村田エフェンディ滞土録

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  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048735131

感想・レビュー・書評

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  • 鸚鵡に始まり、鸚鵡で終わりました。
    家守綺譚のゴローにしても、この鸚鵡にしてもキツネにしても動物が人間の知り得ない世界と繋がっているのが、不思議であり面白くもありました。
    見えていることだけが全てでは無い、と信じたくなりました。

  • 100年前、土耳古(トルコ)皇帝から招聘され歴史文化の研究員として留学した村田。イギリス人女性が営む下宿には、ドイツ人とギリシャ人の若き研究家たちと下働きをするトルコ人のムハンマドがいた。

    様々な歴史的背景、異なる宗教の信仰、それぞれの国の立場やそれゆえに起こる諍い。彼らが国や主義や民族といったものを越えて、互いに違いを認めながら理解を深め友情を育んでいく日々が穏やかに描かれる。

    大きな何事かが起こるわけではないが、異国の若者たちの囲む食卓での語らい、鸚鵡の叫び(これが笑える)、ちょっとスピリチュアルな出来事など、ユーモアとチクリとするような現実も交え語られる物語は、比較文化を試みる紀行文のようでもあり興味深い。

    帰国後数年、下宿先のイギリス人女性から届いた手紙で語られる友人たちのその後。最後の2ページに凝縮される思いが切なすぎる。ラスト10行は、何度読み返してもこみあげるものがあり、嗚咽しそうになる。

    「・・・・・・国とは、いったい何なのだろう、と思う。
     私は彼らに連なる者であり、彼らはまた、私に連なる者達であった。彼らは、すべての主義主張を越え、民族をも越え、なお、遥かに、かけがえのない友垣であった。思いの集積が物に宿るとすれば、私達の友情もまた、何かに籠り、国境を知らない大地のどこかに、密やかに眠っているのだろうか。そしていつか、目覚めた後の世で、その思い出を語り始めるのであろうか。歴史に残ることもなく、誰も知る者のない、忘れ去られた悲喜こもごもを。」

    いい作品に出会えました。

  • 特に物語の展開があるわけでもないけど
    この世界の雰囲気がとてもいいです

    何度か、この本を読もうとして
    入り込めないでいましたが
    「冬虫夏草」から次に読もうかと…
    綿貫もゴローも登場してきて嬉しかったです

    エッセイのように淡々と進むと思いきや
    …切ないラストでした

    自分が生きているこの思いも
    何かに宿って
    いつか何かを語り始めるのだろうか

  • 文化、宗教、異文化で生活していくことの孤独と新しい見聞、などなど私好みの要素がたっぷり詰まった本でした。良いもの読みました(^^)d

  • 地味だけど、その分、村田の周りとのやり取りがほのぼのしていて、あとに滋味豊かな記憶となってきている。鸚鵡をめぐるエピソードが面白かった。様々な宗教を信仰する下宿仲間たちと、同じ下宿仲間みたいに気心しれ合う当の神々たちがおかしかった。そんな風に、神も人も交じり合う雰囲気が不思議で愛おしい作品。

  • トルコへの留学生村田の、人々(時には神々)との異文化交流記録。
    これぞ日本人の典型、と分かりやすいくらい丁寧で柔軟な姿勢で、不可思議な出来事との同居をなんなく実現する村田と、彼を取り巻く人々の何気ない日常が面白い。
    最後は号泣しました。

  • この独特の空気!濃厚な異国の匂い(香りではなく)に悪酔いしそうになりながら、けれど最後まで一気に読み切ってそして泣きそうになった。明治の終わりごろ土耳古の地に集まった母国を異にする人々。そして起こる国同士の諍い。主義も主張も思いもあずかり知らぬ世界に住む鸚鵡が、(鸚鵡にとって)無意味な争いの中でうんざりしたように「It's enough!」と叫び、傷ついた村田に「友よ。」と叫ぶ。人間が長い歴史の中で失くしたものを進化と呼ぶか、あるいは退化と呼ぶか。それが強く心に残る。今も答えは見つけられずにいるのだけれど。

  • 「家守綺譚」→「村田エフェンディ滞土録」の順に読むとより面白い.
    【内容】
    第一次世界大戦前,国家間の交流が盛んになり始めた頃のトルコにて,
    トルコ文化研究のために招聘された日本人学者,村田と同居するドイツ人,ギリシャ人,トルコ人,イギリス人,オウムとの異文化交流.

    始め,異文化交流や思想の違いといった物語が悠然と流れていたところに,
    途中,怪異が加わるなど「家守綺譚+異文化交流」風に更に面白くなったが,
    最後,第一次世界大戦が始まり,急に切ない話になった.

    【感想】
    情景描写が丁寧で,当時のトルコにいるような錯覚をした.(トルコに行ったことはないが)

    ところどころに挿絵があるのだが,村田がトルコを離れる時の,見開きで描かれたトルコの港が本当に綺麗で,トルコに対する名残惜しさと別れの寂しさから,自然とため息が出た.

    日本に戻ってから,仕事の忙しさに疲れていく様や友人の訃報がこれでもかと切なくさせる.最後「友よ!」と叫ぶオウムには泣きそうになった.

    誰かがオウムを見るとこの本を思い出すと言っていたけど,そのとおりだと思う.(オウムを見る機会はあまりないけれど)

  • 最初は異国の地で生きる日本人と、その日本人と関係を築いていく外国人を普段の生活の描写から書き表しているだけなのかなあと思ったのだけど、最後がこうきたのかーという驚きでいっぱいだった。最後の手紙あたりからこの話の雰囲気ががらりと変わっていくと思う。正直、あまりにも平淡すぎやしないかと思っていたけども、その平淡さが最後の展開を引き立てていたのかもしれないなあ。
    いろいろなことを考えるけれど、戦争ってほんとに理不尽である。国を越えた友情は自的要因で消えることはないと思うが、こうやって外部要因で無理矢理切られるってのはやりきれないなあ。なんだかわたしも村田といっしょに暗い海の底に沈んでいったような気がした。体育座りをしてさ。

    (220P)

  • 古い読書記録より。

    「家守綺譚」のサイドストーリー的小説。
    日本人考古学者がドイツやギリシャの学者たちと共同生活を営むトルコの家の描写には、
    行ったことはないけれど、かの国の土ぼこりや乾いた日の匂いまでも感じます。
    ラスト付近が本当にはかなくて、折角異国の人と結べた絆が戦争によってあっけなくひきちぎられていくさまは見ていることらの胸にも迫るものがありました。当時だと、おいそれと違う国に分かれ戦うもの同士が仲良くしたりできなかっただろうから、余計に・・・。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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