空白を満たしなさい

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062180320

感想・レビュー・書評

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  • 空白を満たしなさい

    平野啓一郎

    「決壊」がだだはまりだったよっちんですが「空白を満たしなさい」はかなりオススメであります。平野啓一郎氏の「分人」なる概念がとても衝撃的。
    「決壊」でも幸福ということについて絶望的に考えさせてくれたけれど今作はもっと深く染みこんできた。

    http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110930/222913/?P=1


    「いきなり死んだ人間が生き返ってくる」世界で「生き返ってきた36歳」の男性の物語。
    徹生は「仕事も忙しいが好調、愛する妻がいて、長男が1歳、マイホームも買いたて」=つまり”幸せ”の絶頂。

    ところが徹生は「自殺」していた。復生しても覚えていなかったが…。
    徹生は自殺したのでなく「殺されたのでは?」と思い始める。
    ここに佐伯というゴミ虫登場。
    ゴミ虫と書いたがよっちんはこの佐伯に結構共感できて、自分自身の中に同じ要素を
    見出してすごく嫌な気分になった。
    「夜になると、私の遺伝子たちが、しくしく、しくしく、体中で泣き始めるんですよ。誰でもいいから早くどっかの女の遺伝子と合体させてくれ、こんなところで滅んでしまいたくない、と。」

    「土屋さんは、自分は幸せになるべき人間だって妄執に取り憑かれていましたね。よほど不幸だと感じてたのか。
    結婚して、子供をつくって、家を買って。ー根拠もなくそんなことが、幸せだと思い込んでいましたよ」
    「最後の寄る辺として、家族に縋りつこうにも、その家族を維持するためには、死に物狂いで働くしかない。土屋さんは生きることに殺されたんですよ。しかも幸せに生きることに。」
    「幸福とは、自分の価値観と自分自身が合致している実感」
    「生きることは素晴らしい、というのは生きることが好きな人の言うことですよ。
    そもそも好きじゃない人間には理解しようがない話です。」


    「私だって実際に、生きてみましたよ。ーで、これの何が面白いんですか?私には結局、さっぱりわかりませんでした。もう止めます。ただ気持ち悪いだけなんです」といって佐伯は自殺する。


    「死は傲慢に、人生を染めます。私たちは、自分の人生を彩るための様々なインク壷を持っています。丹念にいろんな色を重ねていきます。たまたま、最後に倒してしまったインク壷の色が、全部を一色に染めてしまう。そんなことは、間違ってます。」




    疲れきった土屋の中には「死にたい」「疲れた」という分人Aと「息子を愛し家庭を守ろう」とし「今を幸せ」と感じている分人Bがいて、BがAを認められないから
    『「Aを消してやろう」として自殺した』というのが自殺の真相。

    『俺はこの幸せのために生きてきたのか。今も生きていて、これからも生き続ける。この幸せのために。・・・・そして、いつかは死ぬ。・・・他に何の望みがある?』
    「あなただって、本音では、人生にがっかりしてるんですよ。あなたのその幸せで、忍び寄る死の恐怖や生きること自体の緊張を、本当に克服できますか?
    誰よりもあなた自身が、そんなこと、信じちゃいないんですよ。だから虚しい。」

    「どんなに幸せであっても疲れる。疲労は披露宴のビールみたいなもんだ」

    自己燃焼の美学主義者のよっちんにはこの「生きる疲労」という考え方が新鮮でした。
    「疲労感だけは疑いようがなかった。生きている感じがしました。
    自分は一度しかない人生をこんなに疲れるまで働いているんだから、決して無為には過ごしていないんだ、と。」

    分人とは
    「一人の人間には、色々な顔がある。つまり、複数の分人を抱えている(1人の人間は、ただ1人の揺るぎない「個人」としてあるのではなく、接する相手に合わせて立ち上がってくる複数の「分人」で成り立っている。)。そのすべてが〈本当の自分〉であり、人間の個性とは、その複数の分人の構成比率のことである。」という考え方。
    分人主義について著者自身が語ったページ。
    https://cakes.mu/posts/1594
    https://cakes.mu/posts/11978

    ついでに平野啓一郎が最新長篇小説『空白を満たしなさい』を語る。
    https://www.youtube.com/watch?v=H8K-nPHardg

    よっちんがAという人には「よっちん」として呼ばれたり
    Bという人には「歩くGoogle」として奴隷扱いされていたり
    Cという人には「JUDY AND MARYの恩ちゃんのコスプレーヤー」として認識されていたり…SNSで表現欲があるのは自分の理解して欲しい分人をだせる場が現実世界にはないからということも冷静に理解できた。

    よっちんが今「満たされていない」と感じているのも自分の欲する「分人」対象がいないからだとわかった。
    年末よりはまっているアドラー心理学と「分人」の理解でもう少し楽に生きれるかも?生きれたらいいね。

  • ⚪︎設定が面白い。死んだ人が何人か生き返る、それもありがちな幽霊やゾンビのような感じではなくちゃんと実体として。死ぬ以前の肉体と記憶を持って完璧な状態で生き返る。この現象について作中言及されることはないが、それがあえて妙に現実感を帯びていて、SF設定なのに違和感なく読める。

    ⚪︎生きる意味、人生の幸福とは、死ぬとはどういうことか、とにかく生と死について考えさせられた。随所での、人生を生きる為のヒント、心を軽くするような名言に心を打たれた。しかもそれは説教臭さなど全く無く登場人物から自然に発せられる言葉だったのでより説得力があった。

    ⚪︎平野啓一郎らしくやはり「分人」がキーワードとなっている。私はこの分人に関しては全く無知で、また平野氏の分人に関する本を読んでいなかっため、ついていけるか分からなかったが登場人物がとても分かりやすく説明してくれたため問題なくついてきた。この「分人」というキーワードに惹かれたため、より理解するために平野氏の他の本を読破してみたいと思う。

  • AB型は二重人格とか言いますが、常々私は二重どころか多重だよなと思っていて、一緒にいる相手によってキャラは変わるし、でも全部本当の私。よくそんな話してました。

    ちょっと違うような気もするけど、分人の話で救われた。死んだ理由がアレならどうやって生きていけばいいんだと絶望しかけたけど、乗り越える考え方を示してくれました。哲学的だけど小説としても面白かった。哲学を学んでいた友人が勧めてくれて、らしいなあと感じ入る。

    空白を満たすのは本当は徹生自身なんだな。最後はちゃんと抱きしめられたと信じている。

  • 分人で生きること。

  • 3年前に自殺で死んだはずの主人公が蘇って普通に生活...
    できない話。
    そもそも自殺するようなこともなかったとになぜ自殺をしたのか、
    3年前に死んだはずだから前職に復帰もできず、どうやって収入を得るのか、
    死亡保険ももらっちゃったのに返せるあてもない、
    など問題が山積みのなか、ストーリーの次の展開にハラハラドキドキ

  • 2015/12/31〜2016/1/8
    文庫版を読む。
    分人という考え方がとても興味深かった。ある意味悲しい終わり方だったかな…。
    子供に対してのメッセージを残しておくのは賛成だし、子供が産まれてすぐに実行した。あれはやっている本人が泣ける。それこそ、その子に対する分人が、気持ちを昂ぶらせているのだろう。
    それにしても、作者に漢字の使い方というのは、本当に使用されるもの?あまり見ない使い方が多くて戸惑ったが、それは俺が本を読んでいないからということなのかもしれない。
    佐伯のことは忘れたいけど、忘れられない…。

  • 久々の平野啓一郎。やはりよかった。

    ある日、死者の一部が死後数年を経て急に蘇る(復生者)という現象が世界各地で起こるようになる。なぜそうなのか、どういうメカニズムなのか、色々と矛盾点は思いつくのだけどそこは一切説明せず、ただ、何年か経ってふと死ぬ直前の場所で気がつく、という形で蘇る。

    復生者の一人である徹生の復活から二度目の死を通して、著者の考える自殺の無意味さがこんこんと説かれる。

    ・死の間際にしたことによって人は最終的な評価をされがちだけどもそれは必ずしも正しくない。それまでの全ての人生が肯定されたり否定されたりするものではない。死に方が立派であれば立派な人生だ、というのは破滅的な思想だ。それが太平洋戦争でもプロパガンダとして用いられた考え方だ。苦しみに満ちた人生が、死に方一つで全てを逆転させられるということはない。

    ・本書で描かれている考え方の中心が分人というもので、これは対人関係の中で現れてくる個々の人格の様々な側面。個々の人間の中には愛すべき分人もいれば、嫌悪すべき分人もいる。自殺は分人のなかで消去したいものを消去しようという試みなのだけど、一部の分人のために全人を犠牲にするのは間違っている。

  • ハードボイルド系なのかなぁと勝手に思い借りたけど 全然違ってた

    自殺した人の心理とか家族愛的な話

    うーん タイプじゃなかったかな ちょっとくどかったかな

  • ある日目覚めると自分の死んだ後の世界だった。

    会社の屋上から落ちて事故死した徹生。
    復生した彼は自分の死の真相と、自分を殺した犯人捜しを始める。

    普通に「蘇り」の話だと思っていたのですが、なかなか読み応えがありました。徹生の死が自殺だと分かってから、毎日が充実していると思ってた彼の心に忍び寄る黒い影が、あまりにもリアルに迫ってくる思いがしました。

    人間は、幸福の絶頂でも死を思うのだ。

    そして後半出てくる「分人」という考え方が新しかったですね。「自分は自分で、一人の人間だ」と思っていても「友人の前の自分」「親の前の自分」「恋人の前の自分」と複数の「分人」が存在するという考え方。とてもしっくり頭になじみました。

    最後徹生は消えてしまったのか。
    分からないですが、彼の足跡は確実に人々の心に残ったと思います。

  • 平野啓一郎さんの小説は、実は以前に、「ドーン」に挑戦したことがあるんですが、こちらは内容が難しくて、途中で挫折したんですけど、それに比べると、「空白を満たしなさい」は読みやすくて、最後まで読めました(平野啓一郎さんは、毎回作風を変えているんですかね?)。

    で、「空白を満たしなさい」は、家族愛を描いた、ミステリー小説といった感じでした。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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