テレーズ・デスケルウ (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061975699

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  • ■『テレーズ・デスケルウ』 フランソワ・モーリアック著 遠藤周作訳 講談社

    【前編2 堕落論】
     堕落論にまつわる小説の一つ。著者はクリスチャン作家のフランソワ・モーリアック。遠藤周作が、この小説に出会い大学においてフランス文学を専攻し、日本においてはじめてのフランス留学生として、現地におもむいたことは有名。現地でもテレーズの後を追い、作中の舞台となった土地に足を運んだ。この小説の紹介として、私個人の本棚のレビューを引用する。

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    究極的に個人主義を離れることのできない、その面でどこまも無邪気なテレーズが、結婚をしその生活に個性の埋没を知り、悪意とは離れた衝動によって、夫に毒を盛る。
     物語の始まりは、その咎により裁判にかけられるが、家庭の体面を気にした夫とその一族が、テレーズに責めを負わせず免訴になるところから始まる。しかしその許しは愛からではなく、あくまでも体面であるから、テレーズの自由は極度に縛られる。今まで以上に行いも制限され、鬱屈した精神のしみついた、フランスの片田舎、地の果ての印象を与えるアルジュルーズに縛りつけられ、テレーズの行いを知る人々の蔑みの目から逃れることも出来ず、さらされ精神が蝕まれていく。

    しかし、そんな環境でもテレーズはどこまでも理性的である。反省も後悔もなく(あるとすれば結婚自体)、自らのありのままを肯定しながら、しかし宗教的規範、そこからくる家庭の結びつき、因習的な血の呪縛から、必死に逃れようと思いを巡らす。己が生んだ子にも関心を持てず、必死に自分を愛することしかできないテレーズ。最後には、体面ゆえに夫との婚姻関係は保ちながらも、パリに一人生きることを許され、放逐される。

     フランソワ・モーリアックは世界的にも著名なカトリック作家であるが、護教作家ではない。この作品も決してそんな色はない。神を離れ、宗教的なものからの自由を勝ち得た現代の人間であるが、個人主義と、そこからもたらされる解放が、我々に何を与えてくれるのか。こういうと結局、逆説的な護教だといわれるかもしれないが、既存の宗教の正当性がどうとかいう以上に、宗教を含めた人間をもう一度考えていかなければいけない、そんな時代に立たされていることを感じざるをえない。

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    <堕落論にまつわる小説>
    トルストイ 『クロイツェル・ソナタ』
    モーリヤック 『テレーズ・デスケルゥ』
    ゲーテ 『若きウェルテルの悩み』
    夏目漱石 『こころ』
    ジッド 『狭き門』

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