日本人とアイデンティティ: 心理療法家の着想 (講談社+アルファ文庫 F 1-3)
- 講談社 (1995年1月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062560788
感想・レビュー・書評
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日本人に自我がないとよく言われる。それは「場の論理」によって相対的に自分の意見を決定してゆく女性的原理に基づいているからであって、西洋の男性的原理に基づく近代的自我の「個の論理」とは異なるというのが本著の論旨。ユング心理学が注目を集めるのはウーマンリブ時代のフェミニズム思想、女性の社会進出の状況にフロイトやアドラーなどの男性風心理学で対応できなくなってきたことを世界的背景として、80年代の経済摩擦を抱える日本にとってこの自我の質の違いが喫緊の課題となっていたことが当時のユング心理学流行の要因であるらしい。それを解消する概念として劣等感コンプレックスを鍵として提示する。コンプレックスとは部屋のモノが片づけられないまま物置に放り込まれたような状態であるとして、そこに触れることは神経症者にとって直面しがたい現実に向き合うことではあるが、それを放置することは劣等感コンプレックスに潜む優越感や、安易な幸福を助長することになりえるという。すなわち劣等感の根源となった物事に本人が積極的に取り組むようなことがあるとコンプレックスは解消して、優劣に基づかない客観的な自己肯定感を築けるのだという。そのようにコンプレックスを善悪の両義性を備えた相対的な複合体であるとして理解すると、物理的宇宙論を思想としてミクロコスモスに適用しうるし、日本の身心一如が自我の統合概念であるとも説明しうるとする。ユングは「コンプレックスのほうが我々を持つことができる」と語り、夢のなかでコンプレックスが人格を持つことを説明する。その場合のコンプレックスはその人格以上の、神や英雄といった存在を象徴することもある。投影法は臨床家の訓練に役立つが、究極には投影されたものとしての夢の分析が目標となる。ところで「場の論理」が個人的自我に与えた影響として遠藤周作のロドリゴ神父の踏絵の話題に触れている。日本の「土」が神父のなかのキリストを変えたのだという下り(141p)は時代を超えても革新的な論述である。
以上が総論で、後は各論が続く。精神医療現場での様々なトピック。思い出のマーニーやセンダックなど児童文学について。病跡学などの新しい分野について。どの話題も話が抜群におもしろいのではあるが、
不純異性交遊をする少女の話はとりわけおもしろく、世の中には理屈があってダメなことと理屈抜きでダメなことがあると説明するだけでよいとのこと。そのように父親のように権威的に責任をとってくれる存在がいればいいのだという。ただし集団非行となるとそうとはいかないと難しさを認める。別の話題で、このような父性の欠如の問題は絶対的父性のあるキリスト社会ではない日本において解決が難しいと述べている。だが著者の幼少時の体験として、父親が自分自身にサンタクロースのプレゼントを贈って家族にサンタクロースを信じさせたことを挙げて、最大のプレゼントとは夢であると、ユング心理学者らしく見事に本を綴じている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2020年4月28日BunDokuブックフェアで紹介されました!
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個人的に今、河合さんブームなので、まだ読んでなかったこの本を図書館で借りて読んだ。やはり彼の本は面白い。
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私は本屋さんを歩くのが好きです。
なぜなら、本屋さんの書棚を見ているといろいろなことに思いをはせることが出来るから…。
たとえば、落ち込んでいるときには背表紙を眺めているだけで癒されることもあります。
うれしいことがあった日はなぜかhappyなタイトルが目に入ります。
不思議だなぁ~?
そして、先日いまさらながら気づいたことがあります。
「書店の棚は時代を表す」
最近の本棚には、バイブル系が多いことが目につきました。
「~の着こなし」、「こうすれば素敵な~」、「人生を~」エトセトラ.etc...
雑誌の特集で十分なはずのこうしたテーマが書籍として成立している。
実際、ファッションについては「買い物同行」という画期的なサービスも始まっています。
自分のセンスで何かを選ぶことが出来ない人が増えている。
もちろん、様々なプロの目で自分では見えない自分の一面を生かすことはとても大切。
できれば、それは最初の一歩の参考書にしてあとは自分のセンスを信じる、というのも大人の選択なのではないかしら?
そのためには、ひとりひとりが自信を持つこと=アイデンティティーの確立…これが軸になってくる。
今こそ「日本人とアイデンティティー」はお勧めの一冊です。
選べない、決められないあなた…ぜひ、手に取ってみてください。 -
テーマ別に河合隼雄先生の意見が述べられています。
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最初の二章面白かった。
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101001(n 101012)
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わかりにくい。
タマシイの定義があいまい。
現在のの日本人は(かつてはあった)恥を棄てた、には
大いに共感する。 -
河合隼雄さんの本ということで購入。BOOKOFFで105円で販売されていたので。