- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062731669
感想・レビュー・書評
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国家間の戦略や陰謀がひしめく壮大なスケール感に、ああ、福井晴敏を読んでいるのだなと思う。軍事戦闘用語等理解できない言葉は数多あるのだが、それを頭の片隅におかせながら臨場感を誘う筆力は流石である。人は、壮大な複雑な政治戦略の歯車に呑み込まれ、一つでしかなくなりながら、歯車を形作るもの、歯車の動きを変化させるものでもあるのだ。利害欲望や自己保身によって形骸化された組織をあらゆる場面で糾弾しながらも、人の心の真実や叫び、愛に生きてしまうロマンチシズムに心動かされずにはいられない。
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大沢在昌のあとがきに拍手を送る形で自分の感想の全てにさせていただきたい。
前作「川の深さは」に抱いた感動にはやや劣るものの、それは前作を読んだ人間にとっては、ということであるということ。
本当その通りだった。前作の主人公たち、桃山、保、葵、涼子、少年漫画かと思うほどのどストレートな設定のキャラクターたちに魅せられたのはつい数週間前で、やはり彼らに比べると今作の主人公たち、平、護、東馬、理沙、夏生、などはインパクトにはやや欠けた。
誤解を恐れずにそうは言ってはみたが、それでもやはり今作は今作で抜群に面白かった。前作には無い人間味が至る所にあって、あとラストは前作とは異なる希望と読者の想像への委ねがあって。話は確かに決して穏やかではないのだけれど、前作の読了後のような激しい胸のざわめきは無かった。
大沢在昌が前作で惜しくも敗れた「川の深さは」に「来年こそ待つ」と、異例のコメントをし、そして迎えた今作「Twelve.Y.O」は福井晴敏がその声に応えて打ち返した作品である。一応募者に、選考委員が過度ともいえる期待をして、過度ともいえる入れ込み方は、公平ではないという人もいるかもしれないけれど、それは読めば分かる。正にぐうの音も出ないはず。 -
亡国のイージス、終戦のローレライを読んで江戸川乱歩賞受賞作と表紙にあったので期待しすぎたのかもしれません。20年前にコンピューターウィルスを題材にしたのは先見の明があったと思いますが専門用語はいいとして、表現がまわりくどすぎるのとカッコいい表現の羅列が鼻につくので読み進むのがつらかったです。後半の二転三転どんでん返しも話がぼやけてしまったのではないかと思います。
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元自衛隊の非公式特殊部隊、空挺旅団のヘリパイ平は、訓練中の事故をきっかけに飛行恐怖症に陥り、地連に左遷され、燻った日常を過ごしていた。
しかし、かつての上官、東馬との昂然の再会により、平は大国を巻き込む巨大な陰謀に巻き込まれてい行く。 -
福井晴敏のデビュー作品とのことだが、ベテラン作家が描いたかのように壮大な物語が繰り広げられる。その後の作品でもあるようにアクションシーンが非常に細かく描かれていて、そのまま映画のシーンが思い浮かぶような描写が続く。日本はアメリカの属国になり下がるのではなく、きちんと自立しないといけないという論を展開しているようであり、それは多分この作者の他の作品でも同じことを述べているのだろう。
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冒頭のシーンは緊張感がありワクワクした。
これからどんな物語が始まるのかと、期待は膨らんだ。
でも、中盤以降になってくると少しずつ期待値が下がっていった。
スピード感もありスケールも大きい。
ただ、わけありげな人物ばかりが次々と登場し、しかも裏事情は誰かの説明によって語られてしまう。
実際にはありえない設定をいかにリアルに感じさせるか。
もっとキャラクターのひとりひとりを掘り下げ、活き活きと動かしてほしかった。
ただ「闘う」ことに対する揺るぎない信念はストレートに伝わってきた。
「闘う」意味、何のために、誰のために、戦うのか。
そして物語の作者である福井さんにも確固たる信念があるように感じた。
他の福井さんの作品を読んでからの「Twelve Y.O.」だったせいか、いまひとつ満足度は低く残念だった。 -
自衛隊だとか、ヘリコプターだとか専門用語が詳しくたくさん出て来て正直そこは頭に入って行きませんでしたが、
急に事態が変わったりストーリというか福井さんの文章の書き方は好きです。
「川の深さは」もおもしろいのかな -
さらっと読んでしまうと面白くない、わけがわからない。じっくり読むと、面白いな~。あまり評価されないのがもったいない。
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「川の深さは」に超絶感動して読んでみた2冊目。期待にたがわずこれもおもしろかった。類型的といってしまえばそのとおりで、登場人物がよく似ている。落ちこぼれかけた中年の主人公平貫太郎は桃山そっくりだし、護と理沙は保と葵を彷彿とさせる。仮想的な設定や、個と組織との戦いという筋書きもあらっぽくいえば似たようなものだ。ハッピーエンドとはいえない破滅的な最期にもかかわらず、意外と読後感が爽やかなのも似ている。
ただ、完成度とか得られる感動とかを比べると、大方の書評に書かれているように、「川の深さは」が数段上なのは間違いないだろう。でも、だからといって本作がつまらないとか劣っているということはないと思う。似すぎているだけに変わりばえしないというか、評価的に損をしているが、単独に読めば十分面白いし感動できる。前作にもまして荒唐無稽な設定。だけど、護衛艦の甲板からヘリが飛び上った時、ぼくは心底感動で震えた。よっしゃあ、やったろうやないか!
これがおそらくこの人の作風なのだろう。今がどんなに不遇で落ちぶれていても、心の奥底にある熱い火はけっして消えていない。いや絶対に消してはならない。人間としていかに生きるか。真に生きるに値する人生とは。それを痛烈に問いかけられる。そう、まるで藤原伊織の小説のように。