歩兵の本領 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739894

作品紹介・あらすじ

名誉も誇りもない、そして戦闘を前提としていない、世界一奇妙な軍隊・自衛隊。世間が高度成長で浮かれ、就職の心配など無用の時代に、志願して自衛官になった若者たちがいた。軍人としての立場を全うし、男子の本懐を遂げようと生きる彼らを活写した、著者自らの体験を綴る涙と笑いの青春グラフィティ。

感想・レビュー・書評

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  • 1970年頃の東京を舞台とした陸上自衛隊(市ヶ谷駐屯地)がテーマの中編9編が収録。それらの初出時は99~00年頃、01年刊行、04年文庫化。
    収録されている作品の時代背景となった時期は、令和となった今となっては、もはや半世紀以上も前で、読者の年代によっては、時代小説さながらの感慨があるかもしれない。初出時からも四半世紀近く経ち、その間だけでも、日本のみならず世界も驚くほどに変わってしまった。もちろん、この四半世紀近い間だけでも、この作品のテーマとなった自衛隊(陸海空いずれも)、その自衛隊の動静を大きく左右する政治情勢も、そうしたものを取り巻く様々な動きも、大きく変わってしまった。
    とりわけ、昨今では、日本が近い将来、再び戦火にまみえる可能性や、他国のそうした動きに多大な影響を受ける可能性が示唆されてもいる。また、そうしたことに対する懸念を抱く人たちも著しい。そうした時代にこそ、まだ先の大戦の際に、最前線に立っていた人たちが先頭に立っていた時代に日本という国の自衛隊がどのような状況の中にあったのかを彷彿とさせられるこの作品を読むことは、極めて意味の大きなことであると考える。ただし、令和のこの時代とは、あまりに時代背景の差異が開きすぎているので、読む人の年代によっては、理解が容易ではないかもしれない。

  • これは、兵隊の話!士官ではない。鉄拳制裁は、表向き、真は世渡り下手の苦労人たちなんだよ。そんな彼らが自衛隊と言う柵のなかで織りなす物語。

  • 古き良き時代(?)の陸自営内でのお話し
    へー、そうなんだとか大変でしたね
    などのトリビア的話題が豊富

  • 変わりゆく時代の中で、反動と言われようが偏屈者と呼ばれらようが、かつて、軍人であった矜りを捨ててはならなかった。銃も剣も国に返したが、返納してならぬ歩兵の本領を、おいても尽きぬ背骨に、私はしっかりと刻みつけていた

    しかしながら、変わり、ゆく時代に逆行するように、変わらぬ何かがあるはずだ。本作は、歩兵の本領ならぬ、まさしく作家の本領を見せつけた作品と言えるだろう
    よくも悪しくも古き良き時代の自衛隊は終焉を告げた。いよいよ次の時代に突入したわけだが、この作品に描かれていた頃の自衛隊が、実は1番良い時だったなと言うようなことにならないようにしたいものだ

  • 背表紙を見て終戦の月に読む本にピッタリだと思って手に取ったけれど、任期制陸上自衛官のお話だったんですね。今でいう3Kに安月給、それに加えて国民からは存在すら認められず尊敬も得られない悲しくなるような国防の仕事・・・。それぞれの訳あり理由により入隊した若者たちが織りなすミリタリー青春ドラマ。ちょっぴり切なくて最後にほっこりする物語でした。それにしても、浅田さんが元陸上自衛官だとは知らなかったな〜。

  • 2023.02.15
    私の中学の野球部のひとつ上の先輩は、先輩だから威張ってました。
    野球はヘタでした。せめて尊敬できるヒトが1人でもいれば、こういう短編にもなったかもしれませんが、私の中学時代の理不尽を書いたら「イヤミス」になってしまうなあと、本編とは関係ない読後感。

  • 人間味溢れつつもカラッとした雰囲気の短編。
    私は集団行動が苦手で部活すら続かなかったタイプなので、読書を通してこういう世界を垣間見るのも良いなと。

  • 1970年代の自衛隊の物語。
    9編の短編連作集で、当時の自衛隊の若者たちの物語となっています。
    戦闘シーンではなく、彼らの日ごろの生活が赤裸々に面白く、楽しく、哀しく語られています。
    当時の自衛隊の世論での扱われ方がよくわかります。そして軍隊ではなく自衛隊であることの意味。

    ■若鷲の歌
    幽霊化と思いきや、その正体は..
    ■小村二等兵の憂鬱
    靴をなくしてしまった小村。その真相は
    ■バトル・ライン
    先輩を殺そうと決意するも..
    ■門前金融
    自衛隊員専門の金貸し
    ■入営
    入営した新隊員の困惑
    ■シンデレラ・リバティ
    外出時に会いに行った恋人、時間通りに戻れるか?
    ■脱柵者
    自衛隊から脱走..
    ■越年歩哨
    年越しに歩哨登板になってしまって..
    ■歩兵の本領
    除隊を決意した若者の自衛隊への決別

    でも、一番驚いたのは作者の浅田さんが元自衛隊員だったってこと!

  • 時は1970年代だろうか、まだベトナム戦争の頃。片身は狭かったが、自衛隊に身を寄せる何とも癖の強い男たち。おもしろおかしく、そして、時に泣かせてくれるストーリーは秀逸。

  • 単行本で出版されたとき、買いそびれてた本。
    う~ん。もっと、硬い本かと思ってた。

    幻冬舎アウトロー文庫で員数合わせの話は読んだことある。本書の話はチョット違ってたけど。
    70年代の自衛隊。理由のない虐めや暴力が横行するんだけど、浅田先生の文章力と設定で読まされてしまう。地連の街頭スカウトが職場だろうと借金だろうとヤクザだろうとアパートの借家契約だろうと話をつけてしまう。
    (引用)普段戦闘服を着ている自衛官が、返送して街へ出、これぞと思う若者に声をかけていたのだと、米山はそのとき初めて知った。
    (引用)「落ちこぼれはいない。なぜかわかるか」「(略)優秀な兵隊をつくるんじゃなくて、クズのいない部隊を作ろうとするんだ」

    戦後の矛盾の塊のような軍隊ではない軍隊だけど、色々なモノを飲み込んで存在してたんだなと感慨した。時代は違って、今はこんなんじゃないと解説にある。

    除隊の話もエッセイで読んだことある。自衛隊の同期に頼まれて自衛官を前にして公演をした話も読んだ。それでも読み応えあった。

    70年代は僕は小学生。友人の家には自衛隊のお兄さんが下宿してしていたし、小学校の帰りには東の空に咲く落下傘を見ていたので、自衛隊に対する世間の冷たい目なんて馬鹿な話と思っていたんだけどね。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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