中国「反日」の源流 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062584906

作品紹介・あらすじ

たんに「愛国」ということなら、日本人の多くも異存はない。日本にもナショナリズムはある。いわばおたがいさまのものである。自尊の意識なのだから、それがある程度の排外をともなうのも、常識の範囲内であろう。しかし中国の場合、現代日本人がわからないのは、まず日本がその排外の対象となり、それがいっこうに改まらないことにある。「愛国」が「反日」とイコールでむすびつき続ける中国人の心情と思考が、不可解かつ不気味なのである。倭寇の時代から現代まで歴史が明かす「反日」の本質。

感想・レビュー・書評

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  • 2011年刊。著者は京都府立大学文学部准教授。


     タイトルだけを見ると、内容を誤解・誤導しかねない書である。
     なるほど本書執筆は2005年の「反日暴動」を契機としているようだが、それは、社会構造とその差が、社会制度・政治権力の差を生み、さらに対外姿勢の齟齬を導く。その夫々が相互の理解不足・イメージの歪曲や誤解を齎し、対立を重ね、何れは破局へ…、という懸念に基づいている。
     そもそもこれは歴史的事実ではなく、情緒と印象のレベルに止まるにすぎない。
     ところが、かようなイデオロギーに彩られた相互認識(相互誤認)が、民衆一般のみならず、政治家・官僚、さらに立派な知識人にも及んでいる。

     著者は、かような現状認知を危ういものと真摯に捉え、好悪の感情を越えた歴史的事実の認識の構築に誠実に取り組むことを歴史研究者のあり方と捉えている。その結果生まれた本書は、タイトルから伺える「反日」「嫌中」本とは一線を画しているのだ。


     詳細は、本書を紐解いてもらいたいが、まず、社会制度と経済システムにおいて、明朝の頃から大きく道を違えてきた日中(一国閉鎖完結型経済の日本。多様な物産輸出が可能だった清朝は、国土広大と人口多の社会統治を、民衆とは離隔した立場で展開)は、西欧の衝撃への取組みでも異質であったことを前提とする。
     そして、「倭寇」のイメージと、これに豊臣秀吉の朝鮮出兵・対明戦争のイメージを被せ、このような全体認識を踏まえた対日観を、大陸では清朝期以降、ずっと底流に保有しているという見方を提示する。つまり中国共産党の近々の政策的煽動に「反日世論」の原因を求める考えとは一線を画しているのだ。


     ただ、本書の主テーマは、実は反日の源流への回答ではない。
     つまり、近世から近代(=江戸期から日清戦争の頃。特に江戸期・清朝)における、日中の社会制度・経済システム、そして権力機構とこれら相互連関が生み出した両国の差異を比較・対照し、特に中国のそれを開陳しようと試みる書と言える。

     著者は「近代中国史」という新書を著しているが、これを読破した時と同様、非常に刺激的な読後感であった。
     そもそも両国の社会・経済システムの比較。それが帰結する両国の近代への道程の異同を克明に検討した書はさほど多くはない。しかも、歴史研究者らしく、きちんと先行研究に拠りつつも、そこでは触れられていない視点や事実を多く開陳することで説得力を増加させているのは、本書の買いの部分であろう。

     ただし、民衆と権力機構の離隔が中国(清朝以降、現代までか?)の特徴と言いつつ、権力機構の反日視点の発生要因のみを言及し、それが権力から離隔した民衆に波及した理由や要因についての言及は余り多くない。

     まぁ、この点が、本書をして、中国の、特に中国民衆の反日発生の要因論ではなく、近世~近代の日中の社会・経済制度比較。あるいは権力の特徴に関する日中比較・検討をした書と考える所以なのだが…。

  • 近代中国史に関心があり、図書館で借りる。2週間で読みきれず、一回延長。中国における反日について、なぜを掘り返し、逆から説明したような本。似て非なる状況でありながら、経済的のみの関係から、政治的のみの関係になり、ゆくゆく経済的に密接、かつ、政治的に反発する現在に至る歴史経緯をたどる。共産党に関する記載はほぼ無いので、反日の拠り所は分かりながら、いま、なぜ、ここまでは分からないと感じた。教訓としては、他人に敬意を払わないと、いずれ争いになるということ。

  • 中国の反日の状況を現在を見るのではなく、過去から俯瞰してどうしてそういう思想が生まれてしまったのかを記載しています。世界史を学校で学びますが、ある意味「勝者の歴史」であって、普遍的にまんべんなく学んでいて無味乾燥としたものになりがちです。
    この本のように、「特定の意図」をもって歴史を俯瞰してみると、今までとはまた違ったところが見えてきてとても面白いものです。「反日」というのはこうして作られてしまったのか。と、納得できる内容でもありました。

  • タイトルだけ見ると時流に乗った中身のない本のようだけれど、著​者名を見て手に取った。内容はタイトルから受けるイメージとはか​なり違い、前半は近世日中社会経済史、後半は近代日中関係史。高​校レベルの世界史の知識がベースなので読みやすい。「反日」の原​点を日中戦争やら江沢民の愛国教育やらに安易に帰着させず、19​世紀末、更には明代まで遡っている。

  • あまり反日の心理的な理由づけはなかったが、清・明時代からの中国の成り立ちは非常に興味深い。貨幣制度と収支相殺がないのはそりゃ非効率だ

  • 36 3/2-4/21

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著者プロフィール

1965年、京都市に生まれる。現在、京都府立大学文学部教授。著書、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞)、『中国経済史』(編著、名古屋大学出版会、2013年)、『出使日記の時代』(共著、名古屋大学出版会、2014年)、『宗主権の世界史』(編著、名古屋大学出版会、2014年)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、2017年、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)ほか

「2021年 『交隣と東アジア 近世から近代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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