経済学のエッセンス: 日本経済破局の論理 (講談社+アルファ文庫 G 3-4)
- 講談社 (2004年1月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062568128
作品紹介・あらすじ
「平成大不況」は、なぜ、かくも長く、かくも執拗に続くのだろうか。元凶の一つは、「官僚が金融機関を通じて企業を支配する」という「日本資本主義」だ。経済学の視点から日本経済を眺めれば、その罪は明々白々となる。実は経済学こそが、この不況を克服するための道しるべであるということに、エコノミストも国民も気づいていない。戦後日本経済、バブル崩壊の法則を経済学によって再検証し、1億総エコノミストを実現することが、不況克服への近道だ。
感想・レビュー・書評
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経済学の基本中の基本は<GNP=消費+投資>にあり!
サミュエルソンの愛弟子である小室直樹が、快刀乱麻を断つが如くに、日本経済長期不況の真因を解き明かす。
社会科学全てにわたって、奥義を極めた小室直樹だからこそ書くことのできる入門書。
こうした基礎の基礎を徹底して、手弁当で講義したのが伝説の<小室ゼミ>だった。
我々は、彼の著作によって、幻の<小室ゼミ>に参加出来るのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
①Y=C+I(国民所得=消費+投資)、②C=aY+b(投資=限界消費性向*国民所得+最低消費水準)、①と②の連立方程式を解くこと。もうひとつ③D=S(需要=供給⇒市場均衡条件)。結局この3つの式だけを使って、経済の勘所を説明しています。
「小室節」に慣れないと読み進めにくいところもあるでしょうが、文体に慣れれば非常にわかりやすい。
おどろくのはこの本の元の本が出たのが1992年であること。(文庫として出されたのは2004年)。歴史的に見ればバブルは崩壊していたが、当時まだ、その認識を持っていた人はほとんどおらず、多くのエコノミストは在庫調整不況程度の認識でした。その時点で、その後の不敬状況を予測し、処方箋も提案しているのはさすがでです。
さらに処方箋として示される結論も驚かされるかもしれない。小室直樹といえば、右派のイメージが強く、日本ではいつの間にか右派≒新自由主義、マーケット至上主義となっていたが、小室さんは違います。「ケインズは死なず」「ケインズ政策を強行せよ」と結論づけています。
1992年とは言わない、2004年の時点であっても、この小室氏の主張を政策の中心に据えていたら、失われた10年は10年で終わり、失われた30年になることはなかったのではないか、と思えてきます。
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とてつもない特権階級だけが残った。地主階級であった。
が、この恩恵的関係が、日本独自の雇用関係、すなわち主従的なそれを生むことになった。33
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そのシステムは、高度成長後にはもはや機能しにくくなっていた。
①会社が「共同体」になり切ってしまったから、企業固有の「サブカルチャー」の下に作り上げられた企業色を払拭することが困難になった。
②したがって、会社間の労働移動が困難になった。
③「官僚の銀行支配」→「銀行の企業支配」という「メイン・バンク制」を打破することが困難となった。新しい企業に資金援助することが困難となった。38
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銀行が、何がなんでも稼がなければならなくなった背景には、「金融の自由化」がある。
ここに土地神話ほど幸いなものはない。53
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不況は、「有効需要の不足だけによって説明できる」のである。70
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ケインジアンに取って代わったエコノミストは(…)いわゆマネタリストと呼ばれる人々であった。
換言すれば反ケインズ主義者である。古典派。一言で言えば、資本主義者。いかなる経済でも、進歩すれば結局、資本主義に行き着くのだと信じている。118
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現実は無限に複雑である。かくも複雑な現実をそのまま把握するなんてできっこない。科学は、右の諦観から出発するのです。
模型で考えないで、無限に複雑な現実と素手で格闘したら、二進も三進も行かなくなるに決まっている。暴虎馮河とはこのことだ。まもなく虎に食われてしまうだろう。169
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マルクス経済学の中心テーマは失業論(産業予備軍説)である。
ケインズは、資本主義社会における失業の存在を肯定しただけではない。失業をなくするための方法もまた示した。
マルクスの貧困論も産業予備軍説も否定された。230
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ケインズは死んではいない。現在日本では依然として立派に生きている。
今の日本では、生産力は十分に高く、インフレも入超も起きない。起きそうもない。ケインズ理論の欠点は、インフレ理論がないことにある。
言わば「インフレ」と「入超」こそ、ケインズ政策の鬼門なのである。279
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超GOODな本。
内容が多分野にわたっており、抽象思考と具体思考がミックスされている。
いや~~おもしろすぎる。 -
文体はちょっと鼻につくが、プロフィールを調べてみたら、どうもこの人は天才的な方らしいので、納得した。
ポイントは、経済学の基本はGNP(今ならGDPだろう)だということ。これだけ繰り返し繰り返し説明されると、さすがに重要性はわかってきた様な気がする。
GNPは消費+貯蓄(=投資)で、消費を増やそうと叫んでも簡単には増えないので、政策として有効なのは投資を増やすこと。投資を増やせば有効需要が増えるというケインズ理論に結びつく。なるほど。 -
経済の勉強はGNPにはじまりGNPに終わる
消費な政策の対象に非ず。
GNP=消費+投資
GNPの大きさは有効需要の大きさによって決まる
有効需要=投資+消費
投資とは生産材の購入。消費とは消費財の購入。財にはもうひとつあって自由材がある。これは空気とか。また株への投資という投資と経済学でいう投資は別もの。
古典派理論
市場機構の自由な作動(神の見えざる手)に対する予定説的信頼をもち、楽観的に信じる。
自由放任(レッセフェール)という結論。
弱点は失業問題。古典派には失業の章をもたなかった。
なぜならセーの法則を信じていたから。セーの法則とは供給は需要を作り出す。需要が供給を作るのではない。よって売れ残りはありえない。労働市場も同様。なぜ失業があるか?労働組合が賃金の値下げに抵抗するので、労働市場の調整がなされないから。
ケインズ派
第二次大戦前のドイツは有効需要の法則を理解し、政府投資によって需要を創出し失業問題を解決した。
Y=C+I Y=国民清算、有効需要 C:消費 I:投資
Y=C+I
C=aY+b
a:限界消費性向
b:最低消費水準
景気→所得→消費→景気→所得・・・ の循環論。景気が悪くなるのは消費がないからか?景気がわるくなるから所得がへるのか?どっからはじまるのか?
循環論になる。
ワルラスによる解決(連立方程式として解いた)
Y=C+I
C=aY+b
YとCの間の因果関係は一方が他方を決める線形因果関係ではなく、連関の中で相互に同時に決め合う因果関係。こういう因果関係を同時因果関係と呼ぶ。同時因果関係の変数は連立方程式によって解かれる234
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経済学の基本的な考え方を書いている 経済の基本はやはり理論経済学にある
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リズム感が最高。
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経済なんて学問足りえるのか?すべて机上の空論ではないのか?と思っていたじぶんであるが本著は立派な学問であることを気づかせてくれる。古典物理学の基本原理 F=ma を発見したのがニュートンであれば、経済学の基本原理 Y=C+I を発見したのがケインズである。著者はケインズ政策こそが景気を回復させる唯一の方法であると結論づけるがその真相は経済学超初心者の自分にはわからない。いま日本は改革へと邁進する古典派(新自由主義)の考えに戻りつつある。果たして日本経済を破局から救うのは新自由主義かケインズ政策かはたまた第三の道か本著だけでは判断できない。(2006/4/27読了)
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ほぼゼロから経済の独習をしようとするなら、本書を措いて他には無い。本書のテーマはGNP=投資+消費に尽きるのである。(GNPをGDPに置き換えても、本質的には変わらない)
■この基本式から、小室直樹の独演は、ナチスの経済政策からナチスに対する「大衆」の支持、ヒットラーの独裁の構造、そして、当時のドイツ中央銀行のシャハト博士の敢行したドイツ・レンテンマルクの導入によるハイパーインフレの収束などまで、十全に行われる。
■ケインズの天才を簡潔に紹介。手際のよさと簡潔なる説明。GNP=投資+消費の使い方が、理解できれば、財政再建のための増税は経済の回復にとって逆効果なのかが判る。不況は投資不足と消費不足から起きる。よってGNPが落ちることになる。財政支出が、その不足を補う働きをして、GDPが回復し、GDPに対する名目的に決まった税率によって、税収が増える。それを政府当局(日銀と政府)は、政策実行すべきであって、財政支出の削減は、GDPの下降を齎し、政府の意図である財政再建は遠のくことになる。GNP=投資+消費の使い方は、こういった使い方が本旨である。
■合成の誤謬(個人的には「正当」な合理的経済的行為であっても、全体としてみると不都合が生じてしまう間違いのあり方)の解説がいささか物足りなく、デフレ不況の静かなる不況の恐ろしさにも言及してもらいたかったが、そこまで望むのは過剰な望みなのだろうか。
■基本的にGNP=投資+消費の発見がケインズの「天才」なのだろう。森永卓郎氏の「需要」を重視する学者の一人が、ケインズである。それに対する「供給」を重視する学者は竹中平蔵氏など多くの日本の経済学者が、残念ながらこちらに属している。デフレの脱却は、ケインズ政策では不可能であると現代の経済学者は考えている。財政政策より金融政策によるマネーサプライの増大が、米国の1929からのデフレ不況の克服に効果的であったとの歴史的報告が、経済学者の岩田規久男氏を中心になされている。また、田中秀臣氏を中心に積極的な論戦が、「リフレ」策の援用によって執り行われており、米国もバーナンキがFRBの議長になったように「リフレ」派が世界の経済の中心を占めつつあるような状況である。
■デフレの脱却は、小室直樹の「経済学」では、障害が大きすぎるのである。この点で、評価が落ちるが、簡潔な展開と経済の「おいしいところ」の紹介と醍醐味の原点はここにある。小室氏の意図は、「一億総ケインズ学派」であるのだろうから、この点で本書がそれを実現きる資格は持っているだろう。後は、それが伝えられることが残されているのだが・・・・。