あした、旅人の木の下で (KADOKAWA新文芸)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048730402

感想・レビュー・書評

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  • 旅に出れない今読むのにぴったりな本。
    シンガポールが舞台。
    1話毎に語られる人が変わって、視点が変わるのが新鮮。

    夫々の登場人物や個性が、こんな人いそう…と想像出来る。
    聖ニには誰もが会ってみたいと思わせる魅力がある。

  • パズルのピースが微妙に食い違って、少しずつずれていく。少しのずれでも、距離が遠のけば遠のくほど、そのずれが大きくなっていってしまう。
    十二夜をみているようなそんな感じ。でも、十二夜のように、魔法がとけることはない。魔法がとける前に、時はひとを分かつものだから。
    でも、いびつなピースたちがばらばらになることはない。そこには細いが、つながりというもので確かに結び付けあっているから。
    異国の地、シンガポールで、惹かれあうひとびと、ひとびとを結びつけるのは、どこからともなくやってきたひとりの青年。女性ようで男性的などこの国を故郷と呼ばず、どこの国も彼の故郷となる。
    トリックスターと呼ぶには、彼はあまりに透明で美しすぎる。彼は、何ほどのこともしていない。彼はただ、そこにいて、すれ違うひとびとの間で息をしていただけなのだ。
    壮年を迎え、終わりのない夏のような感情をまぶしいと感じ始めたひとびとが、ひとつのパズルとして景色を映し出すには、あまりにシンガポールは気だるく、異国の地であった。
    重なってしまえば、何かがきっと壊れてしまう。けれど、求めずにはいられない。彷徨いながら歩いている道の途中で、ふっとそんな自分を考えてしまう。
    ただ言われるがままに歩いてきたひと、蝶になる前に放り出されたひと。魔法にかけられたひと。待つことでしかいられないひと。言い聞かせることで忘れようとするひと。
    このひとびとがこの後、どれほど重なり合うのかわからない。けれど、一枚の写真に写った、たったひとりの人間のために、彼らは再び、気だるい夏を思い起こすのだろう。
    それは、取り返しのつかないくらい、埋めることの出来ない、長い年月が横たわったとしても。いつか何かが呼び合うような、そんな気がする。
    忘れられないひとになるのは、まだ少し先のこと。

  • 2007.6.24読了。シンガポール在中の奥様方にはいろいろあるのです。

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著者プロフィール

1990年『僕はかぐや姫』で海燕新人文学賞。92年『至高聖所(アバトーン)』で芥川賞。他に自身の茶道体験を綴った『ひよっこ茶人、茶会へまいる。』、武家茶道を軸にした青春小説『雨にもまけず粗茶一服』『風にもまけず粗茶一服』『花のお江戸で粗茶一服』、古典を繙く『京都で読む徒然草』などがある。

「2019年 『夢幻にあそぶ 能楽ことはじめ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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