- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048929622
作品紹介・あらすじ
AIを使った恋愛シミュレーションで、カップリング成功率100%を謳う恋愛相談所を訪れた大学生の秋山。ところが見つかったはずの運命の相手の情報がバグで“消失”してしまい……。見えない赤い糸の行方は!?
感想・レビュー・書評
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レビューを書くときに心がけていることがある。
それは、酷評をするなら理由も書くということ。
私は本を中古で買うこともあるが、基本的にお金を出して新品で買うようにしている。
だから、私には作品を評価する権利がある。
そもそも作品を世に出す時点で、評価にさらされる可能性を受け入れるべき、という人もいるだろう。
しかし、たとえ面白くない作品だとしても、作者は誠意をもって真剣に創作に取り組んでいるはずだ。
それを「おもしろくない」の一言で切り捨ててしまうのは酷だ。
お金だけでは誠意に相対する権利を買うことができないのだと思う。
誠意には、誠意でしか応えることができない。
だから、「ここがこうだから面白くないのだ!」と理由を述べて、誠意をもって堂々と、大きな声で酷評してやるのだ。
そんな私にとって、戸惑うことが起きた。
土橋真二郎『AIに負けた夏』2015年7月25日初版。
誤植が多すぎる。
p77,l7「神社いる人々」→「神社にいる人々」
p77,l14「ちょと」→「ちょっと」
p119,l8「時間を経過を」→「時間の経過を」
p122,l11「私たちは姉妹は、夏になると私たちは」→「私たち姉妹は、夏になると」
p136,l11「声は物質のなのだ」→「声は物質なのだ」
p204,l11「アレンジメントを完成された」→「アレンジメントを完成させた」
p257,l12「言葉は彼女は受け取っていた」→「言葉を彼女は受け取っていた」
p274,l6「戻ってきたのというのか?」→「戻ってきたというのか?」
一度読んだだけでこれだ。
明らかな間違いとは言えない微妙なところも含めれば、あと数か所はある。
作者なのか編集なのか校閲なのか、どの段階で誤植が発生し見過ごされたのかはわからない。
そもそも実際の編集工程もよくわからないし。
それでも、作品に関わった人たちの誠意が感じられないというのは確かだ。
誤植なんて基本中の基本じゃないか。
一、二カ所くらい見つけることはよくあるが、これほどの惨状は初めて見た。
ただ、誠意がないからといって「こんなクソみてえな本つかませやがって。金返せ!」で済ませては大人げないので、レビューはきちんと書こうと思う。
仕返しに、ちょっとだけくどく。
さて、誤植の件は置いておいて、物語としてどうかというと、これまたひどかった。
まず、設定が甘い。
舞台はアンドロイドとの共存が実現されつつある近未来だが、SFとは言えない空想的な不自然さが目立つ。
共存を目指す社会で「ロボット三原則」が適用されていないというのが違和感。
アンドロイドは人間の管理を離れて自由に動き回り、軽犯罪すら犯すことができる。
「ターミネーター」みたいにある日突然ならともかく、社会的に仕組み作りをしている段階でそんな方向に行くだろうか。
物語の主軸と少しずれているスクラップ場のシーンは、こういう陰鬱な感じを書いてみたくて書いてしまったという印象を受けた。
アンドロイドの普及が一部に留まっている状態でスクラップ場ができるほどの廃棄が発生するのか。
雨粒の情報処理もできないアンドロイドが、離れたところにいる機体と同期して、異なるロケーションでもアドリブで同じように振舞うというのは、技術発達レベルがおかしいと思う。
作中の様子を見るに、過去も未来も含めた最適解探しが始まってしまわないか疑問。
やはりSFは整合性が保たれていないと、作者のご都合ファンタジーに見えてしまう。
SF以外でも、両親が離婚した時に裕福な母方の家ではなく問題のある父を選んだ理由がわからない。
悲劇を生みだしたい作者の都合に見える。
次に、キャラクターの内面が見えてこないので、どうして互いに好きになったのかがわからない。
主人公の素性すら不明の状況。
それどころか、主人公は失恋した友人にアンドロイドを勧めたり、恋人が操作しているアンドロイドにキスしたりと、共感できない行動が多い。
最後に文章。
誰がどういう状況にあるのか、誰が話しているのかわからない文章が多い。
もしかして推敲もしていないのか。
物語の流れはよかったのだ。
最後まで誰と誰が結ばれるのかわからなかったし、絡まった糸の複雑さもよかった。
AIが絡んでくる恋愛は大好物だし、やりようはあったと思うのだ。
最近メディアワークスの打率が低い。
それでも買わされているので、結局メディアワークスに負けた夏というところか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
AIによる成功率100%の恋愛マッチングシステムで選ばれた相手のデータが破損していたので、その欠損を埋めてデータを補完するお話
最近の土橋は恋愛方面の話が多いなぁ
個人的にはもっとドロドロした話が読みたい
平穏な日常での人間関係が非常時ではいとも簡単に崩れ去ってしまうやつね
それはそれとして今回のお話
タイトルでは、AIに負けたって事になってるけど、一概に負けとは限らないんじゃないですかね?
マザーにはしてやられたけど、ライズには勝った?
いや、マザーの結果とは違う結末になったのでマザーには勝ったけど、ライズの最初の言葉通りになったのでライズには負けた?
うーん、結末をどう評価したらいいかわからぬ
恋愛も分析できるというのもある意味では理解できる
恋愛シミュレーションゲームの選択肢が膨大にあるパターンなんだろうけど、結局は評価関数さえ妥当なものであれば機械学習でいくらでも最適解は求められる
現実の結婚相談所でもビッグデータを用いたマッチングシステムを使ってるところもあるんじゃなかったっけ?
自分では気づかない条件の相性というのはあると思う -
AIの支配する世界は生き辛そうだと思いました。
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<紹介>
人工知能やアンドロイドが超発達してAIが人間の恋愛をサポート/コントロールするようになった社会で、AIにコントロールされる恋愛ってどうなのと考える男の話。
<おすすめポイント>
恋愛小説だけど土橋作品のテンプレートに沿ってるから過去作ファンも安心して読める。コミュニケーションや気持ちのやり取りを理屈っぽく分析したがる作風。
<感想>
主人公が土橋主人公で安心する。読後感良くて◎。 -
【そこは“成功率100%”の恋愛相談所。AIとたどる切れた赤い糸の結末は――。】
成功率百パーセントの恋愛があります――。失恋に落ち込む大学生、秋山明はAIによる恋愛シミュレーションを受ける。その相手は実在する女性のデータをインプットしたアンドロイドだった。
「――私は切れてしまった赤い糸をつなぐためにここに来ました」
システムのバグで“消失”したという秋山の運命の相手に関するデータ。彼女の行方を探すために始められた疑似デートをきっかけに、複雑に絡んだ赤い糸が紐解かれていく。ひと夏の恋愛ミステリー。