群衆心理 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061590922

作品紹介・あらすじ

民主主義が進展し、「群集」が歴史をうごかす時代となった十九世紀末、フランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンは、心理学の視点に立って群集の心理を解明しようと試みた。フランス革命やナポレオンの出現などの史実に基づいて「群集心理」の特徴とその功罪を鋭く分析、付和雷同など未熟な精神に伴う群集の非合理的な行動に警告を発した。今日の社会心理学研究発展への道を開いた古典的名著。

感想・レビュー・書評

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  • 難解な書 「群衆とは何か」の問いに答える書。

    自分なりにくみ取った主旨とは次の3つです

    ①群衆とは個人の集合体ではない 個性、理性は消え失せて、本能的な人間、野蛮人と化す。
    ②群衆を支配するのは、群衆の想像力を刺戟する能力をもつ指導者のみである。感情に訴えるものであって、決して理性に訴えるものではない。
    ③群衆の根底には、民族の伝統があり、それを変えることは、時間がかかる。
    ゆえに、指導者は最良の現在の策よりも、1つ前の旧来の策を取らざるを得ない。

    気になったのは次の言葉です。

    ■群衆の時代
    ・国家の運命が決定されるのは、国王の意見ではなく、群衆の意向による
    ・最も不当な税目でも、少目立たず一見して負担にならないように見えるのであれば、群衆には最上のものと思われることがある。

    ■群衆の精神
    ・人間の集団は、構成する個々人の性質とは異なる新たな性質を具える。意識的個性が消え失せて、あらゆる個人の感情や観念が同一の方向に向けられる。
    ・知能の点では相違する人々でも、同様の本能や情欲、感情をもっている。性格や信念の点からすれば、人間の相違は、全然存在しないか、あっても極めてわずかである。
    ・集団的精神のなかに、入りこめば、人間の知能、個性は消え失せる。
    ・群衆は、智慧ではなく、凡庸さ積み重ねる。
    ・群衆の中の個人は、、自分の意志がなくなった一個の自動人形となる。
    ・孤立していたときには、教養のあった人でも、群衆に加わると、本能的な人間、野蛮人と化す。
    ・群衆は、思考力を持たないと同様、持続的な意思も持っていない。

    ・群衆は暗示にかかりやすい。一度暗示が与えられると、感染によって脳にきざみこまれ、感情の転換を起こす。
    ・個人が群衆に加わるやいなや、等しく観察の能力を失ってしまう。
    ・群衆は暗示がかけられると、英雄的精神、献身的精神をも発揮できる
    ・責任のない、罰をまぬかれる立場に置かれると、しばしば犯罪行為を行うことがある。それは本能のままに従う自由が与えられるから。
    ・群衆の思想 1:影響を受けて発生する偶発的一時的な思想 2:環境、遺伝、世論のもとになる根本的な思想
    ・為政者は、根本的な思想の中に誤謬があるとわかっていても、その思想の勢力が強力のために、その原則に従って政治を行わざるをえない
    ・民衆の想像力を動かすのは、事実そのものではなく、その事実の現れ方である。その創造力を刺戟する術を心得るものが、群衆を支配できる術を得る。
    ・事実を観測し得ても、群衆の心理を洞察できなければ、その事件の真の原因までにさかのぼることができなかった。

    ■群衆の意見と信念
    ・信念を決定する原因は
     間接原因:ある信念は取り上げることを可能とするが、他の信念には浸透されることのないように仕向けるもの
     直接原因:長期にわたる作用の上に積み重ねられて、思想を具体化してどんな結果を伴うとしてもその思想を実行せずにはいられないもの
    ・民族とは、過去によって創造された一種の有機体である
    ・民族は、祖先伝来蓄積されてきたものに手を加えなければ変改することはできない。過去の制度を少しづつ改めながら、それを保存するものでなければならない。
    ・1つの政治制度を作り上げるのに、数世紀を有し、それを改めるにも、数世紀を有する。
    ・教育は、人間を改良し、かつ、人間を平等化するにも確実に効果がある
    ・群衆を動かすには、感情に訴えるものであって、決して理性に訴えるものではない。
    ・指導者は重要な役割を演ずる。指導者が中軸となって意見をとりまとめ、統一する。群衆は統率者なしにはなりたたない。
    ・指導者は実行家であって思想家ではない。また、あまり明晰な頭脳を持っているわけではなく、また合わせ備えることは難しい
    ・大衆は、強固な意志を具えた人間の言葉には傾聴する
    ・信仰を創造すること、これが偉大な指導者の役割である

    ・指導者の行動手段 断言、反復、感染
    ・最も強力な暗示は実例である
    ・断言:証拠や論証を伴わない、簡潔なものであればあるほど、威力を持つ
    ・反復:断言をできるだけ同じ言葉で繰り返すこと
    ・感染:反復によって全体の意見が一致したときは、意見の趨勢が形成され、外部に伝播されていく。感染は庶民層に作用したのち、上層部へと波及する。
    ・威厳:感染によって伝播された意見が大きな勢力を有するのは、感嘆とか、畏怖といった感情を含まれる威厳を生み出す
        人格的威厳は、人為的、後天的な威厳とは性質を異にする。肩書や、権威といったものとは無関係の力である
        威厳を保つにはつねに成功することである、1度の失敗で威厳は消え去る、このために英雄も、同じ群衆によって辱めらえる
    ・信念:信念の確立には非常な困難を伴うが、いったん確立されてしまえば、打破しがたいものとなる

    ■群衆の分類
    ・群衆の犯罪は、強力な暗示から起きる。犯罪に加わった人間は、義務の命ずるところに従っただけであると強く信じている。
    ・選挙上の群衆:候補者が具えるべき第1の資格は、威厳である。
    ・候補者の公約は、あまりにも明確であってはならない。反対派がそれを盾に攻撃してくる。
    ・群衆は、他から強制された意見をもつだけで、自ら考え抜いた意見をもたない
    ・制度や政体は国民の生活上、極めて微弱な役割しか演じない。
    ・群衆は指導者の威厳に支配されるのであって、その行動には利害の観念や感謝の念をもつことはない
    ・十分に威厳を具えた指導者は絶対的な力をもっている。
    ・人民の無関心と無力とが募るにつれて、政府の役割は増大する。政府が一切を計画し、指導し、保護しなければならない。

    ■結論
    ・1つの夢を追求しながら、野蛮状態から、文明状態へと進み、夢が効力を失うやいなや、衰えて死滅する。これが民族がたどる周期的な過程なのである。

    目次

    著者の序文
    序論 群衆の時代
    第1編 群衆の精神
     第1章 群衆の一般的特徴
     第2章 群衆の感情と特性
     第3章 群衆の思想と推理と想像力
     第4章 群衆のあらゆる確信がおびる宗教的形式
    第2編 群衆の意見と信念
     第1章 群衆の信念と意見の間接原因
     第2章 群衆の意見の直接原因
     第3章 群衆の指導者とその説得手段
     第4章 群衆の信念と意見が変化する限界
    第3編 様々な群衆の分類とその解説
     第1章 群衆の分類
     第2章 いわゆる犯罪的群衆
     第3章 重罪裁判所の陪審員
     第4章 選挙上の群衆
     第5章 議会の集会
    訳者のあとがき
    解説
    索引

    ISBN:9784061590922
    出版社:講談社
    判型:文庫
    ページ数:302ページ
    定価:1020円(本体)
    発行年月日:2012年06月22日第16刷

  • 集団心理の状況を丁寧に考察してあり、時代背景は違っても、現代にも通じる精神心理がうまく描かれています。
    指導者の行動手段は、「断言と反覆」そして感染が暗示を与える最上の手段とか書かれていたのは、とても納得できました。
    「内容てはなく、言い切る力!」そして「繰り返し言い続ける力!」が暗示を与えるみたいです。。 
    良いか悪いかは別として、確かに当たっていると思います(笑)
    ぜひぜひ読んでみて下さい。

  •  己の目的を遂げるための、最も有効な手段の一つは「群衆を利用する」ことである。上手く用いれば多大な利益をもたらすが、しかし、それは非常に難しい舵取りを迫られるもので、ほんの僅かな失敗で己を窮地に追いやる劇薬でもある――。
     史実から「群集心理」を考察し、その特徴と功罪、そして民主主義・多数決重視を盲信する危うさを分析した心理学・社会学の古典。

     訳が比較的読みやすかった。現代の人間から見れば「これはちょっと違うのではないか」と思える分析もあるが、「付和雷同」や「お国柄」など、現代の"集団"の理解にも大いに役立つ点、人は百年以上経ってもその本質はなかなか変えられないのかなと思ってしまう。
     古くは関東大震災直後、情報不足と流言飛語により多発した私刑行為(リンチ)。戦時中の各国のプロパガンダと国民の団結力。一人の誤った証言による冤罪。
     現代に至っても権威や肩書への盲信や、電子ネットワークによる賛同者募集やデマゴギーの拡散(集団感染/パンデミック)など、著者が分析した通りの現象はあちらこちらで起きている。
     最近も日本を含む各国で「民意を無視している」とか「民意を誤導している」とかあるが、政治家も、マスメディアの関係者も、そして群衆を構成している一人一人である我々も、一度これを読み直して群衆の取り扱いについて今一度考えてみてもいいのではないだろうか。

  • 【25年ぶりに再読したのでこちらにも記しておきます】
    大学生の時に読んで以来の再読。実に四半世紀ぶりになったわけですが、まったく色褪せていないと感じて感動しました。従来の⭐️4を⭐️5に変更します。

    群衆がいかに烏合の衆になるのか?社会にどのような影響を及ぼすのか?民主主義における群衆とは?章立てもわかりやすく、国民性や国柄、指導者とは、など興味があるテーマを深掘りできます。

    再読したきっかけは、イーロン・マスクによるツイッターTwitter買収。リバタリアンとされるマスクが監視体制を弱めて「自由な言論」重視の傾向を強めていくとなると、現代における群衆がいよいよ解き放たれてくるのかもしれない。いろんな示唆があり、とてもよい。NHKの「100分で名著」でも再放送しているが時宜を得たものだと考えます。

    なお現代では異なるなと感じた点を少しだけ。
    ル・ボンはフランス、ラテン系の種族性を情動的かつ中央集権思考などとやや否定的に、イギリスなどアングロサクソンを理知的で自由に重きを置くと肯定的に描いています。しかしブレグジットの国民投票からトラス首相の辞任に至るまでを見るにつけ、イギリスも前者の種族性に近づいた、いやむしろ中核に入っているのではないかと感じました。

    再読了日:2022年11月6日

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  • 100分de名著の今月の本。読んでみたら、いろんな意味で面白かった!ヒトラーがこの本を読んでいたことも納得。現代の私が読むといやいや、偏見が過ぎると思う描写も多いけれど、それも含めてこの本が書かれた時代感。自分も群衆であることを自覚したい。それを知っているだけでも、同じ過ちを繰り返さずに済むかもしれない。

  • 具体的にフランス革命時の例をとって、群衆(ここでは目的意識や地位などがバラバラな人たちがひと所に集まった状態)になった時にどのように行動するのか、そしてそれはどのような意識に基づいて行われるのかを説明する。
    なるほどなあ、確かになぁ、今でもそうだなぁ、と思う。烏合の衆となった時、我々は平易に動かされてしまう恐れがあることを肝に銘じて、今の社会をおそるおそる生きていく必要があるのではないかと思う。

  • 近くの書店の店頭で平積みにされていて、何気に購入したものですが、最近読んだなかでは白眉の内容です。

    集団における人間の性質や指導者の関わりなど、類書では「自由からの逃走」「大衆の反逆」「自発的隷従論」などがあると思いますが、冷徹な洞察という点で、この「群集心理」も勝るとも劣らないと思います。断片的ですが、曰く、

    ・群衆は力を尊重して、善良さには心を動かされない。
    ・群衆は、弱い権力には常に反抗しようとしているが、強い権力の前では卑屈に屈服する。
    ・動物の群にせよ、人間の群にせよ、ある数の生物が集合させらるやいなや、それらは、本能的に、首領、すなわち指導者の権力に服従する。
    ・群衆の精神を常に支配しているのは、自由への要求ではなくて、服従への要求である。
    ・群衆の精神に、思想や信念-例えば、近代の社会理論のような-を沁みこませる場合、指導者たちの用いる方法は、種々様々である。指導者たちは、主として、次の三つの手段にたよる。すなわち、断言と反覆と感染である。(中略)断言と反覆に対抗できるほどの強力なものは、これまた断言と反覆あるのみである。
    ・新聞雑誌は、単なる報道機関に化して、どんな思想もどんな主義も強制しなくなり、ただ世論のあらゆる変化に追随する。
    ・およそ指導者が、世論に先んずることはまれであって、多くの場合、世論の誤謬をそのまま受けいれるだけにとどまるのだ。
    ・指導者が、往々、才智や学識を具えていることもある。しかし、これは、たいていの場合、指導者にとって有利であるよりも、むしろ有害となる。

    欧州の事象、とくにフランス革命を軸に考察されているようで、日本にそのまま当てはまるかは多少割り引いて考える必要がありますが、それでも、久々に開眼させられた一冊です。

  • アバタロー氏
    20220515 100分で名著 読了

    1895年出版
    群衆の性質や行動様式の解明

    《著者》
    フランス 1841年生まれ
    医師から社会心理学

    《内容》
    ○フランス革命を起こした群衆がきっかけ
    ○幻想に引きずり込む 言葉の魔力
    ビジネスではロジックが必要だが、群衆という不特定多数にはパッションが求められる
    ヒトラーは身振り手振りで感情を表し、群衆を熱狂な信者へと変貌させた
    断言、反復、人々に感染させ信じこませる
    そこには証拠も論証もいらない
    同じ言葉、断言で反復
    うそも100回言えば真実

    なぜこんなに熱狂的に崇拝、伝播するのか?
    威厳という神秘的な力のため

    断定的な口調、反復されているフレーズ、成功体験、肩書きは十分注意

    《感想》
    改めて人間はこんなに愚かなのかと思ってしまった
    断言や反復によって信じてしまう
    それが証拠も論証もいらないって本当ですか?と恐くなる

    食とお笑いの毎度似たようなテレビ番組
    見る番組によって流れる広告
    見たもしくは買った商品によって出てくるお勧め商品
    現代でもまさに群衆心理をついた刷り込み作戦がとどまることを知らない
    大人でさえ揺らいだりするのに、子供にはもっと悪影響なのだから大人が気を付けてあげないといけない

    《他本との兼ね合い》
    1800年代から大規模な革命が起こり、群衆が結束していったため、この本が一番古いと思う
    この本を下敷きに群衆論が派生した
    ヒトラーも愛読書だった
    調べたら意外に多かった
    1895年群衆心理 ル・ボン
    1901年世論と群衆 タルド(群衆心理学を批判)
    1925年我が闘争1巻ヒトラー
    1926年 〃 2巻(2巻に群衆心理の考察)
    1929年大衆の反逆 オルテガ
    1950年孤独な群衆 リースマン
    1960年群衆と権力 カネッティ

  • 100年という時代の違いを多少感じるが、野蛮で無自覚な群衆が社会の骨格を壊して行く、というところは、身に染みる。
    2019年からの数年間のことが、そのまんま書かれている。
    あの騒ぎがあったから、この本がとてもよく理解できる。
    そうでなかったら、何をいっているのか、私にはちっともわからなかったかもしれない。

    しかし、ラテン民族と中国が嫌いな作者だな、と感じる。
    偏見も入っている気がする。
    確かに学校の、教科書と先生を盲信することを強制する教育は、愚かな群衆を作る基盤になっている、とは思う。

    また、ネットやテレビが普及していない時代の話なので、近年政府が行った言論統制についての見解は完全に甘い。
    群衆を煽る方法が随分変化し、現代では規模も大きく洗脳も深くなってしまったのではないか、と私は思った。

    自由の拘束は文明の老朽・衰退の証拠であるということはなるほどと思った。
    その通りだろう。
    しかし、大陸とは違い、島国である日本の民族性は少し特殊なのかもしれない、とも思う。

  • フランス革命により起きた大転換を中心に社会を動かす中心は何かを考察した古典的名著。
    書かれたのは1895年と古いものではあるが、その内容は恐ろしくも現代にも当てはまる。

    群衆とは、ただ人が集まったものでなく、ある指向された思想の元に集まり、個人個人の考えや思想とは別に群相ともいうべき思考様式が発現し、社会を変える程のうねりとなる事である。

    その、不思議な特徴は群衆を構成するメンバーの知性や批判的精神は関係なく、人数すら関係ない。
    2人以上の複数人がいれば群衆を形成しうる。

    仮に個人個人は頭脳明晰で、合理的判断のもとに批判的思考に富んでいたとしても、群衆の一員となるとその理性は抑制され、無批判で感情に支配された時に自己犠牲的に、時に暴力的な集団の一員となる。

    自分がある集団の一員でないとき、第三者視点から見ると、その集団の主張が支離滅裂で異常な人物の集まりに過ぎないと思ってしまうが、本論を鑑みると、誰でもなりうるというのが恐ろしい。
    (確かに陰謀論やカルトには時たま非常な秀才が参加しているときもある。)

    この群集心理を理解すると、残念ながら現代においても重要な歴史的事件に群衆心理が生じている事が見受けられ、悲しくも本理論が正しかった部分があることを証明している。

    それにしても、この群集心理をよく研究し、応用すればカルト教団を作れるほどだと感じたので、恐ろしい学問だと思う。

    その餌食にならないためにも、こういう知識を知ることは重要であろう。

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