最後の伊賀者 (講談社文庫 し 1-19)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061838659

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに司馬遼太郎作品を手に取ってみた。ひとこと。やっぱり面白い。吉川英治よりも、北方謙三よりも。今回は短編集である。それぞれ、書評を書いておこう。

    「下請忍者」
    今まで忍者について深く調べたことはなかったが、この作品ではその内情が詳しく語られている。忍者の世界にも武士等の他階層と同様、支配者階級の上忍と被支配者階級の下忍があり、搾取によって成立しているとは真新しい知識である。伊賀喰代の郷士百地小左衛門配下の下忍:猪ノ与次郎が主人公。時代は徳川家康が桶狭間の戦い後に今川の支配を離れた頃。

    「伊賀者」
    河内国弓削村出身の梅ノ源蔵が主人公。時代は本能寺の変前後。源蔵が師の杉ノ坊の仇を撃つべく兄弟子抹殺を諮る途中、筒井順慶の身代わりアングルに巻き込まれる話である。それよりも、盲人:黙阿弥が筒井順慶の父筒井順昭の身代わりをした後で故郷に戻ったという話「もとの黙阿弥」という有名な故事になったとは初めて知った。

    「最後の伊賀者」
    有名な服部半蔵の子:服部石見守正就が主人公である伊賀同心のヒダリ(野島平内)から報復を受け、服部家が廃絶されるという物語。その背景には、上に挙げた上忍と下忍という構造にある。任務を終えると報酬の半分を上忍に持って行かれ、老い朽ちると寝酒にも事欠きつつ死んでいく。他で士官しようにも、横のつながりにより殺される。そんな厳しい境遇に置かれた下忍。なので、服部半蔵の跡を継いだ実子に対しても、素直に心服出来ないのである。

    「外法仏」
    平安時代前期が舞台。文徳天皇の皇太子の座を争う藤原良房と紀ノ名虎。藤原良房に護摩を依頼した僧都恵亮が主人公。謎の巫女:青女と関係を持ち、パワーを貰った恵亮が最終的には勝利し、藤原良房が推す惟仁親王、後の清和天皇が立太子。まぁ、分かったような分からないような話。

    「天明の絵師」
    与謝蕪村の弟子:松村呉春の半生を描いたもの。蕪村に可愛がられ、蕪村娘のお絹とは微妙な関係、上田秋成にはこき下ろされ、円山応挙には認められる。そんな江戸時代の文化人に囲まれた半生を客観的に楽しむことが出来た。

    「蘆雪を殺す」
    円山応挙の弟子:長沢蘆雪が主人公。型破りなキャラクターであり、応挙にも逆らう問題児が、多くの人の恨みを買い、暗殺の危険性を予知。最後は食あたりで死ぬが、本人は毒を盛られたと思い込んで最期をとげた、というもの。単純に面白かった。

    「けろりの道頓」
    豊臣秀吉に女を差し出した安井道頓が、水運のため大坂の街に堀を掘るという話。それが現在の道頓堀。本人は豊臣家に恩義があるとして、武士でなく商人なのに大坂冬の陣にて城方に加わり生涯を終える。こんな一市井の人の話も面白いものだ。改めて、司馬遼太郎の話の作り方に魅了された。

  • 「最後の伊賀者」はもちろん、どの短編も面白かったです。
    「けろりの道頓」は大阪の道頓堀を作った安井道頓さんのお話で、
    一番印象に残りました。
    司馬さんの秀作短編が揃っています。

著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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