一日 夢の柵

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  • 講談社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062131162

感想・レビュー・書評

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  • 短編小説。
    病院での出来事が多く感じた。
    思わぬ着地点な時もあり面白かった。

  •  家の外だけ眺めて家の中を知らない家は忘れ去られる。と。そう言えば、私は家の中を知っている家はごくわずかなことを認識しましたw。毎朝歩いているので、外だけ眺めててもしっかり画像が浮かんできますが(^-^) 黒井千次さんの短編小説12話が収録されています。「一日 夢の柵」、2006.1発行。銀行や郵便局からの送金、メトロカード、搭乗券などを扱った「浅いつきあい」、親近感を覚えました。老人健診で「遡齢(それい)」診断(歳をとっていない、若返っている)が下される「久介の歳」、面白かったです。

  • 日常の何気ない動作や行動を、事細かく畫いて、まるでその気配さえ感じさせる表現は、相変わらずさすが。
    こんなことを今更いうのは、大先生に失礼なのは承知ですが。

  • 医者への検診の行き帰りを題材にした作品が多い。六十代半ばから七十代半ばに書かれた短篇だから、当然といえば当然である。主人公はどれも老境を迎えた男性。連作ではないが、心理的には繋がりが感じられる。作家自身を反映していると考えて無理はないだろう。老夫婦が二人きりで暮らす何の変哲もない日常を淡々と描いた作品のようでいながら、ほのぼのとした味わいにはほど遠い。見なれた町で突然道を間違え、見知らぬ通りに出てしまったときのように不思議に覚束ない感覚を残す短編集である。

    定年後の男性なら誰にも身に覚えのあるような、ごくごくありふれた日常生活の一コマを題材にしながら、そこは黒井千次である。端正な文体、精妙な観察眼と神経質とも思えるほど繊細な自意識で、ある日、ある時の小さな出来事とも言えぬほどの出来事の中に潜む老境を迎えた男の生理と心理を穿ってゆく。

    歳月の波に晒され漂白されたような淡々とした老年男性の心や体の奥深くに埋み火のように残る生(性)に対する欲求を時にはエロティックに、時にはミステリアスに描き出す筆の冴えには心憎いものがある。健康診断の受診票の端にあった「目が覚めた後もはっきりと頭に残って忘れられないようなオカシナ夢を見た直後は危険ですので絶対に受診しないで下さい」という注意書きにはじまる、歳には似合わぬエロティックな夢に触発された一日の顛末を描いた「夢の柵」。

    年をとり何かと口煩くなってきた老妻の「風邪をひきますよ」という言葉にいちいち逆らいながら、妻のすすめるコートではなく一張羅のツィードのジャケットに手を通すのは、冬日にはめずらしい暖かさに心弾むのを覚えたからだと思っていたが、ポケットの底に忘れていたメモに残された、今は誰のものであったか忘れた電話番号を回してみる好奇心には、体力の衰えとは逆に未だ衰えぬ性的な関心が仄見える。やがて声の主と思われる女と丸ビルのテラスで出会うのだが、夢うつつのような読後感を残す「丸の内」。

    心身の弱まりからくる、自分より年若い男性への生理的な反撥や故知らぬ怖れが随所に挿入されることで、つまらぬ日常風景が異様な緊迫感を帯びて伝わってくる「電車の中で」、「要蔵の夜」。留守中の隣家に灯りがともるという不自然な出来事に老夫婦の疑念が高まってゆく「隣家」と、どれもどこにでもありそうな日常風景の底にぽっかりと口をあけた暗い穴を凝視するような底冷えのする後味を残す。

    久々に大人の鑑賞に堪える短編集に出会った。十二篇のいずれも「文学界」「群像」「新潮」などの文芸誌の求めに応じて書かれたものである。純文学などという言葉は今では揶揄の対象とされているが、こういう作品がいまだに書き継がれているなら、まだまだ存在理由はあるのではないだろうか。そんな印象を受けた。

  • 角田光代さんの作品で紹介されていたので読んだ。老人の視点からの日常がちょっと不思議に描かれている。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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