- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061960831
作品紹介・あらすじ
あくまで私小説に徹し、自己の真実を徹底して表現し、事実の奥底にある非現実の世界にまで探索を深め、人間の内面・外界の全域を含み込む、新境地を拓いた、"私"の求道者・藤枝静男の「私小説」を超えた独自世界。芸術選奨『空気頭』、谷崎賞『田紳有楽』両受賞作を収録。
感想・レビュー・書評
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久しぶりの怪小説。マジックリアリズムかと思いきや地獄のスラップスティックと幻想風景の嵐。驚いた。「空気頭」の方も最初は死に際する妻を看取る私小説かと思いきや急な方向転換、訳のわからない内容に悶絶。
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血とコメディ。水木しげる先生のマンガを想起しました。或いはブルーズロックであるとか。攻撃的でありながら自嘲的であり、外在化した鏡のなかの己、人型としての己、を、鏡の外から見詰めている感覚。人間悪も人間善もごくフラットに並べて、千里眼で透き通る結晶の花と化させている、そんな感覚。ブルーズのライトモチーフとして、悪魔との出遭いがありますが、それは人間を外在化させるためのガジェットなのだろうな、と、空気頭と田紳有楽を読み、思いました。
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自身の読書体験の中で5本の指に入る衝撃と感銘だった。
『田紳有楽』は異質な物語手法に陶器への深い愛情と知見、ブッディズムが合わさり他には無いぶっ飛び作品になっている。
特に『空気頭』は静閑な私小説的世界に、鋭いナイフの様な一言や衝撃的なフックが混ざり合う天下無双の作品。読後はしばらく考えが纏まらず飲み込みに時間を要した。 -
モグリ骨董屋に身をやつして浜松の街裏の二階屋に日を送っている"弥勒菩薩の化身"である磯碌億山と、彼によって庭池に漬けられた陶器たちが主な"登場人物"。グイ呑みは金魚のC子との愛欲にまみれ、抹茶茶碗は人間変身術を会得せんと大蛇のもとへと通い、飛翔の術を操る丼鉢が滑空する。旅の途中で地蔵と出会い、億山宅には神仏が来訪する。谷崎賞受賞の『田紳有楽』は形容しがたいヘンテコな小説。「田紳有楽、田紳有楽、捉えよ、捉えよ」。
『空気頭』は妻の闘病の歴史と、著者の不倫遍歴を回顧する私小説。私小説を自分のことを書くか、他人として書くかに分類し、それまで後者を書いてきたとする著者が前者を書くと宣言したのが本作である。「平気で弱いものに冷酷になれる人、味方に似たふるまいを見せていて裏切る人、そういう人は沢山ある。そして、平生の生活で自分がその一人だという自覚がある」という通りの振る舞い(とくに妻に対して)を隠さず伝えている。いかにも昭和の作家らしい私小説作品。精力剤への異様な執着が印象的。 -
何というか呆気にとられてしまった。現実と妄想がこんな絡み方をするなんて。冒頭に筆者の断り書きがあるけれど、そんなもの消し飛んでしまった。ただ、奥様の闘病の様子が凄まじく、胸が痛む。医者ならではの冷静で緻密な描写だからこそ、静かで冷たい悲しみがひたひたと染みてくるようだ。
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『ゆっくりとさよならをとなえる』より
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文学