名画への旅(21) 世紀末の夢―19世紀5

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (149ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061897915

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  •  NHKの「日曜美術館」という番組で紹介された名画を集めたもの。全24巻あり、本書は21巻にあたる。ゴーギャンにはじまり、ゴッホ、スーラ、ロートレック、クリムト、ムンクらの生涯とその作品の概説があり、近接する芸術潮流や画家らの作風にも触れるため、19世紀末美術を一連の流れとして理解できるような工夫がなされている。
     また、すべての頁がカラーであり、図版の数も多い。とくに画家の代表作、ゴーギャンの≪われわれは何処から来たのか、われわれは何者か、われわれは何処に行くのか≫、ゴッホ≪星月夜≫、スーラ≪グランド・ジャット島の日曜日の午後≫、ムンク≪生命のダンス≫などは見開きになって示されている。
     くわえて、有名すぎる画家や作品だけをとりあげているのではなく、バルテュス、シャヴァンヌ、ボナール、ココシュカ、エゴン・シーレ、セガンティーニ、ジャコメッティ、ノルデ、キーフォー、アンソールなども顔をだし、豊富な内容になっている。
     解説も詳しい。個人的にとくに気になったのは、「バルテュスの描くパリの街角には、スーラの世界が引き継がれている」(p.75)という指摘である。スーラといえば点描で、それは印象派のように、とても明るい色彩を放つ。対してバルテュスの色彩は、お世辞にも明るいとはいえないだろうし、両者の描く主題も異なるように思う。しかし、そういわれてみれば、画面全体に漂う異様な静けさはどこか似ている。彼らの描く人物には動きがない。はたして、実際はどうなのか。スーラもバルテュスも個人的な趣味に合わず、これまで避けてきたが、本書を機によくよくみなおしてみたいと思った。
     また、「ムンクは、人間の心理の奥底をえぐるときには、凍りついた無表情を露呈することに気づいていた」(p.116)という指摘にも目がとまった。象徴派の隆盛により人の内の世界が芸術の主題たりえるようになり、20世紀に登場するシュルレアリスムが徹底して個を排した画面を生み出した。その過渡期にあって、ムンクが果たした役割は大きいように思う。19世紀には中世回帰熱があり、精神分析学が姿をあらわすわけだが、美術史の流れと連動していることも興味深い。
     いずれにせよ、本書は世紀末を生きた感受性を概観するよき指南書である。

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著者プロフィール

1950年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学文化構想学部教授。美術史・イメージ分析を主領域としながら、多岐にわたる分野の論文や評論を発表。論文に「〈平和国家〉の〈滅私奉公〉」、「壺体・國吉清尚」、「ポン・タヴェン派残党遺聞」など、評論に「セザンヌは生きている」「仰天日本美術史〈デロリ〉の血脈」「ゴーギャンという人生」など、共著に『パリ オルセ美術館と印象派の旅』(新潮社)、『日本の近代美術1 油彩画の開拓者』(大月書店)、『イメージのなかの戦争』(岩波書店)などがある。

「2019年 『男色の景色』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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