死んでたまるか 自伝エッセイ

著者 :
  • 講談社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062165525

感想・レビュー・書評

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  •  先月亡くなった団鬼六の自伝エッセイ集。昨年11月に出たものだから、生前最後の著作ということになるのかな。

     書き下ろしかと思ったら、収録エッセイの大部分は既刊から再録したものだった。しかも、そのうちの多くは、私が前に読んだことのある『牛丼屋にて』『鬼六人生三昧』『快楽なくして何が人生』に入っていた文章。なので一瞬ガッカリしたのだが、再読でも十分面白かった。

     団の過去のエッセイから、彼の人生の各段階(少年期・青年期・中年期・老年期)を象徴するエッセイを選び、それらを年代順に編むことによって、自伝として読めるように構成されている。いわば、リミックス・ベスト形式による自伝エッセイ。

     「団鬼六自薦エッセイ集」と銘打たれた『牛丼屋にて』を読んだ際、私は当ブログのレビューで次のように書いた。

    《しみじみとしたエッセイが多く選ばれており、「SM小説の巨匠」というイメージをくつがえすに十分である。
     とくに、戦時中の米軍捕虜との交流を綴った「ジャパニーズ・チェス」や、大学時代の風変わりな恩師の思い出を綴った「ショパンの調べ」、間一髪で交通事故死をまぬかれた記憶を振り返った「頓死」、書名になった「牛丼屋にて」などは、上質の短編小説のような味わいをもつ名編だ。》

     ここにピックアップした「ジャパニーズ・チェス」「ショパンの調べ」「頓死」「牛丼屋にて」の4編は、本書にも収録されている。

     団の過去のエッセイ集をすでに読んでいる人は読まなくてもよい本だが、団鬼六初体験の人にはオススメできる一冊。味わい深い名編が目白押しだ。

     たとえば、有毒フグの肝のえもいわれぬ美味(!)について綴った一編「フグの食べ方教えます」などは、「究極のグルメ・エッセイ」ともいうべきものである。

     団鬼六は一般小説やエッセイでもいい作品をたくさん遺しており、「官能小説作家」というイメージで食わず嫌いをするのは損である。
     エッセイ集なら本書か『牛丼屋にて』か『一期は夢よ、ただ狂え』が、一般小説なら『真剣師 小池重明』がオススメ。

  • 自伝エッセイなんだが、ドラマチック

    戦時中の勤労奉仕、米軍捕虜とのつかの間の交流と
    ほろ苦い結末の「ジャパニーズチェス」

    大学卒業と「チョピン」
    新世界での年末の将棋勝負
    芦屋の実業家との、銀座時代の話

    チャップリン姿の男との将棋、頓死
    神奈川での中学校教師
    教え子の一人はヤクザ、もう一人は神奈川県警警官

    銀座で持ち運んだマグロの肉
    たこ八郎と真鶴の海
    キモがうまいフグ

    相撲取りのタニマチに
    将棋ジャーナルの引き受け

    写真だけだが立川談四、みうらじゅん、5億円かけて新築した自宅

    透析を拒否、そのご方針転換
    食道がんになって放射線治療中

    官能小説が本妻で自伝・エッセイは愛人だそう

  • 面白かった。
    読んですぐレビューを書くべきだった。

    母が購入した本だが、母は作者の若き日の出来事に受けて、爆笑していた。
    私はむしろ、作者の晩年について興味深く読んだ。

    特にこの本は、作者がこれまで雑誌などに執筆して来たエッセイを、少年期~青壮年期、中年~老年期と分けて、エッセイそのものも年代順に掲載しているのだが、さらにはエッセイのタイトルの下に、その当時の作者の年齢が書かれているのだ。

    ネタばれには当たらないと思うので書く。
    例えばこんな具合である。

    第一話 ジャパニーズ・チェス・・・十三歳(昭和二十年)
    第十五話 牛丼屋にて・・・六十二歳(平成五年)

    といった具合である。
    私が第二部を興味深いと思うのは、第二部は第10話~第19話までで、作者41歳~79歳までなのだが、第一部の13歳~36歳までと比較し、第二部は、そのエッセイのうちで作者の考え方がハッキリ変化していっていることが見て取れるからである。

    当たり前のことであるが、作者は13歳の時に13歳の分のエッセイを書いたわけではあるまい。もしかしたら書いた時は36歳だったのかもしれない。

    だからだろう。良い言い方をすれば内容にブレがない。悪い言い方をすれば中身に成長や変化がない。

    けれど第二部は違う。
    おそらくリアルタイムで書かれたろう41歳から79歳までの作者の自画像は、変化に富んでいる。それは人生の下り坂に差し掛かった人の変化である。哀愁というか、加齢臭と言うか、なにか憂いに似たものが少しずつ濃くなって行くのが読者である私に伝わって来る。

    それはちょうど今、高齢者の施設でアルバイトを始めた私が、施設利用者さんたちと触れ合う中で感じている哀愁と感傷を思い起こさせる。

    老齢とはなんだろうか?
    人はどう年を重ねるべきなのか?
    施設で働き始めて、それを考えない日はない。

    団鬼六さんのこのエッセイは、しかし、哀愁を帯びてはいるが、カラッと乾いている。

    「死んでたまるか」

    タイトルにこう力強くアピールしている通り、心地よく乾いている。哀愁はあるが、ウェットではない。それがこの本のすごさ、面白さだ。

    「若いくせに」の私はこの本に大いに励まされた。

  • 吉野家で 飲んで絵になる 人となり

  • 落人型の数学教師、馬豚煮込み、くず屋さん、真剣師、吉野屋・・・特に心に残った二篇は、軍需工場で働いていた中学生の時の、コッペパンや豆粕と共に語られる米軍捕虜とのエピソードと、店に出入りする人々のむき出しの食欲を眺めながら、吉野家で制限本数三本のお銚子をチビリチビリ楽しむひとときの模様。

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著者プロフィール

団 鬼六(だん・おにろく):1931年滋賀県彦根市生まれ。57年、文藝春秋「オール讀物」新人杯に「親子丼」で入選。執筆活動に入り、SM官能小説の第一人者となる。89年に断筆宣言。95年『真剣師 小池重明』で執筆再開。代表作に『花と蛇』『不貞の季節』『美少年』『落日の譜――雁金準一物語』『死んでたまるか――団鬼六自伝エッセイ』『一期は夢よ、ただ狂え』、秘書を務めた長女・黒岩由起子との共著『手術は、しません――父と娘の「ガン闘病」450日』ほか小説・エッセイ・評伝等著書多数。2011年逝去。

「2024年 『大穴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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