外にいてさびしい豆腐の水も細く逃がして(p94)
    靴という小暗き穴へ足沈めあなたは夜を帰って行けり(p95)
    夕闇があなたの耳に彫る影をゆうやみのなかで忘れたかった(p96)
    声は舟 しかしいつかは沈めねばならぬから言葉ひたひた乗せる(p109)
    いくたびもきみをうしなってきたような夕焼けに身を遠くひたしぬ(p111)
    わたくしへひらきっぱなしの遠花火、花火へ閉じたきりのわたくし(p128)
    一心に梨の皮削ぐ手のあなた さびしい水は死なせてあげて(p136)
    手掴みで胸の底へと置いてゆくがれきや泥の、重いだろうか(p145)

  • ことばによって生かされて、そして死んでいくんだろうな、ということを、ときどき、かんがえる。

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著者プロフィール

一九八九年岡山県生まれ。第五十六回角川短歌賞を受賞。歌集に『てのひらを燃やす』(角川書店)、『カミーユ』(書肆侃侃房)、『ヘクタール』(文藝春秋)。「京大短歌」を経て現在は「塔」所属。京都市在住。

「2023年 『現代短歌パスポート2 恐竜の不在号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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