新装版 猿丸幻視行 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062759359

感想・レビュー・書評

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  • 著者26歳のときの作品らしいが、その膨大な知識量と流麗な文体に驚いた。
    『インセプション』みたく入れ子構造になっているのだが、それが少し煩雑で余計に感じた(必要性は解説で理解したが、ほかに回避策はなかったものか)。
    物理トリックは後付け感が強く蛇足だったかなと。

  • 『邪馬台国の秘密』や『時の娘』の系統のいわゆる歴史ミステリーです。猿丸太夫=柿本人麻呂説をベースに展開する物語。この手の史実研究踏まえた創作作品大好きなので面白かった。
    主人公の片割れに若き日の折口信夫を持ってきたところが面白い。前半のいろは歌に含まれた諸々の考察から暗号解読までの盛り上がり、後半は歴史書の記載にまつわる考察と盛り沢山で満足。

  • 柿本人麿と猿丸太夫を同一人物とする、梅原猛の説を題材にした歴史ミステリ小説です。

    主人公の香坂明は、民俗学を専攻している大学院生です。彼の書いた「碩学折口信夫の足跡」という論文に関心を持った製薬会社の研究員がやってくるところから、物語は始まります。

    好きな夢を見られる薬を開発していた製薬会社の研究員・泉田卓司は、過去の人間の意識に同化するR試薬を開発します。薬のモニターを探していた彼は、明ならば高い確率で民俗学者・折口信夫の意識に同化することができると考え、彼にモニターになってくれないかと依頼します。じつは明は、猿丸太夫の子孫であり、猿丸一族に伝わる暗号「猿丸額」を説くことを夢見ていました。彼はかねてから、優れた直観力を持つ折口信夫ならば、この謎を解くことができるのではないかと考えており、R試薬のモニターとなって折口信夫の意識に入り込むことになります。

    こうして、物語の舞台は折口信夫の謎解きへと移ります。友人で猿丸宗家の息子である柿本英作から「猿丸額」の謎を教えられた信夫は、優れた頭脳で謎を解き明かしていきます。しかし、あと一歩のところで解決が得られず、やがて彼を残して柿本は地元の猿丸の里へと帰っていきます。その後しばらくして、柿本の妹の悦子とともに、猿丸太夫を祀る祭を見ることになった信夫は、柿本が首を吊って死んでしまうという事件に遭遇します。その死に方は、2年前に柿本の父が死んだのと同じ手口でした。

    薬によって過去の「幻視」体験が得られるというSF的な設定が、優れた直観力で古代を「幻視」する折口信夫の眼差しに重ね合わされていて、おもしろく読みました。また「解説」にもあるように、折口自身が猿丸の里によそからやってきた「まれびと」となり、「異人殺し」の事件に巻き込まれるという仕掛けも見事です。

  • おそらく初めて読むジャンルであろう歴史ミステリー?作品。
    折口信夫という名前は初めて聞いたが、柿本人麻呂はもちろん、宇合など少しマニアックな知識も日本史で学んだことを思い出して、物語とは別のところで楽しめた。また肝心の謎解き部分でも、歌の意味やそれにまつわるしがらみなどを紐解いていく過程おいて、歌人の技術がどれほど優れているかを味わうことができた。
    ただ、薬を飲んでタイムスリップをするという要素が必要だったのかは少し疑問に思った。単に初めから折口信夫が主人公の物語にしてもよかったのではないだろうか。

  • 歴史に関する自説を絡めようと頑張り過ぎで、ミステリーが弱くなった感が否めない。別冊「逆説の日本史」的に読むと楽しい。柿本人麻呂論や殺人事件、物語設定は面白い。そこに暗号解読までぶっ込んで、ごった煮にしすぎだと思った。

  • ううん、冗長すぎる。というか梅原信者か?頭をよく使って、楽しい読書とはいえるのだが、謎解きと物語があんまり寄り添ってないので、別々の、歴史ミステリー本と、小説を読まされている感じ。

  • 最初、面白いが、後半イマイチだった。

  • まんが「ちはやふる」にタイトルだ出てきて、図書館でたまたま見つけてかりてみた。

    この本をかくには、相当な知識が必要だと思う。ので、話の展開とかよりも、作者の知識をたたえたい。
    古典や歴史好きだとかなり楽しめると思う。

  • 暗号解読をとおして柿本人麻呂と猿丸大夫の同一説、さらには歴史に埋もれた闇を解明していく重厚かつ壮大な歴史ミステリです。この時代を知りたいという意欲が、多少なりともうまれました。本書を読了した最大の収穫です。

  • 昨今、百人一首が熱い。

    「超訳百人一首 うた恋い。」や「ちはやふる」という
    百人一首を扱った漫画がウケ、アニメ化している。※


    「超訳~」は、歌そのものの解釈と背景、
    「ちはやふる」は、競技かるたを扱っている。


    その百人一首と謎。

    そこにどんな謎が秘められているのか、
    話がどのように展開するのかが気になって手に取った一冊。


    "奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋は悲しき"

    歌の作者、猿丸太夫は、三十六歌仙の一人でありながら、
    生没年伝記ともに不詳の人物である。

    その猿丸太夫の子孫である昭和を生きる青年、香坂の家には、
    「猿丸額」という暗号と猿丸太夫の歌が書かれた額が伝わっており、
    その暗号を解いた者には、「神宝を得て天下を制す」という
    言い伝えがあった。


    香坂の精神が宿った明治の民族学者 折口信夫。
    彼と「猿丸額」が出会い、謎が明らかになっていくのだが、
    猿丸太夫の歌と暗号、
    猿丸太夫と柿本人麻呂の同一人物説、
    "いろは歌"、柿本人麻呂の挽歌、、、
    と、ひとつの謎がキーとなって次の謎を呼び、
    次々と連鎖しては解読されていく謎に、ぐいぐいと引き込まれていく。

    その謎も、誰もがよく知る実在の歌や人物を用いているため、
    謎が解かれるたびに生じる驚きも、
    通常のミステリーの謎解きとは違う性質となり、
    一瞬、ノンフィクションの歴史ミステリーを見せられているかのような
    錯覚さえ覚えてしまいそうになる。


    本作には、折口信夫と香坂という二人の主人公が登場する。
    これは、
     折口信夫には暗号解読、
     香坂青年には現在の学説の追及
    という明確な役割分担をすることで、
    読者に本作の暗号解読に必要な予備知識を与える為であると同時に、
    明治時代にはない学説を、明治時代の折口が自然に利用する為であるそうだ。
    (「猿丸幻視行」解説より)

    この予備知識も、非常に興味深く面白い。
    猿丸太夫と柿本人麻呂が同一人物説や
    柿本人麻呂の死因などの学説は、
    様々な書物に散りばめられた和歌や説明文などの
    小さな手がかりを拾い集め基にし推論しており、
    またその反論も歴史背景や使用言語などと幅広い。

    当時の歴史を紐解く作業とは、
    ひとつの大きなミステリーなのだろう。



    とはいえ、優れた作品にも残念な点はある。
    本作には2点あると思う。

    1点は、折口信夫と香坂という時代の違う主人公二人を
    同時に登場させるために必要だった
    本作の初めに語られる"薬品の力"云々のくだり。

    薬品の説明や背景などの書き込みがそれほどなく、
    どうしても安っぽいSF感が充満してしまう。
    被験者に香坂が選ばれる必然性も
    折口に精神が飛ぶ経緯も疑問点は少なからず残ってしまう。


    もう1点は、殺人のトリック。
    本作の主が、暗号解読と言い伝えの意味にあるためか、
    あまりに簡単なトリックとなってしまっている。


    上記2点は、残念な点として挙げさせてもらったが、
    躓きを覚えるほど残念すぎるはしないため、
    気にせず手に取り読み進めてもらいたい。

    歴史ミステリー好きの方にも、
    きっと満足してもらえるのではないだろうか。

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著者プロフィール

1954年、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、TBSに入社。報道局在職中の80年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞。退社後、執筆活動に専念。独自の歴史観からテーマに斬り込む作品で多くのファンをつかむ。著書は『逆説の日本史』シリーズ(小学館)、『英傑の日本史』『動乱の日本史』シリーズ、『天皇の日本史』、『お金の日本史 和同開珎から渋沢栄一まで』『お金の日本史 近現代編』(いずれもKADOKAWA)など多数。

「2023年 『絶対に民主化しない中国の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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