中国文学入門 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061580237

作品紹介・あらすじ

われわれ日本人にとって、陶淵明や李白や杜甫は身近かに親しまれている。しかし、3千年というとほうもなく長い中国文学史上において、彼らの詩や作品はどのように位置づけられるのか。はたまた、中国文学そのものの特色はどんなところにあるのか。そうした中国文学の特色や性質を、本書は、各時代各ジャンルの代表的な作品に即し、しかも、世界文学という広い視野から平易に解明する。と同時に、文学とは何かをもわれわれに考えさせる。

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  • 吉川幸次郎 中国文学入門

    辛亥革命前の中国文学の共通思想を「無神論的な人間主義」として展開した文学通史。人間主義から 中国文学に込められた 政治性や社会性を 紐解いている。巨大で多様な国家の文学を 一つのキーワードで収めてしまう著者の発想は凄いと思う

    文学=人間学の見地から、神や伝説による虚構による文学を西洋的として、歴史事実を述べた散文や普通の人間の感情を歌った抒情詩に 中国の文学的特性を見出している


    著者の言葉「中国はシェークスピアを生まなかったが、西洋も 司馬遷と杜甫を生んでいないように見受ける」は 中国文学の人間主義的特性への自信を感じる。


    著者が設定した文学史上の4つの時代区分、杜甫と李白の熱情の比較に関する記述は 面白い。著者の杜甫の本を読みたい。


    中国文学の共通思想
    *人間は人間にむかって誠実であれ
    *無神論→ 文学は 神への関心を抑制し、人間のみ見つめてきた
    *虚構を重視せず〜普通人の日常を題材とした文学


    無神論=人間の法則
    *人間の中に人間の道理がある
    *人間は社会的存在であり〜自己を完成するだけではいけない〜喜びも悲しみも人人とともに分かち合う

    中国文学史の時代区分
    *前文学史(秦)
    *詩過剰の時期(漢〜唐はじめ)
    *虚構の文学(唐中ごろ〜清崩壊)
    *辛亥革命、文学革命

    前文学史
    *政治と倫理のための言語である論語、老子、韓非子、荘子
    *人間は 政治的、倫理的な存在

    詩過剰の時期
    *人間の事実そのものより事実に対する感情を素材とした抒情詩
    *文学が政治、倫理に優先

    詩経=孔子が編纂
    *楽しんで而もすぎず、哀しんで而もやぶらず→調和を得た感情
    *政治によって社会に奉仕する
    *人間は その善意によって 幸福でありえる

    楚辞
    *悲しみによって突き破られた文学
    *不幸は病気のようなもの〜努力すれば回復する

    陶淵明「飲酒〜此の中に真意あり」
    *自然は秩序を失わず、規則正しく運行する〜自然は人間の秩序の源泉
    *叙景詩〜自然の美しさによって触発される感情を歌った詩

    杜甫(盛唐時代)
    *人間に対する誠実
    *杜甫の熱情は誠実となって発散し〜憤りがほとばしる
    *倦夜〜空しく悲しむ清き夜のゆくを→何とかしなければとあせる自分を置き去りにして、夜の時間は過ぎていく
    *理想社会の実現を思想とした

    李白
    *李白の熱情は人間の生命力の讃美となって発散する
    *世におるは大いなる夢のごときに→人生は元来は大きな夢、何も思い悩む必要はない
    *個人生活の充実を思想とした





  • 講演の録音から文字起こしした文章と、論文などを併せ、都合七篇の文章を収録しているが、本自体が薄いため、各一篇はもっとうすい。個人的には内容をまとめて少し整理して一冊にしてほしかったが。文章自体は全集から引っ張ってきているらしいので、ファンならそもそも全集を読むであろうし、なおさら、文庫にするなら整理してほしかった。

    解説によると、著者の吉川幸次郎は、当時としては珍しく、中国の文学を読み下した漢文としてではなく、あくまでも一つの外国文学の一つとしてとらえ、さらに時代時代や作者個人個人といったミクロ的視点ではなく、中華有史以来、魯迅に至るまでの数千年の長い文学の歴史をマクロ的に理解しようとしたことが偉大であったらしい。……が、本書の前半数篇は正直退屈だった。主に講演で語った内容を載せていて、内容が平易に傾きすぎたきらいがあり、全くあとに何ものこらなかった。後半数篇にいたり、著者の中国文学に対する観察姿勢というものがみえてきた。

    この著者は岩波新書から『新唐詩選』を出していて、三好達治と共著という形をとり、前半の本編を吉川幸次郎が、後半のオマケ部分で三好達治が筆を執っているが、オマケがおもしろく、本編がかすむという、意図のつかめない内容だった。本書の解説にもある通り、おそらく全集などのしっかりした書籍では著者の魅力がもっと強く感じられるのだろうと思う。下手にこんなペラペラの冊子みたいな本にするにはむかない人なのだろう、と勝手に推測する。

    本書を通じていえるのは新時代の文学へのある種の憧憬で、本書の最後の章の最後の行で毛沢東の文化大革命に期待を寄せているところも時代が反映されていておもしろかった。もし、毛沢東の文学が後世大量殺戮と呼ばれていることを知ったら、著者はどう思うか。

    肝心の中国文学について、著者に拠れば中国文学は、虚構文学の発展した西洋文学とは異なり、人と現実世界を重視する。中国において文学とはすなわち士大夫階級が嗜むべきものであり、それが延いては政治への情熱につながった。政治への情熱がからまわりすると悲哀に転じ、そこに強い不満が生まれ、方や杜甫のようなドン・キホーテ的心理にもとづく激しめの詩がうまれ、方や白居易や蘇軾などのように情熱を通り越して冷徹な詩がうまれる。しかしその根底にあるものはいづれも世の中を良くしたい、政治の腐敗をなくしたいという「迸る熱いパトス」(綾波!) であった。中国文学の恋愛歌が主流となりえないのはそれが理由らしい。

    そう考えてみると、中国人というのはつくづく政治の人なんだなと感じる。

  • 詩経から魯迅の文学までの中国文学を幅広く解説してくれている入門書。中国文学を「人は、人人の中にいる、故に人は、人人に向かって忠実でなければならない」という伝統を持つ文学であるとする。中国文学とりわけ詩が虚構性を持たず、自然の風景と人間の感情の機微を謳うものであるという指摘には鋭いものがある。「シェークスピアを中国は生まなかった。しかし司馬遷と杜甫を、西洋はまだ産んでいないように見うける。」しびれた。

  • 西洋文学との比較があり、位置づけがくっきりする。超越ではなく人間や人間との関係を見つめるという形で中国文学を特徴づける。
    杜甫と李白について特に詳しい。

  • 期待した内容ではなかったせいもあって・・・散漫な読書に終わってしまった。

    吉川の本は初めて読んだ。
    印象に残った点は二つ。
    杜甫を、現代に通ずるヒューマニズムの詩人と見て高く評価していること。
    漢代を悲観的な人生観の底と見て、それ以来を楽観的な人間観が復活していく、という文学史観を持っていること。

    引用されている詩は、やはりはっとさせられるものが多かった。
    もう少しきちんとこの本に向き合ったら、魅力が分かるのかもしれない。

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著者プロフィール

吉川幸次郎(よしかわ・こうじろう):1904―80年。神戸市生まれ。京都帝国大学文学部文学科入学、支那文学を専攻。1928―31年、中国留学。京都大学人文科学研究所東方学研究部研究員を経て、京都大学教授。この間、数々の著書を発表、日本の中国文学の普及に大きく貢献、芸術院会員、文化功労者となる。主な著書に『尚書正義』『杜甫私記』『陶淵明伝』『仁斎・徂徠・宣長』がある。

「2023年 『中国詩史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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