- Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062638296
感想・レビュー・書評
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一筋縄ではいかない作品を多数発表している山口雅也の短編集。
“密室”というキーワードを軸に、凝った構造で
奇妙な精神世界を描き出す『密室症候群』。
“笑い”に関わる仕事に携わる二人の男がたどった
数奇で馬鹿馬鹿しい運命の話『禍なるかな、いま笑う死者よ』。
やや下品ではあるが、心理の盲点を突いた仕掛けが巧妙で、
表題がうまく利いている『いいニュース、悪いニュース』。
人が音楽を聴いて感動する理由とは、という話から、
意外なテーマへと飛躍する『音のかたち』。
本格ミステリの定番パターンどおりだったはずの解決シーンから
連続して発生するスラップスティックな展開が愉快だが
最後に少しハッとさせられる『解決ドミノ倒し』。
テレビの公開捜査番組についての描写が進んでいくにつれ、
読者は不安を募らせていくが――『「あなたが目撃者です」』。
偉大な詩人であり、探偵小説の祖でもあるポーへの
オマージュに満ちた小喜劇『「私が犯人だ」』。
SPレコード蒐集に情熱を傾ける老人が
その情熱のあまり迎えることになる結末とは――『蒐集の鬼』。
終末の風景を、ヴィヴィッドな視覚イメージを喚起する
巧みな文章で描く『《世界劇場》の鼓動』。
奇妙なお茶会に集まった三人の男女が
「意識」や「<私>とは何か」といった哲学的テーマについて
議論した末に導き出される驚愕の結論――『不在のお茶会』。
多彩で多様な作品が集められた短編集だったが、
そのどれもが非常に洗練度が高く、
かつ切れ味が鋭いので、かなりの満足感を感じさせる一冊。
奇妙な味の作品もあれば、笑いが止まらない作品もあるし、
ミステリらしいトリックが鮮やかな作品もあったが、
そのどれもが“正統派”からは微妙に外れており、
その絶妙の距離感とスタンスが最高にクールだと思う。
今では、このようなタイプの作品も増えたとは思うが、
1994年当時、ここに収められた作品は
きっとどれも最先端だったのだろうと想像する。
また、多様な作品が収められた短編集でありながら、
収録作品には不思議な一貫性が感じられる、
というのも特筆すべき点だろう。
これは、どの収録作品にも、「ミステリー」という言葉が
それぞれの形で関わっているからで、
その作品ごとに「ミステリー」の意味合いは違っているが、
しかしやはりどの作品も「ミステリー」を扱っている、
という点で確かな共通点があるのだ。
だからこの作品群は、「ミステリーズ」という
絶妙のタイトルのもとでこそ、不思議な一貫性を持つ。
そう、個々の作品が素晴らしいばかりでなく、
この作品は、短編集としても非常に完成度が高いのである。
ここまで刺激的な短編集には初めて出会った。
マニアックな良さなのだろうとは思うが、
この飛びっぷりがたまらないのだ。
また、素晴らしい作家に出会えた、という気分である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は「このミス'95」で1位獲得した傑作短編集です。頭がこんがらがる奇想天外な展開が楽しめます。作風はチェスタトンのブラウン神父シリーズ風、言葉遊びは土屋賢二風かな。隙間時間や待ち時間に携行すると重宝します。
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いつまでも忘れない印象的なミステリー。
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まとまりがない、短編ならもっと短くて良いかな
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趣向を凝らした短編集としてはどの作品も読み応えがあり、特に「不在のお茶会」は哲学的に『私』を論考するにあたって最良のメタミステリーかもしれない。謎、わからないものとしての「ミステリー」を解き明かしていく過程で、ページをめくる指はなかなか止まらない。
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5
CDを模した構成に強烈な共感を覚える。と言うのも、私も自分の創作物を並べる際に、同様のことをするからだ。
オープニングトラックはコレ、2番目はヘヴィなヤツ、3番目はキャッチーなコイツ、インストゥルメンタルはこの位置、これはバラードだから後ろから2番目、いや3番目かな、終わりにアウトロも付けよう、先行シングル(ダイレクトメール)はコレね、とかなんとか。
さらにかつては家族や知人が呆れるほどのCDやらなんやらのコレクターだった。音楽好きで、オーディオ好きで、蒐集家で、表現者で、ミステリ好き。登場人物に我が身を重ねる。
「蒐集の鬼」のマッケリー氏は私だ。“人知れず埋もれている宝物を掘り出して、安価で手に入れるコレクト道の醍醐味”、わかっている、ただの自己満足なんだ、“だん商”が210円なら買うしかないじゃないか…。
「不在のお茶会」の三月生まれの作家は私だ。“それはお前が、読まれるものをどんどん書かなかったからいけないのだ”、ぐはっ、や、やめてくれぇ…。
本作には色々と身につまされる話が多く、心が痛い。読み終えたばかりの今、軽く落ち込んでいる。良くも悪くもシンパシー全開。 -
豪華
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非常に実験的で、ミステリなのかと首を捻りたくなるものも多々。そういうものとして読めば、「不在のお茶会」などおもしろい。だけど、求めるものとは違っていたので、この評価で。