漢字が日本語をほろぼす (角川SSC新書)

著者 :
  • 角川マーケティング(角川グループパブリッシング)
2.89
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047315495

作品紹介・あらすじ

漢字があるから、日本語はすばらしい。そう考える日本人は多いだろう。しかし漢字が、日本語を閉じた言語(外国人にとって学びにくい言語)にしているという事実を、私たちはもっと自覚しなければいけない。日本語には、ひらがな、カタカナ、そしてローマ字という表記方法があるのだから、グローバル時代の21世紀は、もっと漢字を減らし、外国人にとって学びやすい、開かれた言語に変わるべきなのだ。いまこそ、日本語を革命するときである。最初で最後の日本語論。

感想・レビュー・書評

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  • 厄介な漢字が日本語には多い。せめて振り仮名でも振ってくれていると良いのだが、それがないと調べるにも調べにくく、人に訊くことすらできない。この「きく」はどの漢字を使えば良いのか、パソコンで書いていて一番困るところだ。同音異義語が多いから駄洒落がたくさん作れると井上ひさしが書いていたけれど、昨日、漢字練習をしていた中学生のノートを覗き込むと、「姓名」を「生命」と書いていた。前後の文脈も考えずに書いているのだから仕方ない。さて、パソコンだから、手書きなら書かない漢字まで、漢字で書いておいた。「やっかい」「ふりがな」「きく」「ダジャレ」「のぞき」。かなでいいとおもう。いかにも オレは これだけ かんじを しっているんだぞう と じまんするように やたらめったら かんじを つかうのは やめたほうが いい と おもう。けれど、かなばかりではよみにくい。いやでもスペースをあけてかいてあればよめるかなあ。下線部は「いや・・・でも・・・」であって「いやでも」ではない。ローマ字書きだって慣れれば読めるようになるのだろうか。かなばかりの文章だと「こいつはバカか」と思われそうなのだけれど、そう思うのはよしましょう、ということが本書には書かれている。漢字にばかりこだわりすぎると、外国人が日本語を学ばなくなってしまう、それを懸念(けねん・・・これも手書きでは書かない。でも、ひらがなではちょっとかっこう悪い?)されてもいる。中国ではいかに漢字を簡略化しようとしてきたのか、どんな歴史の上で朝鮮は漢字をしめだしてハングル一辺倒にしてきたのか、そのようなことも語られている。著者あとがきで梅棹先生のことが紹介されているが、どうして「いたましい例」としてあげていらっしゃるのだろう。梅棹先生の本をよむと、目がわるくなって自分では執筆できなくなったあとも、漢字・かなの使い分けを徹底されている。まねたいけれど、なかなか難しい。(難しいは、やっぱり漢字で書いたほうが難しいという感じがするなあ。)・・・蛇足、私が漢字で書きたくないことば・漢字。距離=キョリ、個=コ、会議=会ギ、寮=ウ冠にR(これは六花寮時代に教わった字)、門構えは簡略化したい。けれど、黒板にはなるべく漢字で書いている。生徒には漢字を覚えてほしいから。漢字は必ずテストに出るのだから。矛盾をかかえ続けるのか・・・二酸化炭素=CO2、水酸化ナトリウム水溶液=水ナ水・・・、初期微動継続時間=PS時間・・・これは漢字で書かないといけない。漢字で書けない生徒があまりにも多いから。漢字でなくてもいいじゃん・・・。膵臓=すい臓(臓もかなにしたいところだけれど、すいは絶対ひらがな)。摩擦力=まさつ力(これはなぜか漢字で書く生徒が多い)。・・・しかし、漢字そのものはおもしろい。白川静先生の本ももっと読みたい。

  • 言語は使いやすくおおらかで親しみやすいものがマーケットで選ばれる。複雑怪奇、きわめて難しい言語である日本語は決してスタンダードにはなりえない。窒息するような難しさは外国人にはまず無理。とりわけ、医学用語は、医術の秘儀性、患者との距離を広げようとしたのか、難解極まりない。漢字の難しさが外国人の医療現場への流入を妨げているとも言われている。明治の初期すでに森有礼が日本の公用語として英語を導入しようとしている事実は興味深い。国際的場面で日本語は窮地に追い込まれている。漢字の多用は言葉の力の貧しさなのであると深く自戒しなければならない。

  • 良書。漢字のよくない面を取り上げており、漢字大好きの自分にとってはおもしろくない内容のはずだが、これがかなりおもしろかった。この著者のほんをもっと読んでみたくなった。

  • 矢鱈に難解な漢語を振り翳し、徒に読み難くすれば其れだけで教養が在るか如くの風潮は嫌いだけれども。
    でも、そこまでいうのなら、ぜんぶひらがなでかいてほしかった。

  • 日本語は漢字に毒されている。廃止すべきだ、という議論である。
    言語の本質は音であり、表意文字である漢字と表音文字であるひらがな、カタカナが並存することで、言語のリニアな構造が断ち切られる。
    それは、言語として不自然なことだと、筆者は言う。
    これに加え、筆者が熱心に漢字を廃止せよと主張するのには、世代的なものもあるのかもしれない。
    専門家が権威付けのためだけに、難解な漢語を使うのが、非民主的だという感覚があるようだ。

    どちらかというと、漢字制限をなし崩し的に撤廃しようとしている現在、非常に「過激」に見える議論だと思った。
    だが、貴重な意見なのかもしれない、とも思う。

    水谷静夫の『曲がり角の日本語』は、将来の日本語の姿を推定し、それを使って文章を書いて提示している。
    できれば、その、漢字を廃した日本語の姿を少しでもいいので提示して欲しかった。
    漢字廃止論者が、結構な漢語を使っているのが若干皮肉に見えた。

  • 志賀直哉の復刻版かと思ったら田中克彦だった。昔から漢字廃止論があるのは知っていたし、私が今住む地では事実上廃止されている。しかし日本語と韓国語では音韻・文字体系が異なるので、日本語では現実的でないと思っていた。日本語の表記法が優れたものとは思わないし、筆者の言わんとすることも分かる。それでも、唯でさえ弁当箱と一部で揶揄される京極夏彦本が正立方体になり、片手で持てなくなるという一点において私は反対だ!(笑)途中苛ついたが読後感は悪くない。どうやらツラン文化圏のロマンにやられたようだ。トルコ語でも勉強するか!


    活字好きには、かなり挑発的なタイトルだなあ。^^;取り敢えず、お手並み拝見! 2012年09月08日

  • 漢字が日本語の中に入っていることが,日本語を学ぶ外国人にとって非常に学びにくくしている.中国周辺国では漢字に対抗してそれぞれ独自の文字を発明している事実がある由.テュルク(突厥)文字,タングート(西夏)文字等の紹介があるが,ハングルが朝鮮語を音で表す言葉として発明されたのが最も身近な例だろう.支那という語は今日ではあまり使われなくなっているが,シナ語というのは使うべきだとしている.中国に存在しているのは,シナ語,チベット語,モンゴル語やウイグル語で「中国語」は無く,ロシア語がソ連語と称されなかったのと同じ理屈だと述べている.「聞いただけでは意味がわからず,目で見なけれわかない文字でで書いてあるような,つまり,外国人には想像もできないような文字言語」--ではない日本語を広めたいという著者の意見に大賛成である.

  • 田中克彦さんは、日本語は漢字がなくても存在する、むしろ、漢字が日本語を悪くしている、ほろぼすと考える人である。ぼくも「ほろぼす」とまでは言わないまでも、基本的には田中さんの考えに賛成である。本書は、その田中さんが言語学という広い視点から、日本の漢字の問題を縦横無尽に論じている。話はあっちこっちに展開することがあるが、読者はそれが脱線だとは思わない方がいい。田中さんの考えでは、言語とは音であり文字ではないというもので、これは、日本で文字形態素論を唱えた森岡健二氏らに対する批判である。日本語は「かな」がふさわしい表記で、これをローマ字に分解する必要がないという論に対する批判もよくわかる。同音語をいちいち言い換えなければいけない言語というのはけっしてまともな言語ではないというのも理解できる。ミルという日本語は漢字で書かなくても意味はわかるし、また漢字を使う必要がないというのは、早く奥田靖雄や宮島達夫に論がある。田中さんは、漢語ですら漢字を離れられることを、朝鮮語におけるハングルや漢語の一種であるトンガン語(橋本萬太郎さんの研究がある)がキール文字で書かれることを強調する。ただ、ぼくがひっかかるのは、「漢字はことばをこえて理解される。それゆえ、漢字はことばではない」(p162)といいながら、孔子学院が孔子学院漢字というものを定め広めれば、グローバルコミュニケーションに大いに役立つという点である。漢字は言語によって意味が違うことが少なくない。二字からなる漢語ではなおさらだ。それでも漢字を普及させようと言うのだろうか。

  • 少し年老いてきたが、著者田中克彦さんが相変わらず元気に言語における民主主義のために発言されている。学問的厳密さはないのかもしれないが、ユーラシアからの歴史観による漢字文化圏を相対的に見る視点、漢字という表意文字の持つ魔力などなど、刺激されることの多い本です。

  • ことば

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著者プロフィール

一橋大学名誉教授

「2021年 『ことばは国家を超える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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