我が名は秀秋

著者 :
  • 講談社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062197397

感想・レビュー・書評

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  • 小早川秀秋をえがいた時代小説。

    秀吉の親戚というだけで、自分を何の役にも立たない存在と思っていた、秀俊少年。
    多感な少年時代の、心の震えがこまやか。

    義兄・秀次、新しい父・小早川隆景との交流も、心あたたまる。

    秀秋の成長が、さわやか。

  • ほほう。そうきたか。
    一般的には愚鈍で優柔不断なイメージの小早川秀秋。
    だって肖像画を見たって、武将とは思えないゆるんだ表情。

    この作品では、幼いころから秀吉の養子になり、立場をわきまえているからこそ周囲の大人の顔色を窺い、決して目立つことなく自分の意志を持たず、与えられた環境を黙って受け入れていた秀秋は、本当の自分を抑えに抑えていたのだという。

    秀吉の正妻ねねの甥である秀秋は、多くいる兄を差し置いて秀吉の養子になり、どんどん引き立てられていった。
    けれども秀吉に実子ができた時、彼はいらない存在として小早川家に養子に出される。
    しかしそこで隆景に本当の自分を見出され、無理に自分の気持ちを抑える必要はないと言われる。

    秀吉は才能のあるものに魅かれ、執着する。
    秀吉の養子に迎えられたという時点で、秀秋は才能にあふれた子であったはず。
    だからこそ、自分を脅かす存在を決して許さなかった秀吉の前で、秀秋は自分の意志を殺さなければならなかった。自分でも気づかないほど深いレベルで。

    隆景に己を見出された秀秋は、隆景こそを父と慕い、人として大きく成長した。
    では、なぜ秀秋は豊臣家を裏切り、小早川家の本家筋である毛利家を裏切り、徳川についたのか。
    それも、東軍西軍どちらにつくのか、最後の最後まではっきりさせなかったのはなぜか。

    読んでいる時、それはとても説得力のある説で、そんな体験をしたならばそう感じるであろうということが、ストレートに伝わってくる。

    しかし、秀秋、本当にそんな出来る男なのか?
    だってあの顔…。
    酒浸りで、暮らしぶりは贅沢だったからねねに多額の借金してたんだよね。
    そういうことが書かれてなくて、新たな説を展開したところで、それは作り物の域を出ないだろう。
    小説だから最初から作り物なんだけど。

    だけど、関ヶ原の合戦で東軍が勝ったのは、まぎれもなく秀秋のおかげ。
    なのにどの資料を見ても、ディスられているのはなぜなのか。
    三成ですら最近は見方が変わってきて、実直で生きるに不器用な男だったなどと言われたりもするのに、秀秋の貶められっぷりは変わらない。
    そこに何かがあるのでは?と思うのは、ある意味自然。
    これからもいろんな説が出てくればいいと思う。

    小説としておもしろく読んだからこそ、最後は蛇足と思った。
    そこは、読者が思う部分だ。

    “関ケ原最大の功労者とも呼べる秀詮の不慮の死。そしてその後の過剰なまでの人格の誹謗。
     秀詮が愚者であることで得をするのは、いったい誰か?
     歴史とは生き残ったものが紡ぐ過去である。”

    秀秋、享年21歳。

  • 雑誌掲載時に全部読んだのですが、加筆修正があると聞いて買い。
    今のところ、どこがそうなのか分からないが、とても楽しみに読んでる状態。

    2023/05/11読了。
    雑誌掲載時との違いは相変わらず分からなかった。

    小早川秀秋がめちゃくちゃ有能に書かれてます。
    特に戦の天才として書かれてる感じです。
    それ故に最終的には疎まれるという、悲しい最期です。
    でも短い人生の中で、確かに彼は「父親」というものに恵まれましたし、自分の才能を知ることが出来た。
    最期に見えた父親、本当に尊敬してたんだな〜と。
    小早川秀秋好きとしてはかなり楽しめました。

    ただひとつ。
    結構、他の人達が愚鈍?に見えるし、あくまで秀秋さん視点だからかなぁとは思うのですが、フォローも何もないのはいいのかなぁ?と思ってしまいました。
    でもそうなると群像劇みたいな感じになるのかな?
    そこだけ。
    ほんとそこだけでした、気になるのは。

    みんなも小早川義親子の熱い親子愛を読みましょう!

  • あの「裏切り者」小早川秀秋を主人公にした小説。珍しいよねえ。
    関ヶ原の陰の主役と言ってもいい秀秋。東軍西軍膠着状態にあった中、西軍方の松尾山に陣取った秀秋が大谷吉継に突っ込んだその裏切りによって西軍の敗北が決定的となり、翌日には石田三成居城佐和山城を陥落せしめた秀秋。刑場においてその裏切りを三成に罵られた秀秋。関ヶ原後2年、わずか21歳で死んだ秀秋。徳川方からも石田方からもどっちからでも悪くしか描かれない秀秋。「真田丸」では悪者としては描かれないがともかく気が弱そう。でも「葵,三代」では感情がよく見えない一方、中立的な描かれ方だったかな。

    そんな誰に聞いても好感持たれない秀秋さんですが、戦国初心者の身としてはもともと疑問があったんですよ。
    例えば、何故こんなやつが秀吉にも見込まれて養子になったのか、その後名将小早川隆景の養子としてどんな生活を送ったのか(いや情けない奴が隆景の養子に成りえたのか?)、何故西軍を裏切ったのか?(一次つなぎとはいえ、三成から関白が保証されていたのに...)、そんなやつだったらその軍勢も弱いんじゃないの?(大谷吉継の軍勢蹴散らすほどだったんだ?)そして,何故21歳で死んだのか??

    この小説は当然主人公ですからね、よく描かれています。才能あったからこそ秀吉に見込まれ、隆景にも見込まれ、そして三成側に与さない最大の理由としては、兄同然だった秀次の死が絡んでいると。

    小説としてはとても面白かったです。
    でもちょっと天才として描きすぎでしょう。
    Wikipediaを見ると、アル中で肝硬変で死んだみたいに書かれているが、それもなんだかなあ。21歳で肝硬変になるアルコールの飲み方って普通は無いでしょう、と思うし。勿論アルコール関連の別な疾患は有りうるが。当時のことだからそれこそ急性膵炎でも起こせば死んだだろうし。
    なので、真実は中間なんでしょう。

    うーん、秀次にしろ秀秋にしろ、よく描かれては困る人たちによる隠された歴史がありそうで、真実がどうなのかわからないところに面白さがあるというか、でも釈然とはしないなあ。

  • 秀吉と隆景に見込まれた天賦の才。
    新たな秀秋像。
    面白かった。

  • 小早川秀秋が主人公の話は初めて読んだけど、思ってる秀秋像と全く違って、面白かった。

  •  あまりに短い人生ゆえ、その真価は評価しがたい。が、心の獣の喩えは、この小説の芯になっていると。

著者プロフィール

1976年福岡県生まれ。2008年『蛇衆』で第21回小説すばる新人賞を受賞。その後、『無頼無頼(ぶらぶら)ッ!』『兇』『勝負(ガチ)!』など、ニューウェーブ時代小説と呼ばれる作品を手がける。また、『戦国BASARA3 伊達政宗の章』『NARUTO-ナルト- シカマル新伝』といった、ゲームやコミックのノベライズ作品も執筆して注目される。’21年から始まった「戦百景」シリーズ(本書を含む)は、第4回細谷正充賞を受賞するなど高い評価を得ている。また’22年に『琉球建国記』で第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。他の著書に『清正を破った男』『生きる故』『我が名は秀秋』『戦始末』『鬼神』『山よ奔(はし)れ』『大ぼら吹きの城』『朝嵐(あさあらし)』『至誠の残滓(ざんし)』『源匣記(げんこうき) 獲生伝(かくしょうでん)』『とんちき 耕書堂青春譜 』『さみだれ』『戦神(いくさがみ)の裔(すえ)』および『THE LEGEND&BUTTERTLY』(ノベライズ)などがある。

「2023年 『戦百景 大坂冬の陣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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