反骨: 鈴木東民の生涯

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062038140

作品紹介・あらすじ

徹底した反ナチス報道が追放され、なお軍部の言論弾圧に屈せず、敗戦後は読売新聞大争議を指導、のち釜石市長として反権力・反公害運動を展開、一生を時流に媚びず反骨に生きた男の破天荒の生涯。

感想・レビュー・書評

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  •  東郷茂徳の伝記を読んでいたら,この人の名前が出てきた。読売新聞社にいたらしい…ネットでググってみると,なかなかおもしろい人生を歩んだ人のよう。気になってしまったので,手に入れて読んでみたのが本書ってわけ。
     いやー,この伝記は面白かった。鈴木東民,おもしろい。こんな人が日本にいたなんて,これまでまったく知らなかった。
     東北の田舎に生まれ,第二高等学校をなんと6年もかけて卒業し,その後,東京帝国大学を4年ですんなり卒業。その間,学校の矛盾に対して抗議行動を組織したり,情宣を作ったりして,民主的な学校を作る運動を起こしていく。青年時代の東民は,いろんな人(吉野作造など)の影響を受けながら,民主的な社会を求める反骨の闘志として成長していくのだった。
     戦前は,新聞記者としてドイツのベルリンに派遣になっていながら,現場から反ナチスの記事ばかり書くというのでナチスから国外退去命令が出され,祖国に帰ってくる。しかし帰国してからも,東民の筆調は冴えわたる。だが,時代は治安維持法のまっただ中。結局,筆を行かす機会を奪われて,一線を退かざるを得なくなる。
     戦後は,読売新聞にもどり,日本初の労働組合運動と言ってもいい第1次読売争議(なんと1945年のことだ)で,正力たち経営派に勝利してするも,第2次読売争議ではGHQの方針転換もあって,敗北。結局,読売を辞めさせられる。
     その後,何度か国政選挙に臨むがいずれも落選。途中,日本共産党に入党するも,肌が合わずに2年あまりで離党。
     そして,なんと地元釜石市(合併したばかりの市)の第1代市長となる。東民は,市長となってからも,当然,民衆のために行動する。公害反対運動のデモには先頭に立ったこともある。新日鉄釜石製鉄所による公害問題が大きな課題でもあった。
     しかし,第4度目の市長選には敗北。
     それにもめげずに,今度は,釜石市議会選に立候補し,見事トップ当選を果たす。市長だった人物が市議選に出ること自体稀なこと。ここでも,新市長と堂々と渡り合う姿があった。が,市議1期で落選することになる。
     「反権力・反公害運動を展開,一生を時流に媚びず反骨に生きた(帯の文句)」人であった。

     本書の内容は,とてもよく調べられていて,大変読みやすく,しかも資料も豊富である。東民の人となりがよく分かるエピソードも満載。さすが,ルポの鎌田慧だ。
     こういう人が日本にいたことを誇りに思うし,今一度,政治というものが民衆のものになっているのか,反省してみるべき時に来ていると思う。
     東民の奥様ゲルトルートも,東郷茂徳の妻同様ドイツ人である。これも何かのつながりか(実際,茂徳がドイツ大使だったときに,東民とドイツで会っている)。
     そうそう,敗戦前,再度,外相になった東郷に対し,岩手にいた東民はわざわざ東京へ面会に行っている。二時間半ほど話をしたようだ。東民には,茂徳が戦争を終わらせるために外相となったことが十分伝わったと思われる。
     さらにつけ加えると,なんと,東民は宮澤賢治と同じ謄写屋でバイトした仲である。1920年頃のことらしい。次の年,帰郷した東民は宮澤家の実家に招待されてご馳走になったとも書かれている。いやー,これまた,おもしろい。

  • (1989.07.08読了)(1989.06.24購入)

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著者プロフィール

鎌田 慧(かまた さとし)
1938年青森県生まれ。ルポライター。
県立弘前高校卒業後に東京で機械工見習い、印刷工として働いたあと、早稲田大学文学部露文科で学ぶ。30歳からフリーのルポライターとして、労働、公害、原発、沖縄、教育、冤罪などの社会問題を幅広く取材。「『さよなら原発』一千万署名市民の会」「戦争をさせない1000人委員会」「狭山事件の再審を求める市民の会」などの呼びかけ人として市民運動も続けている。
著書は『自動車絶望工場―ある季節工の日記』『去るも地獄 残るも地獄―三池炭鉱労働者の二十年』『日本の原発地帯』『六ケ所村の記録』(1991年度毎日出版文化賞)『ドキュメント 屠場』『大杉榮―自由への疾走』『狭山事件 石川一雄―四一年目の真実』『戦争はさせない―デモと言論の力』ほか多数。

「2016年 『ドキュメント 水平をもとめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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