「三国志」の政治と思想 史実の英雄たち (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062585323

作品紹介・あらすじ

曹操の革新性の本質、諸葛亮と劉備の緊張関係、孫呉の盛衰の基底にある力学-史実の三国時代は、権力確立を希求する君主たちと、儒教的思想と文化、名声を力とする「名士」がせめぎ合う、緊迫した政治空間であった。中国史上の大転換点として、史実の三国時代を当代の第一人者が描ききる、これぞ、三国志研究の決定版。

感想・レビュー・書評

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  •  小学六年生の頃に『三国志』と出合ってから、今日までそのイメージは常に変わり続けてきました。

     横山光輝のマンガ、吉川英治の小説は『三国志演義』が元になっています(村上知行訳の『三国志演義』も読みました)。
     が、読んでいてどうにも腑に落ちない話が色々あるわけです。例えば、董卓の暗殺に失敗し、洛陽から落ち延びる際に曹操に従い、すぐいなくなった陳宮だったり、荀彧の自害だったり。その行動原理がわからず、納得がいかなかったのです。

     これらの疑問に、主に史実を踏まえて答えてくれ、『演義』のイメージを変えてくれたのは以下の本でした。

    ・高島俊男『三国志きらめく群像』
    ・満田剛『三国志 正史と小説の狭間』
    ・王欣太『蒼天航路』
    ・渡邉義浩『図解雑学 三国志』

     上から3つに関してはブログで書きましたので、そちらをご参照下さい。
     http://tomiya-sangendo.blogspot.jp/2011/05/blog-post.html

     本書は、著者の「名士」論でもって三国時代を再構成する本で、『図解雑学 三国志』で触れられていた内容を更に突っ込んで書かれた本とも言えます。
     僕は、渡邉先生の本ではじめて高島俊男『三国志きらめく群像』で言ってた「当時、人材を得るというのは、当該個人を得るのではなく、その一族の支持を得るということ」の意味がわかりました。

     名士と呼ばれる人たちは、自分たちの相互的な人物評価システムを構築し、君主から自律した立場にあったそうで、当時は君主vs「名士」層のせめぎ合いがどの権力の中にも見られたそうなのです。
     この視点から説明されて初めてわかったのが、先ほどの陳宮が曹操を離れ、後に呂布に仕えて曹操と敵対した理由です。『演義』の小説だと途中で姿を消し、しばらくしていきなり呂布の参謀として再登場し、曹操の留守の本拠地を陥れており、唐突にも程があります。が、陳宮が曹操に仕える名士の一人だったけど、徐州大虐殺に反対して見限り、呂布を引き込んで謀反したという説明ではじめて納得できました。

     本書で一番の「目から鱗」ポイントは、劉備と諸葛亮の関係性です。
     諸葛亮が徐州の有力者の家系というのは知ってましたが、名士論を前提とすると、流浪の武装軍団・劉備一派に諸葛亮が加わることによる転換点がよりハッキリします。それだけでなく、三顧の礼の時点から劉備(君主)と諸葛亮(名士)のせめぎ合いは始まっており、有名な「水魚の交わり」もその意味が全く変わってきます。
     『演義』のイメージにあるような、劉備が諸葛亮を天才軍師として最も信頼していたような関係性はなく、諸葛亮が蜀において文武百官の主席に就くのは劉備のお気に入りである法正が死んでからのことです。
     いくつか断片的に知っていたこともありましたが、君主vs名士のせめぎ合いという視点から整理された本書を読むことで、それらが全て一気につながり、今まで知っていた蜀の見え方ががらりと変わりました。

     本書は、三国時代全般について、名士論を軸に政治・文化全てを概観していきます。だから蜀の話以外にもご紹介したいところが山ほどあるのですが、それは是非本書をお読みになってご確認いただきたいです。
     正直、演義だけの人がいきなり読むのは厳しい部分もありますので、先に上記の4冊を読んでから本書を読まれることをオススメしますが、三国志好きであればあるほど、今まで好きだった三国志のイメージがガラッと変わること請け合いです。いや、もう『演義』には戻れそうにないです、僕。

    • apple-pie87さん
      私も三国志は20冊ほどだったか漫画から入りましたが、こんなに疑問などは持たずに、へーそうなんだと読み流してしまいました。

      次回読むとき...
      私も三国志は20冊ほどだったか漫画から入りましたが、こんなに疑問などは持たずに、へーそうなんだと読み流してしまいました。

      次回読むときは、この意見を参考にして
      突っ込んで呼んでみたいと思います
      ヾ(●⌒∇⌒●)ノ
      2012/06/20
    • dabensyaさん
      高島俊男『三国志きらめく群像』、私も好きでした(読んだのはタイトルが「三国志人物縦横談」だった頃でしたが)。

      この「「三国志」の政治と思想...
      高島俊男『三国志きらめく群像』、私も好きでした(読んだのはタイトルが「三国志人物縦横談」だった頃でしたが)。

      この「「三国志」の政治と思想」で描かれる人物像では、「醒めた孫皓」が興味深いです。彼を主人公にした小説なんか面白そうですね。
      2012/07/07
  • 三国志を名士の存在から読みとく。名士の影響力をうまく活用させた曹操の卓見、名士に暴君の烙印を押された孫酷など。

  • 正史のほうから見た三国志。「演義」をフィクションと切り捨てるのでなく、楽しく見るために正史も読もうよ、という気持ちになる本。

  • ★2012年8月8日読了『「三国志」の政治と思想 史実の英雄たち』渡邉 義浩 著 評価B+
    現在、中国で放送されたテレビドラマの三国志Three KingdomsのDVDを借りて、見ているのですが、その物語の背景を知るには絶好の著書。
    後漢儒教国家の崩壊から両晋南北朝の貴族制が現れるまでのいわゆる群雄割拠の時代をいかに捉えるかに焦点が置かれている。キーワードは、名士。広大な土地、または強力な武力を所有する豪族ではなく、国を立ち上げた曹操、劉備、孫権達英雄でもなく、それぞれの土地で、知識階級に強力な支持基盤を持つ名士達が、国、政治、文化のあり方に大きく影響していたという説が説かれる。
    これらの背景を仕入れてから、三国志を読む、または見るとより一層理解が深まるお勧めの書です。

  • 「水魚の交わり」は劉備と諸葛亮の厳しい緊張関係である。歴史としての三国志を徹底的に描く決定版。
    曹操の革新性の本質、諸葛亮と劉備の緊張関係、孫呉の盛衰の基底にある力学。史実の三国時代は、権力確立を希求する君主たちと、儒教的思想と文化、名声を力とする「名士」がせめぎ合う、緊迫した政治空間であった。中国史上の大転換点として、史実の三国時代を当代の第一人者が描ききる、これぞ、三国志研究の決定版。
    ・黄巾の乱と群雄割拠
    ・曹操と荀彧
    ・文学の宣揚
    ・孫呉政権と揚州名士
    ・劉備と諸葛亮
    ・君主と文化
    ・孫呉政権の崩壊
    ・魏晉革命と天下統一
    ・中国史上における三国時代の位置

    「名士論」で一世を風靡した著者が、黄巾の乱から西晉の成立までを論じている。氏の著作で「名士論」を読んだとき、膝を叩きなるような爽快感があったが、本書もなかなか面白い内容である。氏の著作をアマゾンの書評などを読むと批判もあるが、自分には善し悪しを評価は出来ない。。(日本史と比べて難しいのは、他論に容易にアクセス出来ない点にある。本場の中国では、どのような考え方なのであろうか)

    本書を読んで、諸葛亮の軍事的能力をやや見直した。国家成立の目的を考えると、北伐を行わないという選択肢はありえず、与えられた条件のなかで、最善を尽くしたという評価には納得させられた。
     
    光栄のゲーム以来のファンとしては、十分に楽しめる内容である。
    自著(研究書)からの引用が多いのに違和感を感じたが、研究書をもとに一般書を書いたという位置付けなのだろうか。

    あとがきに、恩師とのやりとりが描かれている。
    「○○だと思うのです」と報告すると、
    「史料はあるのか。証明できるのか」と怖い顔で聞かれる。
    「○○かと思います」と自信無く言うと、
    「思うのは思想の自由だ。歴史研究は実証できるか否かだ」と怒られる。
    とある、胸にしみいるやり取りである。

  •  同著者の研究書『三国政権の構造と「名士」』からのプラスアルファを期待して読んだ。
     1~8章は上書をほぼなぞったものでがっかりしかけたけど、第9章「魏晋革命と天下統一」は読んでいない内容だったので良かった(この箇所も別の研究書が土台になっているようだが)。

  • 分析概念としての名士層を軸として、三国時代の政治と思想の展開が描かれる。終章では研究史の整理もされており、今まで知らなかった角度から三国志を見ることができて面白かった。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    三国志を少し詳しく知ろうとすると登場する「名士」という存在が三国志の時代においてどのような役割でどのような影響を及ぼしていたのかが解説されている。
    私の中では「名士」といえば荀?が自分の名士ネットワークを駆使し、曹操に多くの名士を紹介し、その名刺が魏の発展に重要な役割を果たしたということ、劉備は諸葛亮を仲間にするまで名士を有効に活用することができずに燻ったということ、孫権が名士という存在と対立し、君主権力の確立のために対立していたということを知ることができた。
    「名士」は三国志においてはあまり表には出てこないけど、切っても切り離せない存在だったということがよく理解できた。そして「名士」が儒教の影響を強く受けていたことが中国で儒教が影響力を持ち得た理由なのだと理解できた。

  • 地域史

  • 「名士」と言われる人たちを中心に、三国志を分析した書籍
    名士との協力、対立が時代の流れを作っていったという説明はとても明快でわかりやすい。
    荀彧がなぜ曹操について、後に憂死に追い込まれたか、の説明はとりあえず納得がいった。
    が、この本の内容を鵜呑みにするのは危険だとも思う。

    巻末の附表が何気にすごい。
    でも正史の知識しかない自分には、どこから来てる数字(初従年等)かわからないところもある。

    この本でわかった気になったりしないで、もっと勉強していきたい。

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著者プロフィール

早稲田大学教授

「2018年 『中国時代劇で学ぶ中国の歴史 2019年版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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